<前節・アビスパ福岡戦のレビュー>
相手の良さを消し、自分たちの持ち味を発揮しながら、勝負強く勝点3を手繰り寄せる──。アビスパ福岡を味の素スタジアムで迎え撃った前節は、まさにそんな展開となった。
東京ヴェルディ、川崎フロンターレという負けられない対決に連勝して迎えたゲーム。松橋力蔵監督はスターティングメンバーを8選手入れ替え、フレッシュな陣容で今シーズン初の3連勝をめざした。
試合前の予想では、福岡が前線からチャレンジングなサッカーを展開してくると考えていたが、始まってみると相手が思ったよりも前に出てこない展開に。福岡が中央を締めて東京の最終ラインやボランチからの縦パスを分断。ピッチの選手たちは無理にリスクを背負うことはないと判断し、相手の出方をしっかりと見ながら攻め手を探っていく。

その攻撃が実ったのは前半41分。安斎颯馬選手が右サイドの高い位置で左足に持ち直してクロスボール。このフワリとした軌道のボールをマルセロ ヒアン選手が頭でしっかりとミートして右隅のコースを突くゴール。東京が3試合続けて先制点を奪うことに成功した。
前半アディショナルタイムには福岡のウェリントン選手が2度目の警告を受けて退場処分に。1点のリードと数的優位な状況でハーフタイムを迎えた東京は、後半も相手の良さを消しながら効果的に時間を使って試合をクローズ。終盤に福岡のパワープレーに押される時間も見られたが、ピッチの選手たちが臨機応変な戦いを見せて3試合連続のクリーンシートを達成し、見事にシーズン初の3連勝を飾った。
<今節のプレビュー>
リーグ戦3連勝、3試合連続クリーンシートというフレーズが踊りがちな状況だが、当事者の指揮官や選手はまったく浮かれる素振りを見せない。それより普段以上に気持ちを引き締めて今節に臨もうとしている空気すら感じる。
相手の出方を踏まえた臨機応変なサッカーを見せられるようになってきた“力蔵トーキョー”。開幕前のキャンプから取り組んできたスタイルがしっかりと浸透し、誰が出てもクオリティの落ちないサッカーをめざしてきたチーム作りが実を結びつつある。
前節のアビスパ福岡戦は中2日という過密日程を踏まえてスタメンを8人変更。「勝っているチームは触らない」というサッカー界の格言があるが、松橋力蔵監督は「僕は逆に良い時だからこそ変えるということが、さらに良いものを作り上げるのではないかと考えています。負けて変えるほうがポジティブではない。勝ってどんどん変えていくなかに競争や責任感が生まれる。新しく出る選手は自分が出て負けたくないという気持ちもあるでしょうし、それが浸透していけばしていくほどチームの厚みはどんどん増していく」と自らの哲学を説く。

初志貫徹。凡事徹底。開幕前に描いていたチーム像が少しずつ形になりつつある。思いどおりの成績に結びつかなくてもブレずに取り組み続けた結果が、臨機応変さと選手層の厚みを感じさせる3連勝につながった。
対する横浜F・マリノスは現在7勝7分17敗の勝点28で17位。開幕から勝利に恵まれず、残留争いの最中にある。これまで一度もJ2リーグ降格を経験していない“オリジナル10”(Jリーグ開幕時に加盟していた10クラブ)は鹿島アントラーズと横浜FMだけ。意地でも残留を果たさなければならないという使命を胸に終盤戦に臨むことは予想に難くない。となれば、今節に懸ける想いも間違いなく強いはずだ。その姿勢がアグレッシブなプレスを仕掛ける現在のサッカースタイルにも反映されている。
東京は結果が出たことで自信を手にして余裕が生まれ、じっくりと試合展開を見極めながら戦いながら結果を出せるようになってきた。しかし、ようやく継続が実になり始めた段階。だからこそ足元を見失ってはいけない。しっかりと気を引き締めて試合に入り、相手とのバトルを制していくことがベースとなる。

そしてもう一つ、重要なポイントがある。試合の流れを見ながら、どうやって追加点を奪っていくかだ。やはり1点のリードでは“事故”が起こりかねない。リスクをしっかりと管理しつつ、展開を読みながら試合をクローズさせるためのゴールを陥れることができれば、さらに試合巧者になっていくことができるだろう。
連勝は数えるものではなく、手にした勝利を積み上げた結果でしかない。まさに一戦必勝。自信と手応えを胸に、青赤軍団が自らの歩みを証明する戦いに出る。

[松橋力蔵監督 インタビュー]

Q、3連勝で迎える横浜F・マリノス戦になります。
A、チームの雰囲気は非常に良いと考えていますが、決して緩めてはならないとミーティングで話し合いました。着実に進まなければいけません。登山に例えるならば、一度登ったら必ず下りるように、一度地に足をつけ、そこから次の戦いに向けて準備していこうと話をしました。
今、我々がどこに視点を置いているかが非常に重要なポイントだと考えています。この3連勝によって自分たちの良い流れがある程度できているなかで、『下位チームとの差をつける』と考えるのか、それとも『上位チームに近付く』と考えるのか、この意識の違いだけでもまったく異なります。我々は常に、どう登り詰めていくかという目線を持ちながらやってきたつもりです。もちろん、下位を意識する気持ちがまったくなかったと言えば嘘になりますが、選手たちが上を見据えてやってきたからこそ、今の結果があります。さらに上をめざすためには、常に高いところ、後ろを振り向かず、前に進んでいくという姿勢を、あらためてチームに徹底させていきたいです。
Q、前節のアビスパ福岡戦は、状況に応じた試合の進め方やプレーが多く見られました。
A、試合の早い時間帯に相手が一人少なくなったことも要因の一つではありますが、試合序盤は、リハーサル通りに誰が誰をマークしながら動くかという約束事が機能していました。映像で確認しても、福岡は非常にチャレンジングなチームであるため、そのプレッシャーを封じ込めることができたのは、我々がやるべきことをしっかりと遂行できた結果だと思います。
Q、横浜FMの印象を教えてください。
A、徐々にパワーアップしてきている部分があり、非常に割り切った戦い方をする側面もあります。そのため、攻撃面での脅威は、これまでの横浜FMとは少し色が違うと感じています。しかし、我々が先手をとり、試合をリードし、コントロールできれば、十分に対応可能だと考えています。戦術的な側面はもちろん、インテンシティといった我々の長所を全面的に出す上で、非常に良い相手です。また、相手は非常に高いディフェンスラインで構えてくるので、その背後のスペースを我々が効果的に突いていくことができれば、勝機は見えてくると思います。
Q、選手を入れ替えながらでも結果が出ているのは、チームの総合力が高まっている成果だと思います。
A、様々な見方があると思います。選手からすれば、調子が良い時に起用され、結果を出せば継続して使ってもらいたいと思うのが当然であり、それによってチームが安定するという側面も確かにあります。しかし私は、チームが良い状態の時だからこそメンバーを変えることが、さらに良いものを生み出すと考えています。これは私のこれまでの経験から得た哲学とまでは言いませんが、一つの考え方です。『負けたからメンバーを変える』というのは、あまり良い循環を生みません。むしろ、『勝っている時に変える』ことで、チーム内に健全な競争と責任感が生まれ、新たに出場する選手は「自分が出た試合で負けたくない」という強い気持ちが生まれます。こうした心理的な効果だけでなく、この方針がチームに浸透すればするほど、チームの選手層は厚みを増していきます。その結果、誰が出場しても勝てるチームへと成長していくと考えています。もちろん、メンバーを固定して安定を図り、役割分担を明確にするというチーム作りの手法があることも理解しています。しかし私は、変化を加える方が、様々な形でチームに良いエネルギーをもたらすと信じています。
[選手インタビュー]
<室屋成選手>

Q、直近3試合を無失点に抑えられている要因を教えてください。
A、チーム全体として自信を持ってプレーできていることが大きいと感じています。特に守備の局面において、一人ひとりが責任感を持ち、自分の役割を果たせていることが結果に繋がっていると思います。
Q、顔を上げてプレーできる選手が増えているという印象があります。
A、各々が思い描くプレーを表現できている証ですし、勝ち続けるというのは、まさにこのような状態を指すと思います。チームが良い雰囲気で自信を持ち、試合中に自分たちの時間を作れるようになってきています。もちろん、この良い状態を継続していきたいと考えていますが、同時に、少しの油断が状況を悪くさせる可能性も理解しています。監督も常々口にしていますが、良い時期だからこそ、足元を見て、堅実にプレーし続けることが重要だと自分自身も強く感じています。
Q、前節のアビスパ福岡戦は、相手に早い時間帯で退場者が出たため、イレギュラーな試合展開となりました。
A、相手は試合開始から守備を固めていて、退場者が出たことでさらに引いて守る形になりましたが、自分たちでペースを握り、試合をコントロールしながら進めるという点では、これまでのリーグ戦にはなかった内容だったと思います。本来はあれだけ試合を支配することが理想的であり、実際に失点する気もしませんでした。今後も自分たちが主導権を握りながら、ゴールに向かうためのアイディアをさらに増やしていきたいです。ボールを保持する時間が増えれば、サイドバックも高い位置をとりやすくなるので、攻撃面での貢献も増やしていきたいです。
Q、次節の対戦相手である横浜F・マリノスは、おそらくハイラインを敷く相手です。
A、攻撃的なチームで、背後のスペースは自然と空いてくると思いますし、チーム全体としてそのスペースを常に狙っていく必要があります。相手は残留を争っていることもあり、必死に戦ってくることが予想されます。そのような相手に対しても受け身になるのではなく、自分たちが強気で自信を持ってプレーすることが勝利への鍵となります。前回横浜FMと対戦した時はアシストを記録しましたが、あのようなプレーをさらに増やしていきたいです。
直近の試合では3試合無失点ですが、僕らは必ずしも無失点で勝つことだけを考えているわけではありません。むしろ、もっと得点を奪えるチームだと思っています。1-0での勝利が3試合続いていますが、めざすサッカーの全てではありません。オープンな点のとり合いになるのであれば、それに対して真っ向に戦えるだけの力はあります。観ている方々にとって面白いサッカーを届けていきたいと思います。
<仲川輝人選手>

Q、無失点の試合が続いている要因はどこにあると思いますか。
A、90分間を通して高い集中力を保てていることが大きな要因だと思います。合わせて、ミスが少なくなりました。失点に繋がってしまうミスがこれまで多かっただけに、改善されてきていると思います。
Q、2点目を奪えるチームになっていくことが、チームのさらなる成長につながると思います。
A、精神面で言えば、もちろん2点目をとりたいですが、1-0の方が高い集中力を保てるのかもしれないです。それは実際にそのシーンにならないと分からないですが、ワンモアゴールというクラブのビジョンーがあるので、2、3点目をとりにいくところは追求していきたいです。個人としても、1点では物足りないですし、貪欲に追加点を狙っていきます。
Q、横浜F・マリノスとの試合になります。
A、東京の選手として、勝利のためにやるべきことをやるだけです。横浜FMに自分の存在をどうやって示すのかも、大事だと思っています。今の順位をみても、相手はチャレンジャーの気持ちで臨んでくると思っていますが、僕たちもまだまだ気を抜けない順位です。ここで浮かれてしまうようではダメです。しっかり地に足をつけて、連勝を伸ばすということを意識していくことが、一歩一歩、着実に成長して前に進むための過程として大切だと思っています。
Q、ハイラインを敷いてくるチームでは、仲川輝人選手が一番輝けるシチュエーションだと思います。
A、僕もそうですが、マルセロ ヒアン選手であったり、佐藤恵允選手など、前線の選手には裏をとることを得意とする選手が揃っているので、そこはキーポイントになると思っています。裏を狙いつつ、ボールをしっかりとコントロールして、ゲームを組み立てるプレーにもしっかりと加わりながら得点を狙っていきたいです。



