2025シーズン総括<br />
積み上げた手応えと課題<br />
前編

INTERVIEW2025.12.28

2025シーズン総括
積み上げた手応えと課題
前編

降格圏に低迷する時期もあった前半戦から一転、後半戦は6月の特別登録期間に獲得した新加入選手の活躍も手伝って大きく巻き返しに成功。新たに松橋力蔵監督を迎えて戦った2025シーズンは、苦しみながら課題と収穫を得て明確な積み上げを手にした一年となった。フットボール面が漸進にとどまった一方、ビジネスサイドではクラブ史上最高となる売上を記録し、新しい練習場計画を発表するなど、ポジティブなトピックスが並んだ。そんな一年間を川岸滋也社長に振り返ってもらうシーズン総括。前編は松橋体制一年目の評価とチームに見られた変化、それに伴う強化面でのサポートなどについて聞いた。

取材・構成=佐藤 景(フリーライター)



──2025シーズンの明治安田J1リーグは、11位という成績でした。昨シーズンの7位に比べて後退しています。まず、この結果についてどう受け止めていますか。
当然、順位には満足はしていません。前回(今年6月に実施した決算発表後のインタビュー)でもお話ししましたが、前半戦でかなり苦戦をして、一時は降格圏となる18位に沈む状況に陥りました。シーズン最初の数試合は3バックで戦ってチームとして前に進んでいると感じていましたし、ファン・サポーターの方と「毎試合ごとに答え合わせができている」と言葉を交わしたこともありました。当時は現場も手応えを感じながらできていたのですが、思うように結果が伴わなかったことで、次第にチームとして疑心暗鬼になっていったのかもしれません。18位にまで順位を落としたわけですから。

ただ、チームが崩壊するようなことはなかった。まとまりがありました。JリーグYBCルヴァンカップの3回戦敗退は残念でしたが、それによって6月に仕切り直す時間をとれたことで、新戦力を加えて戦術面でも4バックに切り替えた。そこでリスタートが切れたのはポジティブでした。 


──中断明けから勝点を着実に積んでいくことになりました。
4バックには選手もなじみがあったのだと思います。中断明け以降、現場からは考え方もやり方も整理できているという声を聞きました。苦しい時間は長かったですが、チームがまとまって臨めていた。中断期間後をシーズン後半戦と考えると、延期分を含めて20試合あったわけですが、勝点では31ポイントをとれています。順位も後半戦だけなら上位争いできるところにつけていました。優勝には程遠いという指摘は当然ですが、後半戦はチーム一丸となって一つでも上の順位を勝ちとろうと最後まで戦ってくれたと思っています。



──前半戦の不振は、新しい監督を迎えた影響が大きかったのでしょうか。
いえ、必ずしもそうとは思っていません。当初より、松橋力蔵監督が作るチームは4バックが基本で、状況に応じて3バックにもトライしていくという共通認識でスタートしていました。実際、沖縄キャンプでも終盤までは4バックのトレーニングを続けましたし、最終日のトレーニングマッチには3バックで臨み、非常に良い感触を得ることもできていました。その上で、いざ開幕を迎えるにあたって、怪我やコンディションの問題によってサイドバックのポジションに少し懸念があったこともあり、監督としても考え抜いたなかで、開幕戦で3バックを採用することになったわけです。

結果から判断すれば、やはり3バックはなじまなかったという結論になります。スタート直後には進歩も感じられましたが、調子を崩した時にチームとして立ち戻る場所が見つからなかったという指摘もできると思います。これは監督とも話したことなのですが、過密日程のなかで3バックをやっていたところから4バックに切り替えるのはなかなか難しかった。ですから、どこかでもう1回、4バックに戻すための時間が必要でした。6月頭の2週間の中断期間をそれに充てられたのは大きかったですね。細かな修正は他にもありましたが、ファン・サポーターの方も、中断明けのフォーメーションの方がはまっていると感じられたかもしれません。

例えば、シャドーでプレーしていた俵積田晃太選手は左サイドに入ったことで、より特長が出せるようになったように感じました。結果としては、フォーメーション変更によって選手が活き活きとプレーできた部分はあったのだと思います。もちろん前半戦で苦しんだ理由はフォーメーションの問題だけではないですし、積み上げたものがあったことも間違いないのですが、この期間の修正が無視できないものであったことも確かだと思います。


──チーム編成の考え方として、どんなフォーメーションにも対応する陣容を整えておくことは難しいのでしょうか。
今シーズンがどうこうということはなく、毎シーズン、編成の考え方については私も聞いています。端的に言えば、各ポジションにレギュラークラスの選手をなるべく二人揃えて競争を促していきたいという考え方です。過密日程や色々なコンペティションが入り組んでいくなかでは、どうしても怪我のリスクがある。そのための三人目のバックアッパーのような存在も必要になりますが、すべてのポジションでそこまで準備していくのは、そもそも人材の観点からも難しい。

例えば、左サイドバックは日本全体で見ても絶対数が多くない。左利きのセンターバックにも同じことが言えます。レギュラークラスの選手を複数揃えることも難しい。そういう意味でポジションによってはどうしても各チームで獲り合いになる。イメージしたものを完全な形で編成するのは難しい仕事だと感じています。


──後半戦の戦いぶりについても、どう受け止めたのかを聞かせてください。
まず、ある程度ターゲットにしていた選手を補強することができたなかで、チームに加わった新戦力が活躍してくれたことは大きかったと思います。4バックに切り替えるなかでアレクサンダー ショルツ選手と室屋成選手がメンバーに加わり、ゴールキーパーにキム スンギュ選手が加入したことも大きかった。後ろが安定したことで攻撃の選手たちは安心して前にいけるようになったと感じます。チームのメンタル面が大きく変わり、前線にボールが収まる長倉幹樹選手が入ったことで良い流れができました。

それを強く感じたのは、6月の“横浜2連戦”でした。アウェイで横浜F・マリノスに3-0で勝利し(第15節/6月25日)、中2日で臨んだホームの横浜FC戦も2-1で勝ち切った(第22節)。特に横浜FC戦はアディショナルタイムのラストプレーで森重真人選手がペナルティキックを決めて逆転勝利を手にする展開で、選手もチーム全体も自信を得て、その後は確信を持ってプレーできるようになったと感じました。



──前半戦に見られた迷いが払拭されていったということですね。
そうですね。順位的に下位同士の対決となった横浜FM戦、横浜FC戦を乗り切って、チーム内で前を向いて進めるという想いが強くなった。そこから一つでも順位を上げていこうというメンタルになりました。具体的には先ほど話した守備のテコ入れが成功して、いかに失点を抑えていくかにしっかり向き合うこともできた。クリーンシート(無失点試合)の数が増えているのは、その証左だと思います。前半に比べて粘り強く守れるようになりました。リーグの上位陣との戦いでも拮抗した勝負ができるようになり、サンフレッチェ広島やヴィッセル神戸とのアウェイゲームでも、我慢に我慢を重ねながら勝点1を持ち帰ってくるなど守備の改善が見られた。簡単に崩れずにポイントをもぎとる試合が増え、自分たちのなかでも改善している感覚、感触がありました。


──1シーズン戦ったことで松橋監督と共有されたものも多かったと思います。
それはもちろんあります。そのうえで来シーズンの予算について精査しています。まずは今シーズンの最初の設定がどうだったのか。今夏にチーム人件費を増額したわけですが、木村誠二選手や野澤大志ブランドン選手が海外移籍で残してくれた移籍金を有効に活用することも含めて、そもそもの予算の設定をどう考えるべきだったのか、2025シーズンは色々と考えさせられました。まさに来シーズンの編成を進めているところですが、J1リーグの上位で戦っていくことを考えた時に、今までの考え方では追いつかないと感じています。我々がスタンダードとしてきたものを少し変更しながら、新しいシーズンに臨みたいと思います。これまでもフットボール側に投資をしていなかったわけではないですが、我々の経営規模や体力も考えながら、とにかく目一杯やってみようという話をしているところです。


──最終節を控えた12月4日には松橋監督の続投が発表されました。この理由を改めて教えてください。
後半戦の戦いを精査した時に、ここでリセットするよりも継続したほうが高みに到達するスピードが速いという判断に至りました。これは小原光城ゼネラルマネジャーからもメディアのみなさんにご説明を差し上げましたが、チームとしての積み上げが明らかに感じられたことが最大の理由です。後半戦だけで見ていけば、20試合で勝点31(19試合なら勝ち点30)、その数字を単純に倍にすると勝点60となり、今季の順位でいえば6位と並びます。後半戦の試合内容を考えても、チームとして上位に食い込むポテンシャルはあったという認識です。

守備で失点が減り、勝点をもぎとる試合が増えたのは事実です。加えて、我々がベンチマークにしている数値も過去数シーズンと比較してもしっかりと向上していました。たとえば、その一つにはゴール期待値があります。後半戦は堅い試合が多かったので数値そのものは少し下がりましたが、それでもシーズンを通じてこれまでより高い水準でした。30メートルラインへの進入率やペナルティエリアへの進入回数、相手陣内でのボール保持時間なども改善しています。攻撃面の指標は悪くありませんでした。

それでも前年よりも得点が減っているという結果がありますので、その受け止めと課題認識は必要です。ゴール前での精度アップや単純なクロスボールを上げるばかりでなく、チャレンジングなパスの数を増やすことなど、追求すべきところが明確になったとも感じています。有効なセットプレーを増やすこと、アルビレックス新潟との最終節で見られた自分たちのスローインからの安易なボールロストが失点につながるなど、継続するなかで細部を詰める作業をしっかりやり切れば、次の景色が見えてくるのではないかと考えています。そういった考え方をベースに松橋監督に契約延長をお願いしました。


──継続するメリットをとったと。
東京はおおよそ1年半ごとに監督が替わってきた歴史がありますが、クラブとしてリーグタイトルをめざすとした時に、3年、4年という長期政権を担う監督とともに階段を上っていくイメージがあります。それが松橋監督であれば、素晴らしいことですし、そうなるようにクラブとして努力していかなければなりません。ただ、そういう状況にならなければ、色々な部分で厳しく考えていかないといけないのは当然です。 


──ホーム最終節では、スタンドからはブーイングが聞こえました。率直にファン・サポーターの反応をどのように感じられましたか。
松橋監督が話している最中ではありましたが、あれはクラブに対する意見表明だと受けて止めています。ファン・サポーターのみなさんからすると、ストレスの溜まるシーズンだったということだと理解していますし、その想いをどこかで表明したかったのだと受け止めています。「もっとちゃんとやってくれ」という意思表示で、そういう叱咤激励をいただいた。ここはしっかりと身を引き締めて、新しいシーズン、そしてその先の未来に向かって取り組んでいきたいと思っています。



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2024シーズン総括 ビジネスとフットボール(後編)
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