2024年度決算報告と<br />
クラブの現在地(後編)

INTERVIEW2025.6.27

2024年度決算報告と
クラブの現在地(後編)

スピードアップし
次の経営フェーズへ



4月24日に発表されたFC東京の2024年度決算報告。営業売上は前年度を上回ってクラブ史上最高を更新する69.89億円を記録し、前年比で17.9%増。最終利益も7200万円となり、黒字転換を達成した。

経営面で順調に数字を伸ばす一方、チームは2025シーズン前半戦で思うような結果を出せていない。サッカーというスポーツの難しさを味わう結果となっている。

今回の経営レポート後編では、川岸滋也社長に詳しく話を聞いた。

取材・構成=佐藤 景(フリーライター)
取材日:2025年6月14日(土)セレッソ大阪戦試合前



──2024シーズンの決算が発表され、売上高69.8億円で過去最高を記録しました。
約70億円の売り上げを記録し、営業利益も約1億円として黒字転換することができました。多くのファン・サポーターのみなさま、パートナーのみなさまに支えていただいた結果で、まずは感謝を申し上げたいと思います。それから私たちのスタッフ全員が頑張った結果でもありますので、そこに関しては「ありがとう」と言いたいですし、みんなの仕事に関して、とてもうれしく思っています。


──各セグメントについての分析もお聞かせください。
私が経営を預かってからの3シーズン、初年度から2年目、3年目と一足飛びに来たわけではなく、着実に歩んできたという実感があります。まずはチケット収入(入場料収入)について説明させてください。

優勝争いをした2019シーズンが約11億円で、2023年度でその数字を超えることができました。そして2024年度はそこからさらに2.4億円を上積みできました。14.5億円という結果は過去最高の数字です。当初はなかなか難しいのではないかという考えもありましたが、「頑張った」という印象を持っています。

2024シーズンはおかげさまで約630,000人の方にスタジアムにお越しいただきました。いろいろな声がありますが、国立競技場で4試合のホームゲームを開催し、トータルで約210,000人の方にご来場いただいています。なかには招待でお越しいただいた方もいますが、そうした“種蒔き”を経て、多くの方にチケットを買っていただいた結果だと考えています。招待比率をきちんとコントロールしながら取り組めた点もポジティブな結果につながりました。



──2024シーズンはU-12チケットの導入もありました。こちらの効果はいかがでしたでしょうか。
集客分析ではファミリー層が増えたという結果を得ています。クラブとしてファミリー層の開拓に注力してきたので、一定の成果が出たと見ています。それからもう一つ、クラブとしてインバウンドのお客さまに来ていただくことにも力を入れてきました。インバウンド集客のナンバーワンをめざそうということも目標に掲げました。英語はもちろん、ポルトガル語、中国語の繁体字と簡体字など、多言語で情報を発信しているのもそのためです。今年もドイツ語、韓国語を追加しました。Jリーグとも連携して、浅草寺周辺で外国の方にチラシを配ったり、都内のホテルや英国風パブ『HUB』に英語のチラシを置かせていただいたり、そういうアプローチも地道にやりながら、ネット上とリアルの双方における接点づくりを組み合わせてやっています。

これはJリーグと意見交換をしている範囲で聞いた話ですが、現時点ではFC東京がおそらくインバウンドの集客に関してナンバーワンだと。数字自体は上がり続けていますが、まだまだ増やしていきたい。今後はさらに重要な収益源になると考えますし、FC東京がグローバルな存在になる足がかりにしたいと思っています。


──2023シーズンに大きく伸びたグッズ収入についてはどうでしょうか。前年度よりも1.5億円増加し、7.6億円で過去最高の売上となっています。
昨年末の話でも触れましたが、エンブレムを変更した効果はありました。多くの方が、新しいエンブレムのアイテムを買ってくださったと思います。ただ、最も大きかったのは、ユニフォームです。年々、買っていただけるファン・サポーターの方々が多くなっているのですが、ちょうど1年前のインタビューでも話したとおり、「在庫について強気で持とう」という考えを実践できました。

スタジアムの売店で欠品しているのは本当にもったいない。昨年は、大きなサイズや長袖などは欠品しているものもありましたが、ほぼ年間を通じて販売することができました。少しは在庫も残りましたが、数字をしっかりと出せています。やっぱりスタジアムの売店にユニフォームが並んでいるのは壮観というか、見栄えもしますし、初めて来場した方にとっても心躍るものではないでしょうか。実はインバウンドで来場した方、外国から来た人が結構ユニフォームを買ってくださっています。海外のサッカーカルチャーとして、観戦記念にユニフォームを買うのが当たり前なのか、そういう場面を何度も目の当たりにしました。そうしたお客様のニーズは大きいサイズであることが多く、大きいサイズの在庫が少し足りなくなるような現象もありました。新たなデータを得たので、今シーズンはそういう点にも気を配っています。


──大きなサイズのニーズからもインバウンドの集客効果が実感できたわけですね。
シーズンの途中で在庫がなくなってしまうと、どこまで何が売れるのか、自分たちのポテンシャルそのものを測れなくなってしまう。ですが、在庫を持ってシーズンを通して販売することで、いろいろなことが見えてきました。これはものすごく大きい成果だと思います。


──広告収入も伸びています。29.8億円は過去最高の数字です。これはどういうトライが実を結んだのでしょうか。
広告料収入は約30億円まで伸ばしてきました。営業体制を整えながら、着実に成長させてきた部分だと思います。表には見えないところで、パートナーの方々に向けた“おもてなし”にもしっかりと取り組んできました。他クラブと横並びで比較してみると、まだまだ足りないところがたくさんあると感じますが、一つひとつ充実を図りながら満足度を上げられるように努めています。

2025シーズンに入って最初の発表として、京王電鉄さんがユニフォームパートナーになったこと、そしてサプライヤーとしてニューバランスさんと長期契約を結んだことを発表できました。これは2024シーズンに取り組んできた成果が今シーズンにつながったものです。また、日本航空さんとも新規でオフィシャルパートナー契約を締結しました。ここは今後、さまざまな取り組みができると考えています。



──2024年度は地域との関係性をよりいっそう深めた一年でもあったと思います。
そうですね。ここは数字として見えにくいですが、ホームタウンでの活動はかなり活発に進めさせていただきました。東京都との包括連携協定『ワイドコラボ協定』というものがあるのですが、スポーツ分野以外にもさまざまな取り組みをさせていただいています。スタジアムに来ていただくと分かるのですが、毎試合、何かしら東京都と連携した取り組みを行っています。それから京王線沿線につながっているエリアをしっかり維持していくことも重要ですので、新宿区、渋谷区、そして世田谷区ともこれまで以上に関係を深めることができました。

地域の子どもたちに身体を動かす楽しさを知ってもらうために、小学校の体育の副教材として『あおあかドリル』を配っているのですが、今年から新宿区も対象になりまして、おかげさまで出資いただいている6市(小金井市、小平市、調布市、西東京市、府中市、三鷹市)と杉並区、また渋谷区も含めて約19,000人の小学1年生の子どもたちに配布することができました。教育の現場に必要なものでありながら、私たちとしても子どもたちがFC東京に触れてくれる取り組みとして積極的にやっているところです。新宿区が加わったのは非常に良かったと思っています。



──重要視されてきた項目ではスクールも挙げられると思います。
おっしゃるとおりで、私が重要視してきたポイントの一つです。スクール生については、ご両親、さらには祖父母も含めて、青赤ファミリー、FC東京ファミリーであると考えています。一人のスクール生に対して、少なくとも親御さんやそのご家族など複数人との関係ができるわけですから、それはまさにクラブとしての普及活動ですし、今後もスクール事業を拡大していきたいと思っています。2023年の南大沢、2024年の西東京に続き、2025年は烏山と国立に新たに開校できました。少子化の波を感じている状況ではありますが、今後も開校できる拠点を常に探しながら、しっかりとサッカー少年少女を増やしていきたいと考えています。



──Jリーグ各クラブの決算報告について、2024シーズンから移籍関連費用が発表されるようになりました。FC東京の移籍金収入は約6億3000万円となっています。
Jリーグが移籍金収入の公表を決めた背景には、シーズン移行やU-21リーグのスタートがあると思います。移籍金の収入を各クラブでしっかり獲得しましょうという考えがあるのでしょう。これらを可視化することで、各クラブがどのように取り組んでいるのかが明確になりました。我々で言うと、昨夏に松木玖生選手が海外に移籍しましたので、それが移籍金収入の大きな部分を占めています。


──それに関連する項目ですが、トップチーム人件費についてはどう捉えていますか。FC東京は約27億円でした。
これは各クラブ共通だと思いますが、選手に払う報酬の基本的な部分と、選手獲得に要したいわゆる移籍金=違約金と言われる金額を足し算したなかで、人件費を含めた予算を組んでいます。その割合をどこにどのように置くのかが重要で、最適解を出すのは本当に難しい。ただ、私たちの基本的な考え方として、FC東京はアカデミーの選手をトップチームに上げられるクラブだという認識があります。つまり育成をしっかりさせることで、移籍金をかけずにチーム強化ができるということです。

もちろんそれはアカデミーにしっかりとコストをかけて選手を育成しているからなのですが、その意味で他クラブに比べると、全体の人件費の中で移籍金に掛かっている金額は少ないと思います。それがクラブとしての方針でもありますから。


──移籍については、選手供給型のクラブになっていくということでしょうか。
供給型クラブという言葉のイメージとは少し違う形になると思います。供給型クラブは積極的に選手を国内、国外に売っていくものだと思いますが、我々はそういった考え方ではなく、トップチームの編成において、自クラブで育てた選手を引き上げることを重要視するということです。我々はアカデミーからの昇格に大きなウェイトを置いて優先しながら、足りない部分を外から獲得することでチームを編成していくイメージになります。もちろん、FC東京のアカデミーの存在が大きいからこそその選択肢がとれるのです。

ただ、先ほどもお話ししたとおりで、多くの選手は海外移籍を望んでいますから、それが実現する時にはしっかりお金を残してほしいとは思っています。


──その一方で成績を上げていくためには、トップチームの人件費自体を増やすことが必要との考え方もあります。事実として、人件費とリーグ戦の順位には相関関係が見てとれます。
それはそのとおりだと思います。昨年もリーグ戦の順位と人件費の相関関係について話をさせてもらいましたが、そこは無視できない事実として受け止めています。その観点で見た時に、我々が今、どういうポジションにいるのかを考えると、人件費としては優勝するには少し実力が足りない位置ということになる。この現実は受け止めなければいけないと思っています。

人件費の絶対値は年々上がっていて、クラブとしてそのスピードについていけるかどうかが問われています。昨年で言うと、移籍関連費用を含むチーム人件費において7チームが30億円を超えていました。それに対して東京は27.1億円。もう一段階、二段階、上げていくのを求められているのかも知れません。そうすると、私が就任した2022年から平均で0.5億円~1億円程度のペースで段階的に増やしてきましたが、そのスピードでは足りないということになります。


──人件費が上昇している現状を踏まえて、クラブとして今後はどういう方向性を打ち出していくのでしょうか。
少しずつシフトチェンジしていくことが必要だと考えています。ここ3年間はビジネスで伸びた部分を人件費に回していくような考え方でやってきましたが、ビジネス面ではすでにかなり磨き込んでいますから、ここからさらに大きく伸ばせるとは考えにくい。昨年度の売上は約70億円でしたが、それは移籍金収入が6億円ぐらいあったうえでの数字です。現状の実力値で言うと、おそらく売上は60億円台半ばぐらいでしょう。

そこからさらに伸ばしていくには、例えばチケット収入だろうと、広告収入であろうと、やはりより多くの方々にサポートをいただかなくてはなりません。それには上位で戦っている姿をお見せして、リーグ優勝に手を掛けるような姿を多くの人に見ていただくことが必要だと見ています。そうしなければ、ここからさらにファン・サポーターのみなさんの数が増えていくような景色はなかなか想像できないですし、そういう状況になればパートナーとなる企業の方々にも一層興味を持っていただけます。

これまでどおりビジネスを磨き込み、それをチームへの投資に回していくのでは時間がかかり過ぎる。もっとスピードを上げるためにも、これからはいわゆるフットボール面の投資を先行させるようなフェーズに切り替えていかければならない。私個人としてはそう思っています。その点はMIXIや、経営に参画いただいている東京ガスさんなどいろいろな方々も含めてご理解をいただきながら、どう進めていくのかを考えていきたい。理想としては、育成をより充実させて選手を育てつつ、適材適所の編成でチームを強化して、常に上位で戦う姿を見せられるようにしたいと思います。


──早くも2025シーズンのリーグ前半戦が終わりました。今年度の売上についてどういう見通しを持っているのかを教えてください。
昨年度の上振れ部分は、移籍金収入でした。先ほどもお伝えしましたが、今年度は今のクラブの実力どおりで横ばいか、もしかしたら少しダウンするかもしれません。ただし、ここからどうすれば上積みしていけるのかという道筋はハッキリしているので、経営側として今年度はさらに上に行くための踊り場にいるのだと考えています。フットボール面の投資を増やしながら成績を上昇させ、売上が拡大する。その両方が噛み合うことで次のフェーズへ進んでいくことができます。スピード感を持って取り組みたいと思います。



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2024シーズン総括 ビジネスとフットボール(前編)
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