<前節・ファジアーノ岡山戦のレビュー>
序盤から主導権を握り、ポゼッションしながらシンプルに裏を狙う攻撃を織り交ぜていく東京。相手陣内で試合を進め、ボールを失っても即時奪回を図って厚みのあるサッカーを見せていく。
5バックの布陣でゴール前を固めるファジアーノ岡山の堅守に阻まれながらも試合を優勢に進めて迎えた後半の立ち上がり、青赤のホットラインがついに開通する。高宇洋選手の狙いすましたパスに合わせて抜け出した佐藤恵允選手が右足アウトサイドで柔らかなトラップを見せ、素早く右足で流し込んで先制点。抜群の得点感覚でネットを揺らした背番号16はゴール裏へ向かって一目散にダッシュし、雨中で応援してくれていたファン・サポーターと喜びを分かち合った。

その後も相手の守備網を打ち破るべく、攻撃に厚みと変化を加えていく東京。2トップの一角が中盤に落ちてボールを受けるだけでなく、ボランチがペナルティエリア付近まで押し上げることで1トップ2シャドーのような形になり、相手の出方を見ながらシステムを可変させて岡山の堅守を崩しにかかる。
一時はコーナーキックから失点を許して同点とされてしまうが、焦れずに攻撃を続けた東京に勝利の女神が微笑む。後半43分、高選手の浮き球パスにまたも佐藤選手が抜け出し、ファーストタッチで相手ゴールキーパーをかわしたところを俵積田晃太選手がプッシュして勝ち越しに成功。さらに同45分には高選手の横パスを受けた佐藤選手がグラウンダーのミドルシュートを決めて勝負あり。
前半に崩しどころを探り続け、後半に臨機応変なサッカーで岡山の堅守を打ち破って3-1というスコアで快勝を収め、J1リーグ残留が確定。セットプレーからの失点に課題を残しながらも、チーム全体に球際の強さと切り替えの速さ、そして勝負強さが感じられる大きな勝利となった。
<今節のプレビュー>
“力蔵トーキョー”の進化と真価が問われる2連戦だ。会場は国立競技場。FC町田ゼルビアのホームゲームとして行われる明治安田J1リーグ第36節、青赤軍団が“俺たちの国立”に乗り込む。
今週末のリーグ戦、そして来週末に控える天皇杯準決勝で町田と続けて対戦することになった東京。彼らがJ1リーグに昇格してきた昨シーズンから三度の対戦でいずれも敗戦を喫していることもあり、誰しもがこの2連戦で悔しさを払拭したいと考えていることだろう。仲川輝人選手も過去の戦いを振り返りながら「ここで汚名を返上したい。東京のプライドを懸けて勝たなければいけない試合になる。ここで勝って天皇杯に勢いをつけたい」と意気込みを語る。

東京としては8月31日に行われた第28節名古屋グランパス戦以降、8試合中6試合で5バックを採用するチームと対戦してきたことで、システム上の狙いどころや戦い方が徐々に積み上がり、明らかに臨機応変なサッカーができるようになっている。特に前節のファジアーノ岡山戦では選手たちが相手の立ち位置をしっかりと見極めて3ゴールを奪った。松橋力蔵監督も「ゲーム中に彼らなりの工夫がすごくたくさん見えてくる。正しい判断だけでなく、面白みを見つけてトライするような気持ちがあればなお良い」と、ピッチ内の攻撃にさらなる変化を加えていくことにも期待を寄せる。
対する町田は現在、16勝9分10敗の6位。今シーズンはAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)に出場し、ここまでリーグステージで1勝2分1敗という成績を収めている。今週火曜日にはメルボルン シティFC(オーストラリア)とホームで対戦。開始直後のオウンゴールで先制点を献上し、終了間際に決勝点を許して1-2で敗れた。チームとしては9月以降の公式戦で複数得点をマークしたのが10月21日のACLEでの上海海港戦のみで、得点力不足に悩まされている現状もある。
ただし、それでもしっかりとチャンスは作れており、リーグ戦ではセットプレーから13得点、クロスボールから12得点をマーク。この2パターンがチーム総得点の半数以上を占める。ロングスローも脅威で、前線にターゲットとなる選手を置いてシンプルにロングボールを入れてセカンドボールを拾う戦い方は変わらない。リバウンドメンタリティを発揮してくることも予想されるだけに、今まで以上に球際のバトルが重要になりそうだ。
特に警戒すべきは、日本代表としても結果を残してきた相馬選手だろう。縦への突破、カットインしてのシュート、ロングスローなど決定的なシーンに絡んでくるアタッカーで、彼には松橋監督も「ポイントになる選手。彼の特長が十分に活かされている」と警戒する。
そしてやはり鍵を握るのは、町田が得意とするセットプレーへの対策だ。東京が課題としてきた部分でもあり、しっかりと反復して対応してきたところでもある。相手がここを前面に押し出して戦ってくることは予想に難くないが、松橋監督は「そこはぜひ前面に出していただきたい。それをしっかりとひっくり返すくらいの準備は反復回数も含めてしっかりやってきている」と自信をのぞかせる。

天皇杯準決勝へと続く連戦、そして昨シーズンからの3連敗がどうしてもフォーカスされがちだが、指揮官や選手たちは過去も未来も意識し過ぎず、今節のゲームに集中する。松橋監督が「過去の状況やデータは何の影響もない。どう気持ちをしっかり持って戦うか」と語れば、前節で2得点1アシストの活躍を見せた佐藤恵允選手は「もちろん2試合とも勝つつもりですけど、まずは目の前の試合にどう勝つか」としっかりと目線を合わせて一戦必勝の構えで国立に乗り込もうとしている。
ロングボール、セットプレー、ハイプレスという相手のスタイルに対してポイントになるのは、やはり球際の強さと1対1の勝負になるだろう。キャプテンの小泉慶選手は「しっかりと試合に入ることで、自然と自分たちにもチャンスがくるはず。シンプルに対人プレーで負けないことが大事だし、相手の戦い方はみんなも分かっている。受け身にならず、局面のバトルでしっかりと勝っていきたい」と勝負のポイントを挙げる。
開幕前のキャンプから積み上げてきたサッカーが、しっかりと実を結びつつある。それを結果で証明して“収穫の秋”とするためにも、今節で町田から勝点3を奪い、自信を確信に変えながら翌週以降へと進みたい。気迫の戦いで相手を上回るべく、青赤軍団が国立のピッチに立つ。
[松橋力蔵監督 インタビュー]

Q、ファジアーノ岡山戦の振り返りとして、攻守それぞれの評価をお願いします。
A、結果としても良いものを得られた試合でした。自分たちが狙いとする部分を表現できたこともそうですが、どのような状況においても全員が目線を揃えてプレーできたことが、良かった点だったと思います。
サンフレッチェ広島、岡山と3バックをベースとするチームとの対戦が続いていますし、横浜F・マリノス戦前の対戦でも3バックないしは5バックのシステムを組むチームが相手でした。もちろん、それぞれのチームのストロングポイントやタレントに違いはあります。ただ、試合のなかで相手に上回られてしまう局面もありましたが、総合的に見ると、どのゲームもしっかりと相手の長所を抑えることができていたと思います。
攻撃面では、狙いとする形が表現できていることを踏まえると、似たようなシステムを組む相手との対戦が続いたことで、徐々に選手たちも慣れ始めたこともあるでしょうし、その成果が岡山戦では結果として表現できたと思っています。
Q、積み上げの成果と合わせて、より相手を見てサッカーをする部分についても成長が見られると思います。
A、選手個々の能力には、とても素晴らしいものがありますし、“選手たちなりの工夫”も試合を重ねるごとに解像度が上がってきています。そして、それは決して正攻法や正しいからその手段をとるというわけではなく、面白みや選手たちのチャレンジしようとする気持ちからトライしているようにも見えます。一つ言ったら十できる選手も個人としては増えてきているように感じますし、それは、攻守において確認しながら反復してきた成果だとも思っています。
Q、今節のリーグ戦、16日の天皇杯準決勝、ともにFC町田ゼルビアとの対戦になります。
A、どちらも勝つことしか考えていません。町田との連戦になるので、特に初戦が重要になりますし、リーグ戦の順位を少しでも上にするためにも勝利が何より重要です。これまで自分たちが積み上げてきたものをしっかりと表現していきたいです。
町田の印象としては、特に相馬選手のプレーには警戒が必要です。彼のドリブル突破、クロスボール、シュートが非常に活かされていますし、チームとしてはセットプレーにも強みを持っています。ブレずに進んでいる素晴らしいチームだと思います。だからこそ、そのような相手を上回ることで、我々の力を証明したいです。
[選手インタビュー]
<佐藤恵允選手>

Q、FC町田ゼルビアとの2連戦となります。
A、リーグ戦、天皇杯のどちらも勝つつもりです。ですが、まずは目の前の試合に勝つことが重要です。今は先のことをあまり言いたくはないですが、まずはリーグ戦を終えて、その先にまた天皇杯の試合があると考えています。リーグ戦で出てきた課題や収穫を踏まえて、次の試合にも臨むという意味で、1試合1試合しっかりと戦っていきたいです。
Q、町田の印象はいかがでしょうか。
A、ロングボールを多用してくるチームという印象です。ですが、中盤にも良い選手が多く在籍していて、アタッキングサードやミドルゾーンでのパスワークの質も高いです。サイドやウイングバックにも質の高い選手が多くいますし、トップ下の選手も積極的に仕掛けてくる選手がいるので、攻守ともにとても厄介なチームです。とても手堅いチームだと思っています。
Q、勝利のポイントはどの部分になると思いますか。
A、攻撃面では相手のスペースを誰が使うかが試合の鍵になります。その空いているスペースをフォワードの選手が使うのか、ボランチの選手が侵入して使うのか、もしくはサイドバックが内側に入るのか。いろいろなパターンがあるので、そこが鍵になると思っています。守備では1対1の局面で負けないことが大事です。町田には相馬選手など能力の高い選手がいるので、クロスボールを上げさせないことや、上げさせてしまってもしっかりと対応することが重要です。クロスボールの対応やセットプレーの練習は継続してやってきているので、そこも鍵になると思います。
Q、ここ数試合、佐藤選手自身のコンディションが良くパフォーマンスも高いという声が多く挙がっています。どのようなプレーでチームに貢献したいと思っていますか。
A、前節のファジアーノ岡山戦のように、得点もとれる、アシストもできる、チームで一番走って泥臭く守備もして、攻撃の時には様々なところに顔を出して、ビルドアップにも参加することが、今僕がやるべき役割です。これからの自分の成長を考えた時に、完璧な選手になるための過程だと思っています。そこはもう全部“俺がやってやろう”という気持ちでやりたいです。
<小泉慶選手>

Q、意地を見せなければいけない2試合になると思います。
A、同じ相手との試合が続きますが、一番大事なのは目の前の試合です。次の試合のことはあまり考えず、目の前の試合に勝つことを意識してしっかりやりたいです。今は僕自身としてもチームとしても、とにかく“勝つ“ということだけ意識しています。
Q、小泉選手自身もこれまでのJ1リーグでのFC町田ゼルビア戦ではすべての試合にスタメンで出場していますが、勝利することができていません。
A、町田がJ1リーグに昇格してきてから、一度も勝利することができていないので、意地を見せないといけません。今シーズンのホームゲームでは、チームとしても個人としても悔しい試合でした。個人としてもそうですが、チームとしても、残りの試合でしっかり意地というものを見せたいと思います。
Q、町田に勝利するためのポイントは何だと思いますか。
A、試合の入りだと思います。ゲームにしっかりと入れれば、難しい試合にはならないですし、自然と自分たちにチャンスがくると思います。シンプルに1対1の局面で負けないことなど、基本的なところをしっかりやる。結局はそういうところが勝敗を分けると思っているので、しっかりやりたいです。
Q、セカンドボールも勝敗を分ける重要な要素になると思います。
A、やはり1対1の局面もそうですが、セカンドボールの拾い合いの部分で負けてしまうと、試合のリズムを持っていかれてしまうので、しっかりそこで町田を上回ることができれば、東京のリズムになると思います。そこはチームとしても、個人としても意識してやっていきたいです。






