<マッチレビュー>
2025明治安田J1リーグはラスト5試合。金曜ナイトゲームに行われたアウェイのサンフレッチェ広島戦は、青赤イレブンがグレーカラーのSpecial Kitを前節に引き続き身にまとう試合となった。
広島はここまでリーグ戦33試合で23失点という堅守を武器に、しっかりと結果を積み上げてきた。首位まで勝点7差につけるリーグ戦のみならず、JリーグYBCルヴァンカップで決勝進出を果たし、天皇杯でも準決勝まで勝ち上がるなど国内三冠の可能性を残す。
個の力を存分に披露する安定した守備陣をベースに、アグレッシブなスタイルで試合を優勢に進めるチームだ。東京としては攻守に渡って対峙する選手との1対1をしっかりと制しながら、チームとして相手の守備網を崩していくことでゴールを、そして勝利を手繰り寄せたいゲームとなる。
“金J”の広島ナイトゲームに臨むスターティングイレブンは、ゴールキーパーが韓国代表から戻ってきたキム スンギュ選手。センターバックはアレクサンダー ショルツ選手と森重真人選手がコンビを組み、サイドバックは右にSAMURAI BLUE帰りの長友佑都選手、左には室屋成選手が入った。ボランチにはゲームコントロールに長ける高宇洋、東慶悟の両選手を置き、サイドのアタッカーは右に遠藤渓太選手、左にマルコス ギリェルメ選手を起用。2トップは第28節以来のスタメン出場となる山下敬大選手と、前節の清水エスパルス戦で豪快な同点弾を叩き込んだ佐藤恵允選手のコンビでゴールをめざす。また、自身二度目のベンチ入りを果たした山口太陽選手は節目のプロデビューを狙うことになった。
2024シーズン、台風の影響を大きく受けて苦戦した広島アウェイから一転して、天候に恵まれたエディオンピースウイング広島。スタジアムに駆けつけた多くの青赤ファミリーの後押しを受け、試合は19:03にキックオフを迎えた。
1stHALF—主導権を握られ、耐える展開に
立ち上がりから主導権を握ったチームは広島だった。東京はうまく引き込みながらカウンターを狙いたいところだが、なかなか良い位置でボールを奪取することができず、反撃に転じることができない。逆に高い位置でボールをロストして押し込まれるなど難しい時間が続いた。
前半8分には左サイドで室屋選手が自身のスローインからボールを受け直してゴールライン際まで侵入。うまくゴール脇のポケットを突いて折り返したが、ペナルティエリア内に詰めたフォワード陣がシュートに持ち込めずチャンスを作り切れない。
その後も広島がハイプレスを中心に即時奪回を図り、高い位置をとる両ウイングバックを生かしてサイドへ散らしながら攻め込むシーンが目立つ。東京も素早い攻撃から敵陣に迫りたいところだが、相手の帰陣が早いこともあり思うように攻め手を見つけ出せないまま時間が過ぎていく。
相手にペースを握られながらも何とか決定機を作らせない守備を披露していく東京。少しずつ相手陣内でのプレー時間を延ばしていくが、広島にしっかりと5バックと4枚の中盤でブロックを組んで対応され、崩し切るところまでは至らない。

前半は結局1分間のアディショナルタイムでもスコアは動かず。カギとされていた1対1の局面で守備面は奮闘したものの、そこからどう攻撃につなげていくか。攻撃の厚みと崩しの部分に課題を残してハーフタイムを迎えた。
2ndHALF—粘り強く戦い抜き、敵地で勝点1を獲得
先手を打ってきたのは広島だった。後半開始からインサイドハーフにトルガイ選手、左ウイングバックに中村選手を投入してピッチの活性化を図ってきた。そして後半4分に塩谷選手、同7分には入ったばかりのトルガイ選手に持ち上がりからシュートを打たれるが、いずれもキム スンギュ選手が鋭い反応からファインセーブを見せて得点は許さない。

続く後半11分にはスルーパスに抜け出されたところから波状攻撃を仕掛けられるが、ここもスンギュ選手が力強く飛び出してパンチングで弾き、そこから押し込まれるもディフェンダー陣が身体を投げ出して連続ブロック。気迫の守備でスコアレスのまま試合を進行させていく。

ここで東京ベンチが動く。後半17分、東選手に代えてボランチに小泉選手を、マルコス選手に代えて右のアタッカーに野澤零温選手をピッチへ送り出し、遠藤選手を左アタッカーに移す策を講じた。守備での奮闘が光るなかで、どうやって広島の守備網に綻びを生じさせていくか。攻撃面の変化に注目が集まる展開となった。
ようやく東京らしさが出たのは後半25分のことだった。右サイドで連動したプレスを仕掛けて即時奪回を見せると、高選手が左前方へ長いスルーパス。ここにオーバーラップしてきた室屋選手が走り込んで右足のインフロントで狙ったが、これは日本代表ゴールキーパーの大迫選手にセーブされてしまう。

一方、東京の代表選手たちも素晴らしいディフェンスを見せる。後半30分、広島が一気呵成のカウンターを見せたところに長友選手が対応。駆け抜けようとする中村選手をマークしながら裏のスペースと走り込む選手をケアし、ペナルティエリアに侵入されそうになったところで一気に間合いを詰めてシュートをブロック。さらにこのコーナーキックをファーサイドで荒木選手にドンピシャのヘディングで合わされたが、今度はスンギュ選手が鋭い反応で横っ飛びのスーパーセーブ。日韓の青赤代表戦士が守備で魅せていく。
ここまで耐えてきた守備陣の奮闘に応えたい東京は後半40分、遠藤選手に代えてプロデビュー戦となる山口選手がピッチへ。佐藤選手を左アタッカーに回してルーキーのストライカーを最前線に置く布陣に変更した。さらに後半44分には佐藤選手、山下選手から安斎颯馬選手、仲川輝人選手にスイッチ。最後の交代カードを切り、ピッチの選手たちに勝負を託した。
5分と表示された後半アディショナルタイム、東京がカウンターとポゼッションを織り交ぜながら広島陣内へと攻め込んでいく。交代で入った選手たちが積極的にプレスを仕掛け、相手のパスの出どころと出先を押さえながら主導権を握った。狙っていたオープンな展開に持ち込み、最後の最後まで白熱した一進一退の攻防が繰り広げられる。
試合はこのままタイムアップ。選手たちは最後まで集中を切らすことなく戦い抜き、難敵とのアウェイゲームで勝点1を持ち帰る結果となった。
MATCH DETAILS
<FC東京>
STARTING Ⅺ
GK キム スンギュ
DF 室屋成/森重真人/長友佑都/アレクサンダー ショルツ
MF 高宇洋/東慶悟(後半17分:小泉慶)/遠藤渓太(後半40分:山口太陽)/マルコス ギリェルメ(後半17分:野澤零温)
FW 山下敬大(後半44分:仲川輝人)/佐藤恵允(後半44分:安斎颯馬)
SUBS
GK 波多野豪
DF 岡哲平/土肥幹太/白井康介
MANAGER
松橋力蔵
GOAL
―
<サンフレッチェ広島>
STARTING Ⅺ
GK 大迫敬介
DF 佐々木翔/荒木隼人/キムジュソン
MF 中野就斗(後半30分:前田直輝)/塩谷司/川辺駿(後半35分:木下康介)/新井直人(後半0分:中村草太)
FW 加藤陸次樹(後半25分:菅大輝)/ジャーメイン 良/ヴァレール ジェルマン(後半0分:トルガイ アルスラン)
SUBS
GK チョン ミンギ
DF 山﨑大地
MF 茶島雄介/越道草太
MANAGER
ミヒャエル スキッベ
GOAL
―
[松橋力蔵監督 インタビュー]

Q、試合を振り返ってください。
A、守備が目立つゲームではあったと思いますが、最近のゲームではそういう課題もあったなかで、しっかりとリハーサルで積み上げた結果が出たと思います。これを続けなければいけませんし、今日のゲームはそういった部分で素晴らしいところが出ました。攻撃に関しては、しっかりと狙いをもってやったところもあるのですが、最終的に相手の矢印をどう折るかというところまでは至りませんでした。シュートも非常に少なかったですし、そこまで持っていくことができれば、本数が少ないにせよ一発でも仕留めれば、ゲームの展開も変わっていくと思います。そこはまだ課題が多い部分です。
Q、守備のディティールのところで、最終ラインでの精密さがあったと思いますが、狙い通りでしたか。
A、狙い通りというか、5バックの相手に対してどう守備をしていくかというところで、ベーシックなやり方ではあるのですが、最近のゲームではちょっとした掛け違いみたいなものが生まれて、サイドの守備という部分でも課題がありました。まずそこのポイントと、とはいえクロスボールを上げられる場面はあるので、センターバックがつり出された時に誰がそのポジションに入るのか。サイドでしっかりと遮断するためにサイドバックがもう一歩寄せて簡単に上げさせず、ボールが戻った時には押し返せるようにという反復を続けた結果は、今日は非常に良かったと思います。
Q、試合前に相手を前に出させるのを許容するという話もありましたが、実際にその通りになったのか、それとも相手にやらせ過ぎたのか、実際のところはどうでしたか。
A、実際には少しやられ過ぎたと思います。ただ、リハーサルでやっていた部分の狙いを選手たちはしっかりと持ってやってくれていたので、そこに入ったボールが次につながった良い攻撃もいくつかありました。ただ、それを仕留め切るところまでいく、という部分では課題があったかなと。前半は単調なクロスボールで終わってしまい、良い攻撃で押し込んだわりには、そこまで手数をかけずに攻めていました。もちろんチャンスだと思ってクロスボールを上げているのだと思いますが、単調だとまた自分たちが守備をする時間が長くなってしまうので、もう少し自分たちでボールを動かすことで自分たちの立ち位置をどうとっていくか、もしくはサイドでのローテーションをうまく使って相手のズレをどう生み出していくか、というプレーは少なかったと思います。
Q、代表チームから戻ってきた長友佑都選手、キム スンギュ選手についての評価をお願いします。
A、本当に、素晴らしい、の一言です。いろいろな条件下でやっている部分がありますが、疲れも見せず、そういった素振りもなく、パフォーマンスでチームに勝点をもたらす働きをしてくれました。最近のゲームでは本当に素晴らしい活躍をしてくれています。
Q、Jリーグデビューとなった山口太陽選手に試合前にどのような声を掛けたのかと、今後の彼に期待することを教えてください。
A、初めて出場するなかで緊張感もあったと思いますが、非常に素晴らしいプレーを発揮してくれたと思います。彼のところに収まることで局面が変わる可能性は十分にあるなという点で、良い働きでした。それをより長い時間で発揮できるようになるには、まだまだ経験値が足りないので、チャンスを得たときにそういうプレーがしっかりできれば伸びていく選手だと思います。今日のプレーという部分では非常に満足していますし、素晴らしいものだったと思っています。
Q、攻撃の交代カードを切るタイミングが遅い時間帯になった要因はどういったところでしょうか。
A、理由はいくつかあるのですが、自分たちが攻撃に転じているというよりは守備に回る時間が長かったというところで、後ろの選手を代えるというよりも前の選手をどう代えて、その状態を見ながら陣形が崩れないようなタイミングを、ピッチの中の選手を見ながら判断する必要がありました。もちろんフレッシュな選手が体力的には問題ないというところはあると思いますが、入るのが難しい展開だったかな、と。そういう部分では、相手もすごく攻撃的で背後にスペースもできていたので、早かったか遅かったかと言われると遅かったのかもしれませんが、その時間帯にでも狙いを持ってやってくれたと思います。
[選手インタビュー]
<山口太陽選手>

Q、メンバー入りはどのタイミングで知りましたか。
A、サンフレッチェ広島戦のメンバーとして帯同することが分かったのは、試合前日の練習の時です。もしかするとメンバー入りがあるかもしれないと少し思っていましたが、常に良い準備を心掛けていましたし、いつでも試合に出場できるような意識ではいました。試合出場には飢えていましたし、メンバーに食い込むためにトレーニングを重ねてきました。
Q、前後半をベンチからどのように見ていましたか。
A、広島はとても強いチームですし、守備の時間が長くなってしまう分、少ないチャンスで仕留め切らなければいけないと、試合を見ながら決め切るイメージをしていました。ピッチに立ったらしっかりと仕事をしたいと思っていましたが、得点を奪えなかったことは悔しいですし、次に活かしていきたいです。
Q、松橋力蔵監督からはどのような指示がありましたか。
A、前線で攻撃の起点になること、ゴールをめざすことを伝えられました。フォワードの選手として、ゴールを求められていることは分かっていますし、意識してピッチに入りました。
Q、トップチームに昇格し、デビュー戦が守備強度の高い広島が相手でした。あらためてどのような手応えを感じましたか。
A、やはり、どのような状況であっても得点を奪うことが一番の仕事だと思っています。今日の試合ではシュートも打てず、得点も奪えず、本当に悔しいです。ですが、起点になるプレーや身体の使い方で、うまくいったプレーもありました。もっと成長して、チームを勝利に導くフォワードになりたいと、あらためて思いました。
<長友佑都選手>

Q、試合の総括をお願いします。
A、非常にタフな試合でした。ただ、危ないシーンではチームとして堅く守ることができましたし、これまでクロスボールからの失点がチームとして続いてしまう守備の軽さも目立ってしまっていたので、守備については自信や手応えを感じた試合にできたと思います。
Q、クロスボールに対するケアもチームとしてクリアになっていたと思います。
A、僕自身は代表活動でチームを離れていましたが、この2週間でクロスボールの対応にしっかりと取り組んでいたことは共有を受けています。守り方、マークの受け渡し、対サンフレッチェ広島という部分で言えば、相手のウイングバックがゴール前に顔を出してくることなどを踏まえて、チーム内でのコミュニケーションやミーティングを重ねていくことで迷いなく試合に臨むことができました。
Q、堅く守ることができた分、良い攻撃への切り替えに課題も残る試合だったと思います。
A、広島も能力が高い選手が揃っていましたし、セカンドボールの回収もフィジカルの強さを活かして、相手の方が多く回収していたと思います。その圧力に押されてしまったと思います。どのように攻撃を仕掛けていくか、という部分については、より詰めていかなければいけない部分です。
Q、後半には相手のカウンターを防ぐシーンもありました。
A、あのようなシチュエーションは今までも多くありました。あのシーンでは、数的不利な状況でしたが、まったく焦ることはなく、ボールホルダーとうまく駆け引きしながらスペースを消して、シュートに対して足を出すまでの一連の動きはセオリー通りでした。守備の基本を体現できたシーンだったと思います。
<森重真人選手>

Q、最後までゴールを割らせませんでした。
A、課題となっていたクロスボールへの対応のところは、練習も含めてチームとしてすごく意識をしていました。その意識一つで変わるんだなと思いましたし、練習の成果を出すことができたと思います。
Q、良い守備はありましたが、そこからなかなか攻撃に転じられなかった理由はどう感じていますか。
A、守備が頭にありすぎた部分もあると思いますし、そこのバランスに難しさを感じました。今日はサイドハーフの選手の守備の貢献度は抜群でしたが、その反面カウンターの起点にはあまりなれていなかったと感じています。今日は攻守のバランスという課題が出たと思いますし、そのバランスをうまく調整していきたいです。
Q、全員で身体を張って勝点1をもぎとれたということは次の試合にどう活きてくると思いますか。
A、90分通して考えると悪くなかった試合だと思います。守備の時間は長くなってしまいましたが、ラスト15分では交代で入ってきた選手を含めてゴール前まで侵入することができていたので、そこで決め切るクオリティが必要だったかなと感じます。次はホームですし、守備のベースは保ちつつ、最後の仕留めるところにフォーカスしてやっていきたいと思います。

