<マッチレビュー>
多摩川を挟んだライバル対決。前節に続いて絶対に負けられない試合となる。
東京は川崎フロンターレ相手に、現在リーグ戦4連敗中。さらに直近の3試合はすべて0-3という屈辱的なスコアで敗れている現状は忘れてはならない。この試合を翌日に控えた長友佑都選手は、「正直、“クラシコ”と言えるのかというくらいにチームとしてレベルの差を見せつけられている」と警鐘を鳴らし、「ここから自分たちが見せていけるように頑張りたい」と意気込みを語った。もちろん過去成績が今回の試合結果に影響を与えるわけではないが、一瞬のスキを突かれての失点や自分たちのミスから苦しい状況を招く展開が散見された事実もある。いつも以上に集中力を高めて試合に入りたいところだ。
スターティングイレブンは前節から3選手を入れ替え。ゴールキーパーにキム スンギュ選手、最終ラインはセンターバックがアレクサンダー ショルツ選手と土肥幹太選手がコンビを組んだ。サイドバックは右に安斎颯馬選手を置き、長友選手を左に回す布陣をセレクト。ボランチは高宇洋選手と橋本拳人選手が並び、アタッカーは右に遠藤渓太、左にマルコス ギリェルメの両選手を起用。そして最前線で仲川輝人選手が約1か月ぶりに戦線復帰し、長倉幹樹選手と2トップを編成する4-4-2で試合に臨むことになった。
1stHALF—攻めどころを見極め、遠藤選手のヘディングで手堅く先制
立ち上がりからアグレッシブなサッカーを見せていく東京。前半3分には安斎選手の右クロスから長倉選手のヘッド、同4分には長倉選手が今度は振り向きざまのミドルシュートを放つなど、シュートで終わる姿勢を明確にしながら相手のカウンターを許さないことも心掛けたサッカーを展開していく。
前半10分にはセットプレーからピンチを迎えたが、エリソン選手のヘディングはスンギュ選手が鋭い反応で右手を伸ばしてファインセーブ。その後も少しずつ川崎にボールを握られる時間が長くなっていくが、しっかりと中央を締める守備で対応していく。
川崎の生命線はボランチからの配給。選手たちも相手の特長を封じる意識をしたコメントが試合前日には目立ったが、その言葉どおりに最終ラインからボランチ、ボランチから前線へのパスをしっかりと分断するようなポジショニングで相手に自由を許さない。
そして前半23分、前節から縦関係ごと左サイドに移っていた長友、マルコス両選手のコンビを起点に待望の先制点が生まれる。中盤でボールを奪取した東京は左サイドにボールを展開し、長友選手からマルコス選手へとつないで縦へ突破。深い位置からのグラウンダークロスが逆サイドに流れると、オーバーラップしてきた長倉選手が右足ダイレクトで再び折り返し、中央で合わせたのは遠藤選手。ドンピシャのタイミングでヘディングを叩きつけ、東京が待望の先制点を奪うことに成功した。
続く同29分には相手のプレスを受けながらショルツ選手、高選手とつないで持ち運ぶと、右サイドを全力で駆け上がった安斎選手に高選手から絶妙な浮き球パス。ここから安斎選手がグラウンダーで折り返すと、中央で仲川選手がスルーした背後からマルコス選手が詰めて鮮やかにゴールを陥れる。だが、この得点にVARのサポートが入り、安斎選手がオフサイドポジションにあったとしてノーゴールに。惜しいシーンとなったが、この試合で見せていきたいサッカーを体現するような素晴らしいアタックだった。
東京の攻勢はさらに続く。前半37分、右サイドのタッチライン際に張り出した遠藤選手が縦パスを受けて前方へ流すと、アンダーラップしてきた安斎選手がスピードに乗った状態で相手をかわしてペナルティエリア内へ進入してシュート。これがゴールキーパーにセーブされたこぼれ球をフリーの仲川選手が右足で狙うが、これをしっかりとミートできず追加点を奪うには至らない。
ハイプレスとミドルゾーンでのブロックを使い分けて川崎の持ち味を消し、良い守備から良い攻撃につなぐというテーマを遂行。鋭いアタックとポゼッションを織り交ぜた臨機応変な攻撃も披露して、東京が1点のリードで後半へと折り返した。
2ndHALF—耐えに耐えた後半。集中した守備で2018シーズン以来のアウェイゲーム勝利
ハーフタイム、川崎はトップ下に脇坂選手を投入。ボランチの両選手に加えて配給役が増えたことを受け、東京としては中盤の3枚に自由な形でボールを持たせないように意識することが求められる。
後半立ち上がりは川崎にボールを持たれる時間が続いたが、東京は前半同様に相手のボランチにできるだけボールを渡さず、パスコースを封じ、さらにパスの出先を抑えることを徹底。前線からのプレスバックも含めて、まずはしっかりと守備を意識しながら攻め手を探っていくことになった。
スピードある攻撃を見せながらも決定機を生み出せない東京。後半17分には仲川選手に代えて佐藤恵允選手がイン。前線からのハードな守備をベースにリズムをつかめる背番号16にピッチの活性化を託した。

直後の同18分には長倉選手がゴールライン際で巧みなターンから右足を振り抜いてニアを強襲。同20分にはマルコス選手のドリブルから長友選手が猛ダッシュで裏抜けを狙い、最終ラインからのビルドアップで試合を落ち着かせるなど、東京が少しずつ流れを取り戻し始める。
守備陣も素晴らしい集中力を見せていく。後半23分には右サイドで山本選手から決定的なスルーパスを出されてマルシーニョ選手に抜け出しを許したが、全速力で戻ったショルツ選手が迫力あるスライディングでシュートを阻止。東京が1点のリードを守ったまま試合終盤を迎える。
家長、橘田、宮城の3選手を一挙投入してきた川崎に対して、東京もマルコス選手、高選手から俵積田晃太選手、小泉慶選手にスイッチ。一発のカウンターを狙いながら中盤を引き締めるべく選手交代を敢行していく。さらに後半39分には遠藤選手に代えて右サイドバックに室屋選手を投入。安斎選手を一列前に上げる形にシフトした。
後半アディショナルタイムは6分。東京は高い位置でボールを保持しながら時間を使っていくが、やや受け身になってしまったことで川崎に隙を与えてしまう。プレスのかからない状態で左クロスを許し、中央でウルモヴィッチ選手に飛び込まれ、こぼれ球を脇坂選手に押し込まれてゴールネットを揺らされてしまう。だが、これにVARのサポートが入ると、オンフィールドレビューの末にオフサイドでノーゴールの判定に。土壇場で同点に追いつかれたかと思われたが、VARに救われる形で1点のリードを保った。

オープンな展開となった最終盤、90+10分にはスンギュ選手が相手のヘッドをギリギリのところで弾き出すスーパーセーブ。最後の最後まで集中した試合を披露し、全員で川崎の猛攻をしのいでタイムアップ。前節に続いて熱いライバル対決を制してリーグ戦では6月以来となる連勝を収め、アウェイのゴール裏から「We Are Tokyo!」のコールが響き渡った。
MATCH DETAILS
<FC東京>
STARTING Ⅺ
GK キム スンギュ
DF 長友佑都/安斎颯馬/アレクサンダー ショルツ/土肥幹太
MF 高宇洋(後半34分:小泉慶)/橋本拳人/遠藤渓太(後半39分:室屋成)/マルコス ギリェルメ(後半34分:俵積田晃太)
FW 長倉幹樹/仲川輝人(後半18分:佐藤恵允)
SUBS
GK 波多野豪
DF 森重真人
MF 東慶悟
FW 野澤零温/エヴェルトン ガウディーノ
MANAGER
松橋力蔵
GOAL
前半23分:遠藤渓太
<川崎フロンターレ>
STARTING Ⅺ
GK 山口瑠伊
DF ファンウェルメスケルケン際/フィリップ ウレモヴィッチ/佐々木旭/三浦颯太
MF 河原創(後半34分:橘田健人)/山本悠樹/ラザル ロマニッチ(後半0分:脇坂泰斗)
FW 伊藤達哉(後半34分:家長昭博)/マルシーニョ(後半34分:宮城天)/エリソン(後半39分:小林悠)
SUBS
GK チョン ソンリョン
DF 田邉秀斗/神橋良汰/土屋櫂大
MANAGER
長谷部茂利
GOAL
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[松橋力蔵監督 インタビュー]

Q、本日の試合の振り返りをお願いします。
A、本当に最後まで諦めずに勝利をめざして頑張ってくれた選手、それと声援を送ってくださったファン・サポーターの方に感謝しています。ゲームに関しては、前半いくつか決められるチャンスもあったり、オフサイドの判定というものもありました。そこのディテールにはしっかり踏み込んだなかで、ゲームをさらに良い方向に動かすことができれば、こういう展開の試合にはならなかったと思います。後半は攻撃のところの問題が守備のところにも出た、と。必ずあのようなピンチというものは生まれるだろうということはありつつも、最後はオフサイドの判定に救われた部分がありました。ボールをしっかり握るところ、とくにトランジションであったり、セカンドボールやこぼれ球というものに対してしっかりボールを握れば、我々の陣形もしっかり担保することもできました。その裏側にある守備のバランスというものも崩れないのですが、どうしても押し込まれる時間帯はサイドで前に出ていくことができないため、押し込まれたところからあのようなシーンを生み出してしまう。そのクオリティを持っている相手であったからこそ、もっとそういうところはプレーの技術も判断も上げていかなければならないと思います。
Q、本日、土肥幹太選手をセンターバックで起用した狙いはどのようなところでしょうか。
A、自分たちの後ろからの作りというものに対しての期待、それとまだまだ若くて線が細い部分もありますが、非常にコンタクトの強さも持っている選手です。最近はスターティングメンバーで使うことがなかなかできなかったなかで、彼自身も期する思いがきっとあったと思いますし、そのエネルギーをこのゲームで出してほしかった。そういう狙いでの起用でした。
Q、前半の攻撃は狙い通りだったと思いますが、追加点をとれなかった部分をどう分析されていますか。
A、最初のオフサイドはタイミングの問題だと思います。良い狙いをしていたと思いますし、背後という狙いは非常に良かったと思います。前半はゴール前にしっかりとボールを届けることもできていましたし、そこ一辺倒にならずにバランス良く人が入っていくところであったり、もう少しアバウトというかミドルシュートであったりだとか、そういうものを散りばめることで相手も的を絞りづらくなると思います。そういう手を替え品を替えるようなことが、もっともっとゴールを生み出すために大事な部分の一つでもあると思っています。
Q、長友佑都選手を左サイドバックで起用した意図と試合を通しての評価を教えてください。また、対面に伊藤選手がいたことも関係していたのでしょうか。
A、まさにそれです。彼の今の調子を見れば、もちろんマルシーニョ選手も非常に危険な選手であるのも分かっていますが、(長友選手は)左右両サイドができる能力もありますし、彼にそのタスクを与えたなかで、ほぼ完璧に守ってくれたと思っています。
Q、相手のボランチにパスを出させない、自由にさせないという点での守備の評価と、そこから攻撃に転じる部分での評価をお願いします。
A、守備の評価の前に、その裏側にある攻撃にそのプランがあったからこそ、前半は相手の力を少しでも落とすことができたのかな、と。我々が作り上げるなかの場所であったり、関わる選手だったり、そこに釣り出すことで危険なところでのプレーエリアを確保させないというところがありました。ただ、近い試合で見ると、前に残っている選手が非常に多いな、と。守備をさぼっているわけではないのですが、その裏返しで守備の自信が表れているというか、そこにポジションをとったことをしっかりと前に残っている三人につなげるということも考えれば、自分たちがどこでゲームを作り上げるかというところが、実際に守備に良い影響を与えていた前半だったと思います。後半はそれがなかなかできなくて、あのような形になってしまいました。
Q、東京ヴェルディ、川崎フロンターレに対しての連勝についてはどのように考えていますか。
A、久しく勝利していなかったですし、これをまた勢いにつなげていきたいです。ただ、ここでホッとする時間はないので、このまま走り抜けるしかないと思っています。
[選手インタビュー]
<遠藤渓太選手>

Q、決めると宣言して、有言実行でした。
A、難しい試合になりましたが、燃えるものがありました。多摩川クラシコでは負け続けていたので意地は見せたかったですし、伊藤選手が騒がれているなかで、「ここで一発かっさらってやろう」と思っていました。そういう意味でも、自分のゴールでチームを勝たせられて嬉しいです。
Q、足ではなくヘディングでのゴールでした。
A、形はどうであれ、自分がゴールを決めてチームが勝ったということが大事です。そして、相手もクオリティがあるタフな試合で、最後までどうなるか分かりませんでしたが、チームとして集中を切らさずに失点もゼロで勝てたということは大きいです。
Q、攻撃的なポジションですが、戻って守備に回るタスクも多かったと思います。どのようなことを意識してプレーしていましたか。
A、クオリティがある相手なので、こういう展開になるだろうなという想定もあったので、チームとして焦れずに対応できました。とはいえ、奪った後にカウンターに出るなどキレのある攻撃は見せられたと思います。素晴らしいゲームでした。
Q、戦術以前に戦う姿勢というのがチーム全体から感じられました。その要因はなんですか。
A、試合前にみんなで言っていたのは、いつもやられたり危なくなってから気付いてそこからエンジンがかかりだすので、最初からフルスロットルでいこうということを話していました。それをみんなが体現したのが、最初のアグレッシブな姿勢だったと思います。
Q、東京ヴェルディ戦、多摩川クラシコでの連勝はチームにとって大きいのではないですか。
A、個人的には東京V戦でパフォーマンスがあまり良くなくて、騒がれた試合のなかで自分は鳴かず飛ばずでした。ここで一発決めてやろうという気概がありましたし、それを結果として残せたのは良かったです。
Q、中二日でホームでのアビスパ福岡戦です。
A、総力戦だと思います。向こうも同じ条件なので、自分たちに課せられているのは、ここからどれだけ勝ち続けられるかです。ホームで戦えるので隙を見せずに、連勝を伸ばしていきたいです。
<安斎颯馬選手>

Q、前半に先手を取ることができました。
A、先に得点する重要性はわかっていたので、ウォーミングアップ後のロッカールームから全員がゲームの入りに集中しようと声を掛けていましたし、実際に集中して試合に入れたと思うので、そこは勝利の大きな要因のひとつだったと思います。
Q、良い形でたくさん攻撃にも絡むことができていましたが、どういったことを意識していましたか。
A、遠藤渓太選手がうまく中に入ってポジションをとってくれていて、サイドの背後が空くというのはある程度わかっていたので前半は良い形がつくれました。後半に自分たちがボールを握れなくなったのが課題だと思うので、90分間を通してアップダウンし続ける質をもっともっと高めていきたいと思います。
Q、押し込まれた後半も守備で貢献していましたが、後半はどのようなことを意識していましたか。
A、自分もそうですが、4バック全員で穴を空けないことだけを常に考えていました。前線の選手も走ってくれていましたし、チーム全体で穴を空けないように集中してプレーすることだけを考えていました。
Q、後半にポジションが変わり一列前に上がったあともプレスの強度を緩めずにやったことが無失点につながりました。
A、オフサイドに助けられたシーンもありました。前節出場した選手が戦ってつくってくれた流れに自分も乗りたかったですし、室屋成選手、長友佑都選手の背中を見ていたので、その2人に負けたくない気持ちをもってプレーしていました。ここからがまた勝負だと思うので、すごいパフォーマンスを2人が見せてくれているので、自分も負けずに頑張りたいと思います。
Q、その2人に負けないプレーが今日はできたのではないですか。
A、まだまだそこには到達できていないと思っているので、ここからもっと、食って掛かるような勢いを持って頑張っていきたいです。
Q、中二日で迎えるアビスパ福岡戦に向けての意気込みを聞かせてください。
A、いま全員が集中して良い流れをつくれていると思うので、今シーズンはまだ三連勝がないですし、自分たちがもっとできるというところを全員で証明したいと思います。
<アレクサンダーショルツ選手>

Q、試合の振り返りをお願いします。
A、川崎フロンターレは非常に素晴らしいチームですし、守備の時間が長くなることは分かっていました。今日は守備の局面で相手に自由を与えずにしっかりと戦えた試合になり、とても良かったと思います。
Q、相手の長所を消すプレーが際立っていました。どのような意識で臨みましたか。
A、前半はエリソン選手、ロマニッチ選手がツートップのような立ち位置で、土肥幹太選手とマンツーマンで対応していました。土肥選手も非常にタイトに守っていましたし、マークとカバーの意思疎通もできていましたし、彼にとっても手応えのある前半だったと思います。後半開始から脇坂選手が入り、スペースのケアやそこへの配球に苦しむ時間帯もありましたが、無失点で勝利できて良かったです。
Q、マルシーニョ選手の突破をブロックした見事なスライディングタックルもありました。
A、あのシーンは良いタイミングでタックルできました。自分の間合いになるように我慢しつつ、私の後ろ側にはスペースも大きく開いていたので、この瞬間しかないと思って狙いをしっかりと定めてブロックできたと思います。ああいったシーンでブロックしてもゴールにつながってしまうこともあるので、ラッキーな部分もあったと思います。
Q、リーグ戦での連勝となりました。
A、どちらも良い試合にできました。スタジアムの雰囲気も、いつもに増して素晴らしいものを感じていました。私たちにとって重要な連勝になりました。とくに今節は、他会場の結果も考慮すると何が何でも勝たなければいけない試合でした。次の試合に向けてしっかりと前を向いて、今日の勝利はもう過去のこととして、勝つためにやらなければいけないことにフォーカスしていきたいです。


