<マッチレビュー>
世界を経験してきた浦和レッズを味の素スタジアムで迎え撃った一戦。東京にとっては2か月前のアウェイで味わった悔しさを晴らし、新戦力を加えてパワーアップした姿を見せなければならない試合となる。
今節は浦和から期限付き移籍中の長倉幹樹選手が契約の関係で出場できず、松橋力蔵監督は2日前に行われた大分トリニータとの天皇杯3回戦からゴールキーパーを除く10選手を入れ替えたスターティングメンバーを編成。キム スンギュ選手を最後方に据え、最終ラインには右から長友佑都、アレクサンダー ショルツ、森重真人、室屋成というJリーグベストイレブン経験者が並んだ。ボランチは高宇洋、橋本拳人の両選手がコンビを組み、攻撃的な中盤には遠藤渓太選手、俵積田晃太選手のアタッカーが入った。そして2トップには佐藤恵允選手とマルセロ ヒアン選手を起用。負傷の癒えた山下敬大選手が4月6日の明治安田J1リーグ第6節ファジアーノ岡山戦以来となるベンチ入りを果たした。
対する浦和はFIFAクラブワールドカップで3連敗という悔しい想いを味わいながら、世界と対峙した経験をJの舞台で披露するべく気迫の戦いを見せてくることが予想される。ともに絶対に勝利が欲しい重要なゲームは、19:03にキックオフを迎えた。
1stHALF—狙いどおりの先制点も立て続けに失点
集中した立ち上がりを見せた青赤イレブンが、いきなり味の素スタジアムに熱狂をもたらす。前半6分、右サイドの高い位置で持ち直した長友選手の左足クロスに中央の遠藤選手がヘディングで巧みに逆サイドへ流し込んで東京が先制。アウェイでの前回対戦と同様に早い時間帯でリードを奪うことに成功した。
先制後も積極的なサッカーを続ける東京。前半13分には高い位置で連動したプレスを仕掛けてボールを奪うと、最後は佐藤選手からオーバーラップしてきた長友選手へラストパス。これはクロスバーを越えてしまったが、果敢な姿勢で決定機を作り出す。
だが、前半15分に右サイドを破られてクロスを許すと、中央で競り合ったこぼれ球を拾われ、安居選手にグラウンダーのミドルシュートを決められて同点とされてしまう。
続く同20分にはカウンターから渡邊選手に抜け出され、ゴールキーパーとの1対1を決められて失点。ショルツ選手が倒れたスペースを使われて突破され、逆転を許してしまった。
気落ちすることなく反撃に出る東京。前半24分には遠藤選手のフリーキックが弾き返されたところに俵積田選手がワントラップからボールを落とさず強烈なボレーシュート。これは相手ゴールキーパーの好セーブに阻まれたが、すぐさま浦和陣内へと襲いかかる。
攻め手を緩めない東京。俵積田選手が狭いエリアを切り裂こうとするトリブルを見せれば、遠藤選手は振り向きざまの鋭いスルーパスでヒアン選手の決定機を演出。前半39分には高選手とのパス交換から再びヒアン選手が抜け出して左足で狙う。敵陣に押し込む時間を長くするなかでビッグチャンスを生み出しながら決められないシーンが続く。好機をきっちりと決めることで試合を動かしたい。
4分間の前半アディショナルタイム、右サイドのタッチライン際で橋本選手がプレスバックしてボールを奪取し、ピンポイントクロスからヒアン選手のヘディングが決まったかと思われたが、VARのサポートで橋本選手のプレーがファウルと判定され、ノーゴール。多くのチャンスを作りながら1点のビハインドで前半を折り返すことになった。
2ndHALF—厚みのある攻撃で押し切り、鮮やかな逆転勝利
ともに選手交代なく迎えた後半、日本代表帰りの背番号33が左サイドで魅せる。同7分、ハーフウェイライン手前でボールを奪った俵積田選手が自ら持ち上がって広大なスペースを前にすると、一気にスピードを上げて高速ドリブルで浦和陣内へ。そのままポケットへ入り込んで右アウトサイドで中央へ折り返すと、ここに飛び込んだのは遠藤選手。決定的なシーンだったが、シュートはゴール左へ外れてゴールには至らない。俵積田選手はその後も果敢な攻め上がり、カットインからのシュートなど短い時間で見せ場を作った。
ここで東京にアクシデントが発生。先制ゴールを決め、何度もチャンスに絡んでいた遠藤選手が負傷により交代を余儀なくされてしまう。後半13分、安斎颯馬選手が代わって右のアタッカーに入った。
主導権を握りながら惜しいシーンが続いていた青赤が、ついにネットを揺らす。右サイドから押し込んだ東京は後半22分、長友選手の右足クロスをヒアン選手が中央で収めてキープし、そのままターンして左足を振り抜くと、これが相手選手に当たってゴールキーパーの頭を越えてゴールに吸い込まれる。先制点に続いて長友選手のアシストから生まれた同点弾。前半から何度も決定機に絡んでいたヒアン選手がついに歓喜をもたらし、東京が試合を振り出しに戻した。
一気に勢いづきたい東京は後半30分、前線で奮闘していた佐藤選手に代えてチームの“潤滑油”となりうる仲川輝人選手を、左サイドで何度も突破を試みていた俵積田選手に代えて攻守にバトルできる野澤零温選手を投入。勝ち越しを狙ってピッチを活性化させていく。
厚みのある攻撃で押し込んでいく東京に対して、カウンターで一撃を狙う浦和。35,687人という大観衆が生み出す最高の雰囲気にも後押しされ、緊張感のある熱戦が続いていく。東京が野澤選手の振り向きざまのボレーで決定機を作れば、浦和もチアゴ サンタナ選手が鋭く抜け出してシュート。どちらもわずかにゴールを外れたが、ともにあとわずかのところまで迫っていく。
後半39分には長友選手の右クロスから中央の安斎選手がバイシクル気味にダイレクトボレー。だが、これもゴール左に外れて勝ち越しゴールは奪えない。
松橋監督が最後の交代カードに選んだのは、復帰戦となる山下選手とチームキャプテンの小泉慶選手。両者がヒアン選手、高選手に代えてピッチに送り出された。
そして迎えた後半43分、味の素スタジアムを熱狂の渦と化す勝ち越しゴールが生まれる。安斎選手の左コーナーキックが弾き返されたこぼれ球を野澤選手がハーフボレー気味にシュート。これが相手にあたって浮き球となりゴールに向かうと、そこに飛び込んだのは仲川選手。相手のクリアを身体で押し込んで逆転ゴールをねじ込み、途中出場の3選手が中心となって東京がついに試合をひっくり返した。
8分間と表示された後半アディショナルタイムも一進一退の攻防が繰り広げられたが、東京が集中力を途切らすことなく守り切ってタイムアップ。攻守に熱量溢れるサッカーを展開し、アウェイで味わった悔しさをそのままお返しするような鮮やかな終盤の逆転勝利で大熱戦を制した。
試合終了の瞬間、ピッチの選手たちはそろって入魂のガッツポーズを見せ、味の素スタジアムには『眠らない街』の凱歌が響き渡った。最高の雰囲気で後押しし続けたファン・サポーター、魂の逆転勝利を見せた選手たち──。青赤一丸となって手にした大きな勝利だった。
MATCH DETAILS
<FC東京>
STARTING Ⅺ
GK キム スンギュ
DF 室屋成/森重真人/長友佑都/アレクサンダー ショルツ
MF 高宇洋(後半41分:小泉慶)/橋本拳人/遠藤渓太(後半13分:安斎颯馬)/俵積田晃太(後半30分:野澤零温)
FW 佐藤恵允(後半30分:仲川輝人)/マルセロ ヒアン(後半41分:山下敬大)
SUBS
GK 小林将天
DF 岡哲平/土肥幹太/白井康介
MANAGER
松橋力蔵
GOAL
前半6分:遠藤渓太 / 後半22分:マルセロ ヒアン / 後半43分:仲川輝人
<浦和レッズ>
STARTING Ⅺ
GK 西川周作
DF 石原広教/ダニーロ ボザ/マリウス ホイブラーテン/長沼洋一(後半28分:荻原拓也)
MF サミュエル グスタフソン/安居海渡(後半39分:松本泰志)/金子拓郎(後半28分:関根貴大)/渡邊凌磨/マテウス サヴィオ(後半17分:チアゴ サンタナ)
FW 小森飛絢(後半17分:松尾佑介)
SUBS
GK 牲川歩見
DF 井上黎生人
MF 大久保智明/原口元気
MANAGER
マチェイ スコルジャ
GOAL
前半15分:安居海渡 / 前半20分:渡邊凌磨
[松橋力蔵監督 インタビュー]

Q、本日の試合の総括をお願いします。
A、最後まで諦めることなく戦ってくれた選手、そして我々をサポートしてくれるファン・サポーターのみなさんのお陰で、今日は勝つことができたことを非常にうれしく思っています。
Q、後半はボールを保持して狙いどおりのサッカーだったと思いますが、それは監督の想定どおりだったのでしょうか。
A、リハーサルどおりではあったかもしれないですが、リハーサルで選手に伝えていることの次の段階のことはなかなか起きづらくて。サイドを中心にしっかり攻撃していくということは、中央の伏線をしっかりと築き上げるうえでのポイントになってくる。ただ、そこに終始している感じがありながらも、中央に通せる瞬間というものは何度かありましたし、そこへのチャレンジが非常に少なかった。そこに入らないので、攻撃の、前線の選手の距離感がなかなか縮まらない。相手の間に入っていく、潜り込んでいくとかストレッチしているその隙間に入っていく瞬間は少なかったと思います。ただ、狙いを持ってやったアクションというものは、非常によくやってくれたと思っています。
Q、特に前半に決定的なチャンスがあったなかで、決め切れなかった部分でこういう試合になってしまったことはどのように考えていますか。
A、そこは語れば語るほど言い訳に聞こえてしまう部分があるのですが、今シーズンの多くのゲームで決定機は作ってきた自負はありながらも、そこがなかなか決まらない。ただ上に行くにはそこを決め切るしかないというなかで、今日もいくつか前半にチャンスがありましたが決め切れませんでした。前線の選手の決定力、そしてこの内容でコレクティブな関係をどう作っていくかというところの予測であったり、ポジションをしっかりとらない連続性であったり、最終的にはそこに人がいなければゴールを割ることができないことにつながるのかなという感じで今日のゲームを見ていました。
そこはやはり決め切らなければいけないので、ハーフタイムに『結果を出せ』と、そこを強く選手に伝えて送り出したなかで、マルセロ ヒアン選手のあのゴールが生まれて、少しリズムが出ました。加えてハーフタイムには『これで舞台は整っただろう』と。前回我々はどういうやられ方をしたのかというところで、あまり僕はリベンジとかやり返すとかそういう言葉は使わないんですが、「ここでは言わせてもらう。絶対やり返すぞ。最後は我々が笑っていることを思いながらしっかりプレーしてくれ」と。そういうなかで後半は戦ってくれたので、非常にカッコいい選手たちだなと思っています。
Q、今日も室屋成選手を左サイドバックに置いて、長友佑都選手を右サイドバックで起用したことが効果を発揮したと思いますが、その狙いはどのようなところでしょうか。
A、狙いはもちろん、浦和には両サイドに強力な選手がいますし、もちろん真ん中にもいるので、現状で考えた時にはバランスが良いと思って起用して、非常に良いパフォーマンスを両選手とも出してくれたと思います。とくに長友選手は1点目のアシストであったり、あのようなクロスボールが上げられる。今シーズンは右サイドで非常に良い仕事をしてくれています。
ただ、室屋選手もそうですし白井康介選手もそうですが、右サイドを主戦場にしている選手が多くいるということもあるので、そこでの起用は難しいところは正直あります。左サイドにはバングーナガンデ佳史扶選手がいますし、そこのバランスと相手の特長をどう消していくか、プラスそれだけではなく攻撃でどういうパフォーマンスができるかというバランスをとった起用になりました。
Q、浦和とのアウェイゲームでの前回の対戦で逆転負けした際には、監督はメンタル面での課題を挙げていましたが、今日の試合に向けてメンタル面を変えるために何が一番重要だったのでしょうか。
A、とくに僕の方で試合に向けてメンタルをどう変えていくかということよりも、連戦でもあったので、大分トリニータ戦が終わってすぐに長距離移動もあり、少し戦術的な整理をするので一杯でした。ただ、今日のゲーム前のミーティングで、「やはり前回浦和と対戦した時に我々がどういう試合をしたかということはもう一回思い出してほしい。決して悪いゲームではなかった。先制して、突き放して、でも最後に我々は力尽きた。それはもう今回はしないよ。今日のゲームは結果を自分たちで手繰り寄せるためにやらなければならない」という程度の話はしました。ただ、ハーフタイムにはまた逆の展開になってしまったので、そこで『舞台は整った』という言葉で僕なりに選手にはどういう意味なのかを伝えたつもりです。
[選手インタビュー]
<長友佑都選手>

Q、試合の振り返りをお願いします。
A、同サイドで対峙したマテウス サヴィオ選手はとても脅威でした。そこをしっかりと抑えるために、ただ守備的に構えるだけではなく、僕自身が攻撃に参加することで彼のプレー位置を下げること、運動量を活かして深い位置に押し込むことを意識しました。前回の対戦では、悔しい逆転負けを喫した相手でしたし、“借りを返す”ことを意識してチームとしても試合に入ることができました。チームとして1-2で負けている時間帯もありましたが、全体的に良いパフォーマンスを継続できていました。
Q、2アシストの活躍で勝利に大きく貢献されたと思います。
A、ゴール前には選手が揃っていましたし、良いボールさえしっかりと送れば、誰かが合わせてくれるだろうと思っていました。良い形で点につながって良かったです。マルセロ ヒアン選手のゴールへのアシストについては、ターンからうまくシュートに持っていってくれました。まさか、あの得点にもアシストがついているとは思っていなくて、試合後に知りました(笑)。
Q、東アジアE-1サッカー選手権2025決勝大会 韓国(E-1選手権)からチームに合流し、結果として示すことができた手応えはいかがですか。
A、僕自身、E-1選手権で日本を代表して出場できたことで自信がつきました。何よりE-1選手権でカップを掲げられたあの経験を東京でも成し遂げたいです。病みつきになりました。ワールドカップ中毒でもあり、カップを掲げることに対しても中毒になりつつあります。東京でリーグ優勝、日本代表ではワールドカップ優勝、どちらのカップも掲げられるように目標を立てて、そこに対してエネルギーを燃やしていきたいと思います。
<遠藤渓太選手>

Q、前回のアウェイでの対戦時に大変悔しい負け方をしたなかでの今日の試合でしたが、あらためて振り返ってみていかがですか。
A、スリリングと言いますか、面白い試合になったなと思いますけど、前回の対戦の際に悔しい負け方をして、そのリベンジができて良かったなと思います。
Q、試合に向けて、チーム全員で思っていたことですか。
A、思っていました。前回の対戦時は、前半が終わって1-0で、そこから逆転されて負けてしまったので、逆に自分たちが試されているということを確認しました。ここから僕たちも前回の浦和レッズのように逆転してやろうと思っていたので、その通りに逆転できて良かったです。
Q、前回の浦和戦では、ゴールを決めた後に「チームを勝たせられるゴールを決めたい」と言っていましたが、今日は勝利に繋がったゴールでした。あらためてゴールシーンを振り返ってみていかがですか。
A、右サイドは長友佑都選手とアレクサンダー ショルツ選手と良い関係が作れていたと思うし、そこからの展開で長友選手のクロスボールに、逸らすように良い当て感でヘディングができたと思うし、本当に自分っぽくないゴールだったなと思います。
Q、ヘディングは当てるだけでしたか。
A、そうですね。クロスは結構スピードが早かったので、分厚く当てるというよりは薄く当てることをイメージしました。
Q、ゴール以外でも、右サイドでヒアン選手に背後へのパスを出したり、長友選手と良い関係を作ったりと、慣れてきてやりやすくなったのではないですか。
A、ここまで右サイドで試合に出て、正直、自分自身では良いパフォーマンスができていなかったと思っていて、それでも使い続けてくれた松橋力蔵監督の期待には応えたかったので。今日は一つ数字を残すことができたし、得点以外の場面でもチャンスを作れたのは個人的には自信になりました。
<マルセロ ヒアン選手>

Q、試合を振り返っていかがでしょうか。
A、良いところと悪いところがありました。全体的に良い試合だったと思っています。チャンスは多かったですが、決め切れない場面もあり、失点して嫌な流れの時間帯もありました。ですが、最終的に逆転して勝てたことは良かったです。
Q、前半からチャンスが多かったですが、後半にようやく得点をとることができました。
A、前半にチャンスが2回ありましたが、決め切れずに逃したことを反省しています。あの場面で外してしまったことで、下を向かずに得点をとってやろうと気持ちを切り替えることができて、後半のゴールに繋げることができました。
Q、あの時間帯で同点に追い付けたことがチームに良い流れを与えたと思います。
A、自分のプレーは悪くなかったと思いますし、良い動きもできていたと思います。ですが、決定機を逃してしまったという反省点もあります。これからオフになるのでしっかりと休んで、また再開するリーグ戦に向けてトレーニングに臨みたいです。


