東京にとって、なんとも言い難い、いわば消化不良な一戦がある。それは、5月17日に行われた明治安田J1リーグ第17節、埼玉スタジアム2002での浦和レッズ戦だ。
公式戦3試合ぶりの勝利をめざす浦和に対し、開始早々からチャンスを演出したのは今シーズン初のリーグ戦3連勝を懸けて臨んだ東京だった。遠藤渓太の仕掛けから獲得したペナルティキックをマルセロ ヒアンが冷静に決めて先制。前半32分に同点弾を許すも、後半に入り、遠藤の今シーズン初ゴールで勝ち越しに成功する。
試合が大きく動いたのは後半35分だった。自陣左サイドからクロスを上げられ、ゴール前に飛び込んだ松本に合わせられてしまう。オフサイド、ハンドの可能性が残る際どいゴールの判定にVARのサポートが二度も入る異例の展開となったが、ともに『無し』でゴールが認められる。
同点に追い付かれたことで試合の流れ、そして会場の雰囲気は一気にホームの浦和に傾いていく。東京も機を見ては、両ウイングバックが高い位置をとってサイド攻撃を試みたり、手数をかけないスピーディーな仕掛けでゴールに迫るも得点にはつながらず。
そして後半45+3分、コーナーキックのセカンドボールを回収した関根が右サイドから上げたクロスに対して松本にゴール前で押し込まれ、逆転を許す展開に。その後、圧力を強めるも決定的なシーンを生み出すことはできず、試合は2-3でタイムアップを迎えた。
その熱でリベンジを誓う
あの敗戦から約2か月。舞台をホーム味の素スタジアムに移し、ふたたび浦和との一戦に臨む青赤。
第17節での対戦では、相手のサイドを起点とする攻撃と、東京を自陣に引き込んだあとのロングカウンターに手を焼いた。
特に、3失点すべてが相手のクロスボールが起点になり、ペナルティエリア内で合わせられた。ロングカウンターという視点で言えば、東京の両ウイングバックが攻撃参加した際に生まれる背後のスペース、3バックの両脇にボールを送られ、失点シーン以外にもゴールへと矢印を向けられてしまうシーンが多く見られた。

守備においては、4-4-2に可変し、手堅い守備組織を構成。特にマリウス ホイブラーテンの対人の強さ、経験豊富な西川の的確な判断に、ことごとくチャンスの芽を摘まれた印象が残る。
しかし、リーグ後半戦に入り、今シーズン東京がめざすサッカーのスタイルが鮮明になりつつある。
その後、東京はシステム変更に着手。3バックから4バックにシステムを変更したことで、攻守における安定感がアップ。特に守備においては、選手それぞれの守備エリアがより明確化した印象を受ける。加えて、前節の柏レイソル戦では0-1で敗れはしたものの、ボール保持を得意とする相手に対し、ディフェンスラインを高く設定。ボランチと両サイドバックがシステムのズレから生じるマークとスペースをケア。ボールを持たせる局面と、積極果敢にディフェンスラインを押し上げて高い位置でボールを奪いにいく守備の両面をみせた。

攻撃においては、ビルドアップのスピードと質が高まり、自陣深い位置でのノッキングとボールロストが減少。松橋力蔵監督が志向するボールを保持し相手ゴールへと迫るサッカーと、もともと東京が得意とする縦に速いショートカウンターがここからさらに融合されれば、失点数がリーグで2番目に少ない堅守・浦和の牙城を崩すことも大いに可能だ。
リーグ後半戦も今節が5試合目。ここまで、決定的なチャンスで決め切れずに多くの勝点を取りこぼしてきただけに『勝ち切る試合』に期待したい。
この浦和戦、前回対戦からの進化を証明するには絶好のチャンスだ。
冷静かつ熱いプレーで。キーマンは“ショルツ”
この試合で注目を集めるのが、アレクサンダー ショルツだ。
2021シーズンから3シーズンに渡り浦和でプレーし、AFCチャンピオンズリーグ優勝などを経験したディフェンスリーダーは、今シーズン6月に東京へ完全移籍で加入。7月19日は自身にとって初の“古巣戦”となる。
広範囲のカバーリングと対人の強さだけではなく、攻撃のテンポを操るビルドアップ能力に長けるショルツ。浦和を熟知する彼のプレーが、東京の浦和対策に深みを与えてくれるはずだ。

6月に加入し、現在リーグ戦では2試合に出場。試合勘を取り戻すだけではなく、Jリーグのプレースピードや日本特有の蒸し暑さにも徐々に身体が慣れ始めている。
そして、浦和の特長を誰よりも理解するショルツは、この一戦を誰よりも心待ちにしている一方で、冷静に試合への準備を進めている。
「対戦を控えるかなで、何かを大きく意識しているわけではありません。(古巣対戦は楽しみだが)ピッチでは冷静に戦い、目の前の試合に集中するだけです。浦和の選手とゆっくり話すのは試合後にするよ(笑)」と一戦必勝の構えだ。
リーグ前半戦の対戦ではゴール前の攻防であと一歩の踏ん張りが効かなかった東京。安定した守備が質の高い攻撃を促し、彼のリーダーシップがチームを引き締めることは間違いない。
古巣相手にどのようなプレーを見せるのか。ショルツのプレーにぜひ注目したい。
攻守において熱量で上回れ
対戦する浦和は、リーグ2位タイの20失点という堅守を武器に、手堅く自陣深めの位置でセットする守備からロングカウンターを中心に試合を組み立てる。特に、ワイドに配置されているマテウス サヴィオ、金子がサイド際でボールを受け、クロスやカットインからのミドルシュートなど攻撃のバリエーションと個の能力に長けている。
実際、シュート、クロス、ラストパス、ドリブル回数などの攻撃的な数値も、彼ら二人がチーム内1位2位の数値をたたき出しているだけに、前回対戦でも苦しめられた浦和のサイド攻撃とクロスボールへの対応、個の局面で常に先手を打ちたいところ。

一方、相手の堅守を崩すカギはセットプレーにありそうだ。浦和の20失点中8失点がセットプレーから。今シーズン、セットプレーからの得点が思うように積みあがらない東京としても重要なポイントに違いない。森重真人、ショルツらの高さと強さを生かし、リーグ後半戦から復帰したバングーナガンデ佳史扶の精度の高いキックが得点を演出する瞬間に期待したい。
加えて、後半30分~45分の時間帯に失点数の多い浦和に対し、直近の試合では終盤にかけて得点や相手ゴールに迫る回数が増している東京。
試合終盤まで拮抗した試合が予想されるだけに、終了のホイッスルが鳴る瞬間まで、この熱い一戦から目が離せない。
あの熱を取り戻せ――。
リーグ前半戦で味わった悔しさを、歯がゆさを、熱量に変える。
勝利の瞬間を取り返す一戦に。
(文中敬称略)


