約2か月前の苦い記憶を掘り起こすと、そこにあったのは悔しさだった。遠藤渓太は、ここまで自身唯一の得点となっている前回の浦和レッズ戦のゴールを吐き捨てるようにこう言った。
「確かに、今年一番誰の記憶にも残っていないゴールかもしれないですね」
5月17日の前回対戦を振り返ると、決して試合の入りは悪くはなかった。開始早々に、俵積田晃太と遠藤が左サイドからチャンスを作る。左ウイングバックで出場した遠藤と左シャドーの俵積田がポジションを入れ替え、サイドに張った背番号33にボールが入った瞬間だった。
「内と外が入れ替わって、タワラが顔を上げた瞬間に自分のところにくるだろうなと思った」
遠藤は相手選手の位置やスペースを確認し、「球足の速いボールを出してくれれば、手前のディフェンダーと入れ替わって、あとはセンターバックとの勝負だと思った」と振り返る。ファーストタッチでスペースにボールを置き、2タッチ目でスピードを上げてエリア深くに侵入を試みた。

「良いところにボールを置けて相手のファウルを誘ったわけじゃないけど、もしも押されたり、何か仕掛けてきたら対応できるようにという感覚も残しておいたことでペナルティキックを獲得できた」
思惑どおり相手選手の足が掛かってファウルを獲得し、マルセロ ヒアンの右足がネットを揺らした。幸先良く先制点を奪ったが、「1点リードを奪えたことに満足してしまったのか、自滅するように相手に主導権を握らせてしまった。そこは自分たちらしくなかった」と唇を噛む。
徐々に攻め込まれる時間帯が増えてきた前半32分に、カウンターから右サイドにボールを運ばれる。そこからクロスボールを上げられたところにフリーで飛び込まれ、遠藤は目の前でそのこぼれ球を押し込まれた。
「クロスボールを上げられた時点で中央のポジショニングもそうだし、対応する人数も含めてすべてが杜撰な対応だった。大久保選手にヘディングされたと思うけど、小柄な選手にあそこで点と点で合わせられている時点でまずい。その後の対応はもう少し自分が寄せてコースを限定できたかもしれないけど、ゴールキーパーにとってノーチャンスのところに蹴り込まれたと思う。悔やむのであればクロスボールのシーンかなと思います」
1-1で試合を折り返し、熱を入れ直した勝負の後半。互いにチャンスを作り出すなかで迎えた後半23分だった。高宇洋の縦パスをライン間で受けた佐藤恵允が強引に前を向き、試合途中から左ウイングバックに入っていた安斎颯馬へとボールを送る。そして安斎がタメを作り、スルスルとニアサイドに入り込んだ遠藤が左足を振った。
「ポジションがシャドーに代わってゴール前でのプレーが増えた。ただ、あの場面は安斎と自分の関係だけでたまたまゴールに入った形。もう少し厚みを持ってニアに入っていく選手や、クロスに対して入る人を増やせたら、もっとチャンスを作れたはず。自分のゴールはたまたま運が良かっただけだと思う」

そのシュートは相手選手に当たってゴールへと吸い込まれた。その後も攻勢を強めるも3点目は奪えず、そこから再び同じ轍を踏んでしまう。
「1点とった後と一緒で、相手に主導権を握らせてしまった。徐々に守り切れば勝てる、という構えになってしまった。サンドバック状態だったし、正直ずっと攻撃され続けた。失点シーンも何回も見たようなクロスの対応だった。オフサイドかどうかは別として、ラインも合っていなかった。戻るべき場所に自分も含めてみんな戻れていたのかもあったし、いろいろな要素が重なった失点だった」
後半35分に再びクロスボールから失点し、追いつかれた試合終盤はベンチで見守った。最後はアディショナルタイムに押し切られて逆転を許す格好となった。
「浦和でのアウェイゲームから勝点を拾って帰れるのか、ゼロで終わるのか。その場に応じてみんながもっと深く考える必要があると思った。失点したところで2-2のスコアだったわけで、あの展開で最低限、勝点1は持ち帰らなければいけない試合だったのに、そこをゼロにしてしまった。前節の柏レイソル戦もそうだったけど、試合を読む力は必要だと思う」

ヒーローになるはずが、二度のリードを守り切れず。その手には何も残らなかった。
「逆転負けは自分も悔しかった。その感情が残っているからこそ、前回とは違ってちゃんと勝ち切りたいし、その悔しさをぶつけたい」
悔しい敗戦を喫した相手との再戦が近づく。今年6月、再び青赤のユニフォームに袖を通した心強い存在が、遠藤に再び熱を込める。彼は「(室屋)成くんを見ていて思うんです」と言い、こう続けた。
「当たり前のことを淡々と、そして自分のタスクや求められている以上のことを涼しい顔でやってのける。ああいう姿勢が一番チームのプラスになる。自分がゴールを決めるだとか、自分がヒーローになるとかじゃなくて、ああいうプレーを継続していれば、自ずと結果がついてくるし、チームも勝つんだろうなと。ああいう姿を見て、こういう人を即戦力っていうんだろうなって思ったんですよね」。
そう言うと、「ちょっと丸くなっちゃったんですかね」と笑った。“淡々”なんて自分とは真逆のスタイルだからだ。だが、内なる炎に薪をくべるように言葉を足した。

「今、自分たちができることをピッチの上で示そうと、みんなが全力でもがいている。自分もその一人だと思う。何か一つのきっかけをつかんだり、歯車が合えばとか、点が入れば変わるとかって考え方はあまり好きじゃない。継続して粛々とそれぞれが与えられた以上のことを求めてプレーできれば、結果はついてくるはずだから」
自分自身の歓喜の瞬間は浦和戦以来、止まったままだ。長い息を吸い込み、吐き出した言葉は遠藤節そのものだった。
「今は誰かのおこぼれや、誰かが作り出したチャンスばかりで、ゼロから自分が作り出せた場面があまりない。正直、それは自分自身の課題に感じているし、物足りなさを感じている。それでも、決めていたらいいですよ。でも、決めていないから、惜しい、ではダメ。だからチャンスを作り続けないといけない。決めるか、作り続けるか。そのどちらかなんです」
勝負はいつもギリギリだ。チームの試合内容も上向いてきた。前節は首位に立った柏を相手に肉薄したが、惜しくも敗れた。
「あそこまで行くと、紙一重になる。でも、どこまでリスクをとるか。自分たちが勝ちにいったから、その裏返しで敗れた。そこを手堅く勝点1を拾いにいくという考えは僕らにはあまりなかった。それはそれで、自分たちはその賭けに敗れたのだと思う。次はその勝負に勝たなきゃいけないし、勝つ」

あの日の悔しさは残ったままだ。潜伏した熱は、勝ちを求める。触ると火傷しそうなほど、芯から上がりきった体温がそうさせる。
遠藤渓太は勝ちにいく。うなりを上げるような一発を解き放つのは、7月19日の味スタだ。
(文中敬称略)
Text by 馬場康平(フリーライター)



