あの熱を取り戻せ<br />
32 DOI KANTA

COLUMN2025.7.14

あの熱を取り戻せ
32 DOI KANTA

「とことん話すしかねぇんだよ」

青赤から初めてFIFAワールドカップのメンバーとなった守護神は、いつもそう言っていた。練習中も、試合中も、絶えず声を掛け続けていた。問題があれば即席のミーティングを開き、すぐに取り除く。あの頃の堅守を支えていたのは、間違いなく土肥洋一の声だった。それを20年近く経って、息子の言葉で思い出した。

2-3で敗れた明治安田J1リーグ第17節浦和レッズ戦。チームに足りなかったのは、まさに日々の積み重ねと声だったのかもしれない。

1点を先行して迎えた前半32分の1失点目の場面。相手カウンターから右サイドにボールが渡ると、土肥はボールサイドのニアを閉めた。

だが、背後のマークが曖昧になり、その穴を突くように浦和は2列目から大久保が飛び込み、頭で合わせた。

「この場面でのクロスボールにはボランチがついていくのか、受け渡すのかで声を掛け合えていなかった。そこが足りない部分。この失点の仕方が今シーズンは多くて、(第22節の)横浜FC戦もあの形で失点している」

ヘディングシュートはバーに当たったが、そのこぼれ球を石原に押し込まれて同点に追いつかれてしまう。


追加点を奪って突き放したが、その後は3点目を奪えず。「ビルドアップの形は良かったけど、全体的に走れていなかった」。

チーム全体の足が止まり始めた後半35分だった。コーナーキックのこぼれ球を左サイドで拾われ、再びゴール前にクロスを放り込まれる。最後は松本に当たって同点に追いつかれてしまった。

「このコーナーキック後のセカンドボールにいくタイミングが遅れていた。簡単に上げられてしまったことも反省しなければいけないけど、エリア内もゾーンで見るか、マンマークで見るかバラバラになっていたので、そこもハッキリさせないといけなかった」

思い返せば、2か月前の浦和戦は守備の課題が山積みだった。最後はアディショナルタイムに左コーナーキックのこぼれ球を拾われ、そこから長友佑都、森重真人が身体を張ってシュートをブロックするが、最後は左サイドから上がってきたボールが土肥の頭を越える。ゾーンディフェンスでは後ろに人がいるはずだったが、そこにはフリーの松本が一人で待っていた。土肥は右足を伸ばすもボールには届かず。決勝点を奪われ、万事休す。

ゾーンディフェンスの曖昧さと、コミュニケーション不足が招いた3失点だった。土肥は「センターバックならそれでも守らなきゃいけない」と嘆息する。


その後、チームはクロスボールからの失点が止まらず、6月の中断期間中に4バックへシステム変更。それによって「センターバックを2枚にしてからは人につくことがハッキリした」と言う。

だが、土肥自身はシステム変更後、ベンチを温めることが多くなっている。現状を受け、「練習で見せていくしかない」と言ってこう続けた。

「やっぱり(アレクサンダー)ショルツ選手と森重(真人)選手よりも守備でボールを奪う回数を増やして、そこから攻撃につなげられたら(松橋力蔵)監督の目にも止まる。そこはこだわっていきたい」

浦和との再戦を前に、土肥はやっぱり“あの人”の息子なんだなと思わせる言葉を吐き出した。

「まずは守備の人間なので、クロス対応や、セットプレーで失点しないことが一番。あの浦和戦もそうだったけど、残り10分からの気合とか集中力が足りていないと思うし、そこで声を出す選手が少ないとも感じる。最後を締める時間帯ではそれが大事になってくる。4バックになって、ここ数試合で人につくことが決まりごとになった。ただ、失点の場面では戻り切れていなかったり、挟めていなかったりすることが起きているんで、そういう部分をもっと詰めなければいけない。そのためにはもっと声を出してやっていかなければと思う」

20年近く前もそうだった。練習後にこちらの顔を見て「またお前かよ」と言われながらサッカーの話を何度も聞いた。始めは「もういいだろ」と言いながらも、こちらが理解するまで丁寧に説明してくれた。当時ベテランの域に達していても、日々深くサッカーを学ぼうとする姿勢には頭が下がる思いだった。



父と違って一見飄々としている幹太と話していると、懐かしさを覚えることがある。言葉の端々に、根っこにある熱さと、負けず嫌いな部分が見え隠れするからだ。

あの最後尾から声を絶やさなかった熱い守護神と同じで、血を継ぐ男もまた、この青赤の守備を束ねるボスへの道を歩んでいる。

そのためには「とことん話すしかねぇんだよ」──。


(文中敬称略)

Text by 馬場康平(フリーライター)