<マッチレビュー>
「いま狙えるタイトルは天皇杯しかない。とにかく決勝にいきたい。きれいに崩すとかではなく、勝つために何ができるかを考えたい」(佐藤恵允選手)
前週の2025明治安田J1リーグ第36節に続き、FC町田ゼルビアと2週続けての対戦となる天皇杯準決勝。国立競技場で行われる一戦は、今シーズンの集大成を見せながら決勝行きの切符をつかみ取りに行くという、極めて重要なゲームとなる。
一週間前のゲームは粘り強いディフェンスで耐え、終盤に安斎颯馬選手が決めて1-0と勝利。集中力高く守り抜き、カウンターで勝負強く勝ち切るという戦い方で勝点3を手にした。今節も「気持ちで負けないように、みんなで守備をして、みんなで攻撃して勝ちに行きます」(仲川輝人選手)という覚悟で試合に臨む。
この試合に臨むスターティングメンバーは、前週の試合から2名を変更。ゴールキーパーはキム スンギュ選手が韓国代表に選ばれたこともあり、波多野豪選手が6月22日の明治安田J1第21節ガンバ大阪戦以来となる公式戦のピッチへ。最終ラインは右から長友佑都、アレクサンダー ショルツ、森重真人、室屋成、ボランチは高宇洋と小泉慶の各選手が前週に続いて先発出場。アタッカーは右に先週末のゲームで決勝点を決めた安斎颯馬選手、左にマルコス ギリェルメ選手が入り、前線は佐藤恵允選手と仲川輝人選手がコンビを組んだ。また、後藤亘選手がプロ入り初となるベンチ入り、マルセロ ヒアン選手は約1か月ぶりにメンバー入りを果たした。
アウェイ側を埋め尽くした青赤ファミリーが試合前のウォーミングアップから熱い応援で選手たちを後押しし、青赤フラッグも使ってホームのような雰囲気を作り上げた準決勝。快晴の国立競技場で13:10にキックオフを迎えた。
1stHALF—高い集中力と強度で相手に隙を与えず
前回対戦と同じようにロングボールを入れながら押し込んでくる町田。東京は最終ラインと中盤で2列のブロックを構築しながら、2トップがしっかりとパスの出どころを限定していくことで相手に自由を許さず、全員がセカンドボールへの高い意識を持つことでチャンスを作らせない。
序盤こそ自陣でプレーする時間が目立ったが、球際のバトルを制すことで少しずつボールを保持しながら押し上げて、攻撃のシーンを増やしていく。前半16分には右サイドでパスをつなぎ、佐藤選手が強烈な右足ミドルシュート。これは相手ディフェンダーにブロックされてしまったが、試合の流れを引き寄せていることを象徴するようなシーンとなった。
その後もネガティブトランジション時に前線が連携して積極的に追い、失ったボールを即時奪回することで試合を優勢に進める東京。遠目からのシュート、サイドからのクロスボールも含めてコーナーキックの回数が増えているだけに、セットプレーからの得点にも期待がかかるところだ。
攻撃を仕掛けたあとの守備でも魅せる。高い位置で連動したプレスで攻撃を遅らせ、カウンターを仕掛けようとする町田のパスを出先でしっかりと潰すことで自由を奪って攻撃の形を作らせない。
長友選手が「攻撃の80~90パーセントくらいは相馬勇紀選手から」と表現した町田のキーマンにもしっかりと対応。前半34分には相馬選手にカットインからのクロスボールを許して中央でミッチェル デューク選手にヘディングを合わされるが、ここはゴールキーパーの波多野選手が正面でしっかりとキャッチ。相手のロングスローにも抜群の高さで対応するなど、久々の出場となった背番号13が安定したプレーで最後方を支える。
前半終了間際には再び相馬選手のクロスボールからデューク選手のヘディングというホットラインでピンチを迎えたが、これはゴール左に外れて難を逃れた。
前半は東京の2トップが臨機応変に中盤へ落ちてビルドアップに加わり、数的優位を作りながら攻め手を探った。相手の5バックも高さと堅さを兼ね備えているだけに完全に崩し切るには至らなかったが、集中したプレーと連動性で攻守に主導権を握って試合を進めることに成功。試合はいかにネットを揺らすかという部分が求められる後半に向けて、ゴール裏からの「カップを奪い獲れ」のチャントに送られるような形でハーフタイムを迎えた。
2ndHALF—均衡を破れず、試合は延長戦へ
両チームともメンバー交代なく迎えた後半、開始早々から積極的なプレスで流れをつかむと、佐藤選手が力強く縦へ突破を図ってクロスボール。弾かれたこぼれ球を長友選手がミドルシュートで狙うなど、先制点をめざしてゴールへの高い意識を見せていく。
後半6分には抜け出した相手の手に当たったシーンでハンドの判定とならずにコーナーキックを奪われたが、ここは中央で波多野選手がしっかりとキャッチ。嫌な流れを断ち切って、再び積極的なサッカーで先制ゴールを狙う。
良い守備から良い攻撃につなげたい東京。後半16分には先手を打つ形で仲川選手、マルコス選手に代えてヒアン選手と野澤零温選手を投入。仲川選手が序盤から巧みなポジショニングと前線からのプレスで戦術の中心となっていただけに、この交代で攻守両面にどんな変化が生まれるのか注目されるところだ。
青赤の集中した守備は変わらない。後半31分には自陣でのボール奪取からつないだ横パスがわずかにズレて相手のカウンターになりかけたところで、室屋選手が猛ダッシュのプレスバックからスライディングカット。背番号2が見事な危機察知能力とノーファウルで奪い返す素晴らしいプレーを見せた。
スコアレスのまま試合が進み、1点が試合の行方を左右する緊迫した展開に。トランペットの音色を交えながら熱い応援を続ける青赤のゴール裏は大声援で選手たちを鼓舞し、ともにファイナルの舞台へ進もうとスタジアムを盛り上げていく。
しかし、後半もアディショナルタイムの4分間を含めて試合は動かず。決勝行きの切符を懸けた一戦は、15分ハーフの延長戦へと持ち越されることになった。
EXTRA TIME—決勝進出には届かず
延長戦に向かって円陣を組むチームに、青赤フラッグで埋め尽くされたゴール裏から再び「カップを奪い獲れ」のチャントが飛ぶ。延長前半10分には右サイドでボールをつないでコーナーキックを獲得し、長友選手が両手を上下に動かす大きなジェスチャーで青赤ファミリーを煽るなど、ピッチとスタンドが一つになって勝利をめざす。
続く延長前半11分にはカウンターで抜け出した野澤選手が相手選手と並走しながらゴールに迫ったが、これは相手の寄せを受けながら力強いシュートを放つことができず、ゴールキーパーにキャッチされてしまった。
ここまで青赤の壁を築き上げてきた守備陣が、一瞬のスキを突かれてしまう。延長前半13分、ロングボールをディフェンスラインの裏に落とされ、抜け出した林選手が放ったループシュートが波多野選手の頭を越えてゴールイン。思わぬ形で先制点を許してしまった。
この展開にすぐさま東京ベンチが動く。佐藤選手、小泉選手に代えて山下敬大選手と土肥幹太選手がイン。山下選手が2トップの一角に、土肥選手はボランチのポジションに入った。さらに安斎選手を遠藤渓太選手にスイッチし、1点のビハインドを奪い返しに行く。
何とかして試合を振り出しに戻したい東京は延長後半3分、最後の交代枠を使い、高選手に代えて東慶悟選手をピッチに送り出す。
だが、直後の延長後半4分、自陣右サイドの深い位置から相馬選手に突破を図られ、この折り返しをニアサイドでオ セフン選手に合わされて失点。痛恨の追加点を奪われてしまった。
難しい状況に追い込まれたチームに対して、「情熱をぶつけろ、優勝を掴み獲れ」というチャントでメッセージを伝え、選手を盛り立て続けるゴール裏。この熱量に応えたい東京は延長後半29分、野澤選手が巧みなステップで左サイドからカットインを図り、思い切りよく右足を振り抜くが、これはゴールキーパーの正面へ。
延長後半15分には遠藤選手の左コーナーキックからゴール前で混戦となり、攻め上がっていた波多野選手が右足シュートを狙うが、これは相手のブロックに阻まれてゴールネットを揺らすことはできない。青赤一丸となって最後まで懸命の反撃を試みたが実らず、天皇杯の頂点をめざした挑戦は準決勝で力尽きることになってしまった。
MATCH DETAILS
<FC東京>
STARTING Ⅺ
GK 波多野豪
DF 室屋成/森重真人/長友佑都/アレクサンダー ショルツ
MF 安斎颯馬(延長前半15+2分:遠藤渓太)/高宇洋(延長後半3分:東慶悟)/小泉慶(延長前半14分:土肥幹太)/マルコス ギリェルメ(後半16分:野澤零温)
FW 佐藤恵允(延長前半14分:山下敬大)/仲川輝人(後半16分:マルセロ ヒアン)
SUBS
GK 後藤亘
DF エンリケ トレヴィザン/白井康介
MANAGER
松橋力蔵
GOAL
―
<FC町田ゼルビア>
STARTING Ⅺ
GK 谷晃生
DF 望月ヘンリー海輝/昌子源/ドレシェヴィッチ
MF 中村帆高(延長後半12分:増山朝陽)/前寛之/中山雄太(延長後半7分:下田北斗)/林幸多郎
FW ミッチェル デューク(後半29分:ナ サンホ)/相馬勇紀(延長後半12分:桑山侃士)/藤尾翔太(後半29分:オ セフン)
SUBS
GK 新井栄聡
MF 白崎凌兵/沼田駿也/仙頭啓矢
MANAGER
黒田剛
GOAL
延長前半13分:林幸多郎 / 延長後半4分:オ セフン
[松橋力蔵監督 インタビュー]

Q、本日の試合の総括をお願いします。
A、非常に残念な結果になってしまいました。試合をとおして、自分たちの流れをなかなか作れない場面が多かったと思います。相手がやってくることに対して守備の部分でのプレーに関しては、満足できる部分もありましたが、こういう試合展開のなか、こういう流れのなかでどちらがその一瞬のチャンスを掴みとるかが重要になると、選手とも話していましたが、そこを残念ながら我々がとることができず、相手にとられてしまいました。非常に残念なゲームになってしまいましたが、選手は本当にしっかりとファイトしてくれましたし、そういう部分では素晴らしいプレーをしてくれたと思っています。
Q、延長戦に入り、疲労などいろいろな要素があったと思いますが、ボランチの選手交代についてどのような意図だったか教えていただけますか。
A、まずは、かなりの疲労感があって足が痙攣している部分があったということがひとつと、あとはもう得点をとりに行かなくてはいけないというところで、最後に切ったカードの東慶悟選手に関しては、やはり攻撃の配球という部分です。とてもオープンな流れのなかで、何回かそういうポイントでボールが彼に収まることによって、マルセロ ヒアン選手であったり、前線の選手をうまく活かしてもらいたいという意図の交代でした。
[選手インタビュー]
<小泉慶選手>

Q、試合を振り返ってください。
A、シンプルに完敗かなと思います。結果がすべてです。
Q、延長に入った時点でどうやって得点を奪いにいこうと考えていましたか。
A、相手もシンプルにフォワードを目がける、または対角線のロングボールを蹴ってきていたので、そのセカンドボールを拾って慌てずにボールを繋いで相手陣地に押し込んでいくという狙いがありました。ただ、チャンスはあったかもしれませんが、もっと意図的にチャンスを作る回数を増やさなければいけないと思いますし、個人的にもチャンスを作る配給や飛び出しという部分はもっとやらなければいけないと感じています。
Q、苦しい状況で迎えた一戦だったと思います。
A、天皇杯でもここまで苦しい状況はたくさんありましたが、全員の力でここまでくることができたと思いますし、今日も総力戦で勝ってもう一個上の景色を見たかったです。でも結果がすべてだと思いますし、ちょっとした差かもしれませんが、その差が重なって結果としては大きな差になってしまったと感じています。
Q、今シーズンは、リーグ戦のあと2試合で終了します。この悔しさをどう繋げていきたいですか。
A、体力的には一回リセットをしてもいいかもしれませんが、休んでいる間にこの敗戦を一人ひとりがしっかりと受け止めて、プロサッカー選手として、東京の選手としてしっかりとしたプレーをラスト2試合で見せられるようにやっていきたいと思います。
<佐藤恵允選手>

Q、拮抗したゲームで悔しい結果になりましたが、試合を振り返っていかがですか。
A、相手は先週と何もやることは変わっていなかったですけれど、自分たちがもっと足元で繋ぐことができたと思いますし、自分たちのやりたいことができなかった結果だと思います。
Q、天皇杯のタイトルに懸けている想いもチームとして強かったと思うのですが、今回の結果をどのように受け止めて、ここからどうやって切り替えていきますか。
A、本当に天皇杯を獲りたくて、チームとしてもここに懸ける想いは強かったですし、勝って次に進みたかったのですが、負けてしまったので。ただ、今シーズンはまだリーグ戦が2試合あるので、いますぐに切り替えるのは難しいですけれど、プロである以上はしっかりと切り替えてリーグ戦を戦わなければいけません。ファン・サポーターのみなさんも自分たちと同じくらい悔しいなかでも、試合後に拍手を届けてくれました。自分がすごく不甲斐ないと思いましたし、ファン・サポーターのみなさんの気持ちに応えられなかったことがすごく悔しいです。最後に周回している時に拍手をしてくれている、その期待に応えるためには本当に自分たちが切り替えなければいけないので、リーグ戦の2試合で勝ってシーズンを終えたいと思います。
Q、守備の面では相手の良さを消すことができていましたが、攻撃面で得点をとるという部分で何が必要だったのでしょうか。
A、自分たちのサッカーをやるということ、下(足元)で徹底することが必要だったと思います。上(空中戦)は相手が強いということは分かっていたので、自分たちがどのように相手のラインの間でボールを受けて相手を釣り出してスペースを作ってそこを突いていくか。そういう練習でやってきたことが出せなかったのが一番の敗因だと思うので、守備は本当にしっかりと守ってくれていたのに、自分たちが決められなかったというのが非常に悔しいです。
Q、前半は良い形を作れていたように見えましたが、後半に少し歯車が合わなくなったように感じました。どういう要因があったのでしょうか。
A、前からのプレスがかけられなくなって相手がボールを保持する展開になってしまいました。どうしても相手のディフェンス5枚に対してツートップで守備をしているだけでは奪い切ることはできないですし、相手の攻撃は自分たちのボランチを釣り出してロングボールを入れてセカンドボールを拾うという狙いがあったので、ロングボールを入れられるよりは、自分たちが二枚で追いかけて繋がせることで、相手が焦れるのを待つという方が怖くないという決断でした。そこは割り切って二枚で守っていましたが、なかなかボールを奪い切れない展開が続くことで、相手の時間帯になってしまったと思います。
<室屋成選手>

Q、決勝進出にはあと一歩届きませんでした。
A、自分たちはベストを尽くしましたが、ディテールの部分の差が失点につながってしまいました。今は試合が終わったばかりで、何も考えられませんが、決勝に行けず、本当に残念です。
Q、均衡した試合で延長前半に失点。延長戦全体の進め方についてはどのように振り返りますか。
A、相手の狙いは理解していましたし、しっかりと耐えてカウンターから得点を奪いにいく狙いでした。ですが、カウンターのクオリティやチームとしてのボールの運び方については、物足りない部分があったと思います。チームとしてあの時間帯に失点をしてしまったことは痛かったですし、延長後半に追加点を与えたことが試合をあのような形で終えてしまった要因です。最低でも0-1の状況で進めたかったですし、チームとして最後の最後までチャンスを得点につなげたかったです。
Q、相手のカウンターを防ぐなど、球際の強さを随所で発揮していたと思います。
A、FC町田ゼルビアがどのようなサッカーで仕掛けてくるのかを僕らは理解していましたし、それに対して僕らが局面で上回ることができなければ勝ちにつなげられないことも分かっていました。ピッチに立った選手たちは100パーセントの力を出して実行していたと思います。僕らの力と少しの運が足りませんでした。ですが、このチームを誇りに思います。
リーグ戦の話になりますが、残留争いに巻き込まれる苦しい時もあったなかで、松橋力蔵監督をはじめとするスタッフの努力や、チームメイトのハードワークがあったからこそ、天皇杯準決勝まで進むことができました。その点については、感謝に尽きると思います。





