青赤から世界へ。来年6月に開幕するFIFAワールドカップ北中米大会のシミュレーションを兼ねて、日本代表が開催国となるアメリカ遠征を敢行した。9月6日に西海岸のオークランドでメキシコ代表と、同9日には中2日でアメリカ中東部のコロンバスでアメリカ代表と対戦。東京から森保ジャパンに選出された長友佑都選手は慣れ親しんだ背番号5を渡され、メキシコ代表戦の戦況をベンチから見守ると、アメリカ代表戦ではキャプテンマークを託されて3バックの左ストッパーとしてスターティングメンバーに名を連ねた。青赤で目を見張るコンディションの良さを見せてきた長友選手は、果たしていかなる想いで世界と対峙したのか。今回は日本代表を密着取材し続ける青山知雄氏による現地レポートをお届けする。

自分自身の存在価値を証明すると意気込んで臨んだアメリカ遠征。そこで長友佑都が手にしたものは、強烈な危機感と大きなモチベーションだった。
アジア最終予選、7月の東アジアE-1選手権と約2シーズン半にわたって続いたアジア勢との戦いに一区切りをつけ、いよいよ本大会をイメージして世界各国とのテストマッチに挑み始めた森保ジャパン。選手たちにとっては同時に最終メンバー入りを懸けたし烈なサバイバルレースがスタートすることになった。
どれだけチームの力になれるかと同時に、個々の存在価値を証明していく戦いだ。自身5回目のワールドカップ出場をめざす長友は、アメリカの地に立ち、あらためて本大会への想いをこう口にしていた。
「人それぞれ表現の仕方があるけど、僕には隠そうとしても隠し切れない情熱がある。生き残るための意志は僕が一番強いと思う。それを前面に押し出して、自分の価値をしっかり証明したい」
メキシコとの初戦をベンチで見守り、内容で優位に立ちながらスコアレスドローに終わったゲームを見て彼が感じたのは「ワールドカップだったら勝点2を失った試合だった」ということだ。
「今日は前半から圧倒していたし、勝てる試合だった。前半30分くらいは本当にほぼハーフコートゲームに見えたし、メキシコにこういう試合をできたのは間違いなく力がついている証拠。だけど、ワールドカップではそういう話を言いたくない。こういう試合をモノにしていかないと、上にはいけない」
本大会で悔やむようなことはしたくない。だからこそ課題をしっかりとクリアにしていきたい。同時にゴールを決められなかった点についても、「後ろの選手から良いボールを配給したり、クロスボールの質を上げたりすることでもっとゴールに近づくはず。その回数を増やさなければ」とチームの戦い方と自身の出場機会にイメージをふくらませていた。

迎えたアメリカ戦。左腕にキャプテンマークを巻き、先頭を切ってピッチへ入場してくる背番号5の姿があった。ポジションは7月の東アジアE-1サッカー選手権と同じ3バックの左ストッパー。日本代表のセンターバック陣に負傷者が続出していることもあり、「今回のメンバーを見た時から、3バックの左かなと思って準備してきた」というポジションでピッチに立つことになった。
かねてから「インテル(インテル ミラノ)時代の長友に戻ってきている」と自ら話していたとおり、コンディションの良さは申し分なく、慣れないポジションでもしっかりとプレー。チームとしてメキシコ代表戦で課題になった部分を意識しつつ、周囲に声を掛けながらバランスをとり、機を見た攻撃参加を見せていく。
前半9分には左足で右サイドへ大きくサイドチェンジすると、これが右サイドの望月ヘンリー海輝から伊東純也へと渡って決定機の起点に。同21分には機を見たオーバーラップから右足でクロスボールを供給して望月のダイビングヘッドを呼び込み、再び大きなチャンスを演出した。さらに同26分には最終ラインから1トップの小川航基へグラウンダーの縦パスを通し、さらに押し上げて受け直すことで攻撃に厚みを加えていく。
守っても相手の縦パスに出足の鋭いカットを見せ、空中戦で力強く跳ね返す姿も披露。スピード勝負でも負けることなく対応し、カウンターの芽を素早く摘むシーンもあった。長友自身も「対人でやられるとか、空中戦も含めて、別にやられる感覚はなかった」と振り返ったが、そこで悔やんでも悔やみ切れない瞬間を迎えてしまう。前半30分のことだった。
アメリカはクリスティアン プリシッチが左サイドから仕掛けてクロスボールを入れると、中央でアレックス センデハスが左足で豪快なダイレクトボレーを叩き込んで先制。長友にとっては自分の目の前でゴールを決められる形になってしまった。ほんの一瞬の出来事だったが、国際試合の怖さを改めて感じさせられるシーンでもあった。

長友は前半に深いタックルを食らって右足首を痛めた影響もあってか、1点のビハインドを背負ったハーフタイムに瀬古歩夢との交代でピッチを退くことになってしまう。長友がアメリカ戦のプレーを自己総括する。
「失点に絡んでしまったので、そこは重く受け止めて反省しなきゃいけない。ああいったスキとか間合いも含めて、このレベルではちょっとした甘さでやられてしまう。もっと寄せられたし、最悪でもコースを限定するくらいはもっとできた。あのコースにシュートを打たれたら、もうゴールキーパーとしては止められないので、そういった意味ではすべて自分の責任だし、自分の甘さ。本当にもっともっとやらないと話にならない」
失点に絡んでしまった理由について長友が続ける。
「やっぱりJリーグとは強度、スピード感が全然違った。寄せの速さ、判断、スピード、身体能力も含めてですね。すべての速さがやっぱりJリーグとは違うと感じた。自分が本当に意識をしないと取り残されてしまうという危機感を強く持ったので、もう一つ厳しく……もう一つどころじゃないですね、本当に厳しくやっていかないと、ワールドカップ優勝メンバーの一員にはなれない。危機感にプラスしてすごいモチベーションが湧いています」
アメリカ戦に向けて「自らの存在を証明したい」と話していた長友。自分を厳しく評価したからこそ、あえて“証明”という言葉について聞いてみた。
「いやいやいや、証明なんかまったくできてないでしょう。もっと厳しくやらないと。自分のなかでは痛い目に遭ったので。Jリーグで本当の意味で圧倒するレベルにならないと、ワールドカップのメンバーにも入れないです。なので、危機感を持って、また東京で厳しく、激しくやります。マジでモチベーションは上がっています」
普段からどれだけ意識高くプレーできるか。すべてはそこに尽きるだろう。練習でも、試合でも、今の判断で、今のプレーで、ワールドカップで通用するのか。ワールドクラスのアタッカーを止められるのか。世界を相手にパスを通せるのか。一つひとつのプレーにどれだけこだわって、高みをめざし続けられるかが運命を分けることになる。フィジカルとコンディションはインテル時代の状態に戻しつつある。ならば、あとはどれだけ世界と戦うための感覚を呼び起こしてバージョンアップできるかだ。
かつてヨーロッパのトップレベルで世界と対峙し、ワールドカップの舞台でも強い存在感を見せてきた。あの時の研ぎ澄まされた感覚をもう一度取り戻さなければ、そして当時を上回らなければ、サッカー人生を懸けて挑もうとしている5度目の大舞台には届かない。奇しくも本大会の地で行われたアメリカ代表戦は、彼にそう自覚させるゲームとなった。

アメリカ遠征を終えて小平での日常に戻った9月12日、長友佑都が39歳のバースデーを迎えた。強烈な危機感とモチベーションを抱いて戻ってきた青赤での帰国後初戦は、絶対に負けられない、いや勝たなければならない相手との対戦となる。「Jリーグで圧倒的な存在にならなければならない」というコメントを受け、帰国後初戦となる大一番への覚悟をアメリカ戦後に聞いた。
「もうそこです。そこに向けて、すべてを懸けて戦います」
完全にスイッチが切り替わった長友佑都。帰国後、自らのSNSで「必ず強くなって戻るからな」と9か月後に再びアメリカの地を踏むための想いを綴った。逆境こそがチャンスだ。これまでもそうやって雑音をシャットアウトしてきた。自らの存在価値を証明するために、そして東京を高みに引き上げるために。39歳になった青赤の背番号5が、寝た子を起こし、自らの感覚を呼び覚まして“長友史上最高のパフォーマンス”を追求する戦いに出る。
(文中敬称略)
Text by 青山知雄
Photos by JFA


