2026年のFIFAワールドカップ北中米大会に向けたメキシコ代表、アメリカ代表との国際親善試合に臨むSAMURAI BLUE(日本代表)に、東京から長友佑都選手が選出された。9月1日(月)に渡米し、開催国となる現地で試合に向けたトレーニングに励んでいる。7月の東アジアE-1サッカー選手権で約2シーズン半ぶりの日本代表キャップを記録した青赤の背番号5は、果たしてアメリカの地で何を考えているのか。森保ジャパンを継続取材する青山知雄氏が、彼の表情と想いをレポートする。
いよいよ本大会開催の地、アメリカの地を踏んだ長友佑都。来年6月の開幕をイメージしながら、さぞかしテンションを上げているのではないか──。現地での練習初日、そう思って取材エリアに足を運び、本人に質問を投げかけてみた。だが、その答えはこちらの想定から何歩も先へ進んだものだった。
「まず気候が最高に良くて。今、日本の暑さをすごく体感しているところだったから、まずサッカーするには最高の気候だなと。(本大会開幕は)もうイメージはしているし、行ったイメージまでちゃんとできているので、ここに来ても『気候が良いな』と思ったくらい。あとは自分の実力をしっかりと出すだけですね」

語気を強めることもなく、淡々と冷静に話をしていく。これまでの日本代表取材では、代表への熱い想いを語るシーンが印象的だったが、最初の一言で従来の空気感とも違うものを感じた。その理由がここから明らかになっていく。
もう一つ、絶対に聞きたいことがあった。青赤で見せる抜群のパフォーマンスを日本代表の舞台で試したいのではないかということだ。長友に続けて質問を投げてみる。
「今の状態なら代表でしっかりとプレーできる。自信を持ってそう言えるコンディションに戻ってきたと思いますね。自分のなかではインテル ミラノ時代の全盛期の自分に戻すというところに取り組んでいて、徐々に戻ってきていますし、あと一段二段上げれば、最高の状態の自分を見せられる。自分の感覚では 3か月以内くらいにその状態に持っていけると思います」

東京でもかねてから「インテル時代の長友に戻ってきている」と話していたが、それは漠然とした印象論ではなく、実際に数値を含めたトレーニングを積み上げてきたからこその自信だった。アジア人初の5大会連続ワールドカップ出場をめざして、コンディショニングとパフォーマンス向上のために特別チームを編成。今月12日で39歳を迎えるが、「負荷もかなり上げている。39歳のレベルの負荷ではないと言われるのかもしれないですけど、僕のなかで細胞たちがかなり元気にはしゃいでいるんで、すごく良い状態に持ってこれていると思う」と充実の表情で語る。
継続的に東京を観ている人なら、現在の彼がいかに良いコンディションで、攻守にアグレッシブなプレーを披露できているかはお分かりだろう。今シーズン序盤までは守備での貢献が目立っていたが、夏場に入ってスピードやパワーといったフィジカルに加えて攻撃面での積極性が光る。渡米前週には2025明治安田J1リーグ第28節京都サンガF.C.戦から中2日で浦和レッズとの天皇杯準々決勝に臨み、ともにフル出場。浦和戦後には年齢と疲労蓄積について聞かれ、「(足の)ハリは全くない。問題ない」と答えていたばかりだった。

思えば2024年3月の日本代表復帰以降、森保ジャパンでは約1年3か月に渡って出場機会を得ることができなかった。アジアカップ敗退で消沈するチームを盛り上げることを期待されての代表復帰という側面もあったが、実際にベンチから外れる試合が多く、招集の是非を問うような雑音も聞こえてきた。だが、彼は未来を見据え、年齢に抗い、圧倒的なメンタルを武器に状態を上げて、ここまで戻ってきた。だからこそ言える。ここからが本番だと。
日本代表は最終予選からE-1と続いたアジアの戦いに一区切りをつけ、本大会に向けて世界を相手に腕試しをするフェーズへと移行する。同時に長友の戦いも新しいステージへと移っていくことになる。
「僕は相手が強ければ強いほど力を発揮できる。いよいよ僕が真骨頂を発揮できるタイミングがきた。ここからはレギュラーを奪取するフェーズ。裏で盛り上げるとか、そのフェーズはもう自分のなかでは終わり。ここからはレギュラーを奪取するというフェーズに入ってきたんで、負荷を上げてしっかりとインテル時代の自分に戻すことに取り組んでいます」

冷静に自己分析しながらも、その言葉からは抑え切れない熱量が伝わってくる。思えば代表復帰を果たした2023年3月の練習初日、テンションが上がりすぎて「細胞たちがうずき始めた」ことで朝5:00に目が覚めてしまったエピソードを明らかにしていた。久々に出てきた“細胞”というワードで当時を思い出し、現在地と比較して細胞の沸騰具合を聞いてみた。
「それはもうピッチ上の姿を見てください。それを証明する時がきたんで。そこは僕が言うところではなくて、その沸騰具合を見てもらえたらと」
自信があるからこその冷静さ。抑え切れない情熱をピッチでぶつける時がきた。取材冒頭で覚えた違和感は、彼の挑むべきフェーズが変わったからこそのものだったのだろう。ここからの戦い、感じている手応えも確固たるものがある。
アジア人初の5大会連続ワールドカップ出場、森保ジャパンでのレギュラー奪取、そして世界の頂点をめざして、長友佑都の新たな戦いがあらためてアメリカの地でスタートを切る。
(文中敬称略)
Text and Photos by 青山知雄

