<前節・湘南ベルマーレ戦のレビュー>
幸先の良いスタート、そして後半開始早々に追加点を奪うという理想的な展開だった。
まず先制ゴールを決めたのは新エースの背番号26だ。前半6分、右サイドで得た直接フリーキックを俵積田晃太選手が右足でゴール前へ送り、相手に弾かれたこぼれ球をバングーナガンデ佳史扶選手が左足で入れると、エンリケ トレヴィザン選手が頭で落としたところを狙ったのは長倉幹樹選手。右足のダイレクトでしっかりとミートしたシュートをゴールに突き刺し、アウェイに詰めかけた多くの青赤ファミリーを熱狂させた。その後も攻守に積極的なサッカーを見せて主導権を握ると、1点のリードで前半を折り返す。

早い時間に追加点が欲しい状況で、後半も早い時間で東京に歓喜が訪れる。後半7分、エリア内で野澤零温選手が倒されてペナルティキックのチャンスを獲得すると、これをアレクサンダー ショルツ選手が右足できっちりと沈めて追加点。反撃に出る湘南の裏をとる形でリードを広げることに成功した。
だが、ここから湘南の勢いに押される時間帯が続いてしまう。後半22分にミドルシュートのこぼれ球を押し込まれて1点を返されると、試合終了間際にはコーナーキックから痛恨の失点で2-2に。後半にもカウンターから複数のビッグチャンスを作りながら決められず、勝負どころでネットを揺らされて目前で勝利を逃す結果となってしまった。
<今節のプレビュー>
アウェイでの前回対戦で喫した0-3の完敗。ともすればブーイングが鳴り響いてもおかしくない状況だった。だが、ゴール裏から発せられたのは、変わらぬサポートと共闘を伝える熱いチャント。スタンド前で立ち尽くし、聴き入っていた選手たちへのメッセージは、青赤イレブンがロッカーに戻ったあとまで続いた。クラブにとって、チームにとって、そして青赤のファン・サポーターにとって、長く記憶に残っていく大事な瞬間だった。
絶対に勝ちたい、いや勝たなければならないゲームになる。チームはアウェイ京都で味わった悔しさも糧に、システム変更や新戦力の躍動もあって中断明けから一気に調子を上げて結果を残してきた。だが、前々節の鹿島アントラーズ戦で決定力を欠いて敗れると、前節の湘南ベルマーレ戦では決定力不足に加えて試合終了間際の失点で勝利を逃してしまった。
内容は間違いなく向上しているが、連勝街道を走ることができていないという現状には向き合わなければならない。勝ち切れない原因を受け入れながら、引きずらずに前に進むことが必要だ。
ホームでの京都サンガF.C.戦を翌日に控えた松橋力蔵監督は「湘南戦は勝点3をとるべきゲームでしたが、それが1になってしまった。どうしてもネガティブにならざるを得ない部分はありますが、それも自分たちの姿。しっかりと受けながら、学んだことを表現しないといけない。1試合に懸ける気持ちとしてはポジティブで強気に、攻撃的にいきたい」と前を向く。

5月末に行われた前回対戦は、相手のプレスを回避するためにロングボールで裏のスペースを狙おうとしたが、安易に縦へ蹴り出すケースが増え、相手の苛烈な追い込みに押し込まれる形で攻撃の形を作り出せず。ビルドアップ時に圧力を掛けられ、最終ラインでボールをロストして失点するなど相手の良さばかりが目立つ展開で完敗を喫した。今回の対戦でも京都のハイプレスをどう受け流して攻撃に転じるかがポイントになる。
「相手がプレスにくるのは分かっている」と話すのは、ボランチの小泉慶選手。京都戦に向けた戦い方や気持ちの持ち方について語る。
「セカンドボールの競り合いで負けてしまうと、本当に前節(湘南戦)みたいにゲーム自体を持っていかれてしまう。そこはチームとしても個人としても、しっかり意識してやれればと思います。そこで回収できればショートカウンターは東京の武器だし、ボールをつなぎながら攻めるかどうかは適切に状況判断していきたい。個人で剥がすだけでなく、味方同士がしっかりつながって、良い距離感でやることが必要」
球際を制し、相手の急所を突く。相手が前掛かってくるのならば、的確に裏のスペースを狙いたい。暑さと湿度という厳しい環境とも戦わなければならないが、
それも覚悟の上。バングーナガンデ佳史扶選手は「セカンドボールの回収からショートカウンターを狙う形がチャンスになると思う。球際のバトルが勝負の際(きわ)。暑いなかでも最後までやり切ることがカギになってくる。終了の笛が鳴るまでそういうところを意識していきたい」と勝負のポイントを見極める。
思えば、アウェイ京都戦の悔しさがチームを一つにまとめ、しっかりと前進させるきっかけとなった。青赤ファミリーの熱量は確実にチームに伝わっている。湘南戦の結果も踏まえて、長友佑都が熱く語る。
「あそこでブーイングっていう選択もあったと思うんですけど、ファン・サポーターが同じように苦しい気持ちのなかで僕らを後押ししてくれたことは、僕も含めて選手にも相当響いた部分があった。でも、それを結果で返していかないと、それを裏切ることになる。もう結果を残していくことでしか彼らに恩返しはできない」
チームを変えたあの瞬間、あの熱に応えるために──。
青赤軍団に求められるのは、味の素スタジアムを笑顔にする試合終了のホイッスルを響かせることだけだ。
[松橋力蔵監督 インタビュー]

Q、昨日誕生日を迎えてどのような一年にしたいですか。
A、みんなに言っていることは、人の役に立てる人間になりたい、ということです。そういう部分での成長や人としての厚み、なにかそういったものが、今のこの自分の立場というものをより成長させられると思います。まずは監督としてというよりも、やはり人間としての部分を求め続けていきたいです。
Q、今週は京都サンガF.C.戦になります。鹿島アントラーズ戦、湘南ベルマーレ戦と悔しい思いをしました。
A、試合の流れだけでいえば勝点3をとらなければいけない試合で勝点1になってしまったのは事実です。ですが、勝点1をとれたと思ってしまうような内容でした。これが自分たちの姿ですし、そこはしっかり受け止めながらも、やはりここで試合から何を学べるのか、試合後になって分かることを繰り返してはいけないというところは、今節でしっかり表現しなければいけないです。
Q、今の京都はどのような印象でしょうか。
A、『勢いがある』ではなくて、チームとしての成熟度を感じるのが、今シーズンの京都です。やろうとしていることの質の高さを感じます。それは得点力を見てもはっきり出ていますし、本当に素晴らしいチームだと思っています。
シンプルに前線にボールを供給したプレーや高さをうまく利用した攻撃など、そういう起点を使いながら人数をかけてゴールをめざしてきます。攻撃の質、連動性、ルーズボールやセカンドボールに対してのリアクションであったり、セカンドアクションが加わり、鋭く仕掛けてきます。ただ、奪った後には我々の前方にあるスペースというのは非常に広大です。そのスペースをうまく使っていくことが必要になります。
[選手インタビュー]
<バングーナガンデ佳史扶選手>

Q、公式戦の出場機会が増えてきたなかで、現状感じる手応えと課題を教えてください。
A、試合に出場しはじめてから1か月半ほどが経過しましたが、手応えを感じる部分と課題の両方が見えています。先日の湘南ベルマーレ戦ではクロスボールの質やキックの強さといった点において、チームの先制点につながるプレーができましたし、自分のなかで手応えを掴みつつあります。その一方で、守備におけるクロスボールへの対応やボールサイドへのアプローチなど、多くの課題も見つかっています。全体的な身体のコンディションは、GPSの数値からも分かるのですが、上がってきているので、コンディションをさらに高めていきながら、試合を通じて新たに見つかる課題を一つひとつ修正しながら取り組んでいる状況です。
Q、夏場の厳しい戦いではありますが、試合の締め方についてどう改善していきたいですか。
A、些細な隙が勝敗を分けると考えています。直近の湘南戦ではラストプレーで失点してしまったように、そうした一瞬の隙が失点や勝敗に大きく直結します。細かいディテールにこだわって、最後までハードワークし続けることが、夏場の戦いにおいて今後さらに重要になると思っています。今節対戦する京都サンガF.C.はハードワークを持ち味とする素晴らしいチームですが、僕たちもその点では決して負けていませんし、京都を上回る選手が揃っています。夏の暑さという条件は相手も同じですし、集中力を切らさずに相手を上回ることができれば、自ずと僕らのペースで試合を運ぶことができると思っています。最後までハードワークを継続することが、試合において重要なポイントになると感じています。
Q、京都は、ロングボールやサイド攻撃を強みとし、クロスからの得点率が非常に高いチームです。 A、ハードワークできる選手が集まっており、サイドバックも積極的に攻撃参加し、前線の3トップには個人で打開できる選手が揃っています。サイドからのクロスボールを起点とした得点が多いことも試合の映像を確認していて、注意すべきポイントです。ですが、相手のサイドバックが攻撃的に上がってくる分、その背後にはスペースが生まれるので、守備陣全体で連携してクロス対応をうまく行い、そのスペースを突いてカウンターを仕掛けられれば、必然的にチャンスが生まれると考えています。まずはその守備の局面で、高い強度で相手を上回り、こちらにチャンスを引き寄せたいです。
<小泉慶選手>

Q、ロングボールを活かした攻撃が持ち味の京都サンガF.C.に対してタイトな守備が求められると思います。
A、まずは簡単に蹴らせないこと、前から守備を仕掛けていくことが重要だと思います。仮に蹴られたとしてもセカンドボールの回収率を高めること、ルーズボールに対してどれだけ素早く反応できるか、だと思います。しっかりと集中して、チームとしても個人としても徹底していきたいです。プレー強度を高くして90分間戦うことは、京都も特に意識していると思いますし、その部分で相手より上回りたいです。そうすることで試合のリズムや主導権も必然的に僕らに傾くと思っています。根本的なプレーで負けてしまうと、前節のような試合になってしまいます。最後の最後まで身体を張っていきたいです。
Q、セカンドボールの回収が相手の良さを封じるキーポイントになると思います。
A、その局面で相手に上回られてしまうと、前節のように試合の流れのすべてが持っていかれてしまいます。回収して終わりではなく、重心が前になっている相手に対して、僕らの強みであるショートカウンターを仕掛けていきたいです。ただ、ショートカウンターを仕掛けるか、一度落ち着かせるべきかのジャッジや状況判断は、素早く正確に行いたいと思います。
Q、前回の対戦では京都のハイプレスにも苦戦しました。
A、まずは個の局面で剥がす意識と精度だと思います。特にサイドバックとボランチの選手は意識を高めてプレーしなくてはいけません。個人だけではうまくいかない局面では、選手の距離感やしっかりリンクしたプレーが求められます。京都がハイプレスでくることは分かっているので、味方同士がしっかりとプレーの繋がりを意識していればボールを動かすことができると思っています。
あとは攻守において受け身にならないことです。今節は僕たちのホームですし、ピッチに立つ11人が、良い意味でのびのびとプレーできればチーム、個人それぞれの良さがもっと出ると思っています。


