アルベル監督 ✕ 戸田和幸氏 対談

INTERVIEW2022.1.16

アルベル監督 ✕ 戸田和幸氏 対談

2022年1月15日に開催された2022FC東京新体制発表会でのアルベル プッチ オルトネダ監督と戸田和幸氏の対談、そして壇上だけでは時間が足りず、別室で続いた対談内容を掲載します。
対談の様子を動画にてご覧になりたい方は本記事末尾のYouTubeにてご覧ください。

<新体制発表会>

戸田氏
こんにちは。普段は指導者もやっているのですが、コメンタリスタ(試合解説)もやっているのでこの会に呼んでいただきました。

アルベル監督
でも、昔は少しはサッカーがうまかったと…

戸田氏
そんなにうまくなくて一生懸命プレーするタイプでした(笑)

アルベル監督
ボール扱いは少しはうまかったと聞いています(笑)

戸田氏
ほんのちょっとです(笑)
新潟での挑戦を終えて、今回首都のクラブでまた新たな挑戦が始まります。先程の話(対談前に実施されたアルベル監督の話)からも、日本に対する理解を感じますが、まずFC東京というクラブの昨シーズンについて、どのように見ておられたかを聞かせてください。

アルベル監督
様々な試合を見ました。FC東京はいい試合もありましたけれども、必ずしもそうでない試合も多かったと思います。前監督が数年間指揮を執っていたわけですけども、当然素晴らしいシーズンもありました。ただ、人の記憶というのはどのように終わったかが明確に残るものです。そういう意味では昨シーズンの終盤が必ずしもいい形では終わらなかったというのは記憶に残っているのではないでしょうか。

戸田氏
サッカーのスタイルについてお話をさせていただきます。
以前のインタビューでも言われていた「みんなで旅をする」という、ボールをしっかり保持をして、ゲームもコントロールするし、もちろんプレスもする、というアルベル監督が推し進めてきたスタイルは、おそらくFC東京が掲げてきたプレッシングだったり、守備からカウンターというスタイルとは異なります。新たな場所でのチャレンジでもありますが、サッカーのスタイルという意味でもクラブとしても決断をした部分だと思います。これからアルベル監督の哲学を浸透させる上で、どれぐらいの時間が必要だったり、どんなことがこれからトレーニングのなかで必要になるとお考えでしょうか。

アルベル監督
どれぐらい時間が必要かというのはやはりある程度予測はつくものです。私がイメージしているなかでは、最初の6ヶ月間というのはそれなりに苦しむ時間が続くかと思います。最初の6ヶ月間というのは、いろいろなことを試し、そしていろいろと調整しなければいけません。そして、6ヶ月ほど経ったときには、チーム・選手たちは新しいプレースタイルを十分理解して、いいプレーをすることができ始めると思いますが、当然ミスというのは継続的に起こるものです。それを1シーズン続けた後、2シーズン目というのは当然シーズン当初からいいスタートが切れることが十分予想されます。そしてそのプロジェクトが3シーズン目まで継続する場合には、さらに高いレベルでプレーすることが予想できます。その後により多くの大きな成功を成し遂げられると思います。私にとっての大きな成功というのは、こうしたベースが構築されたチームにアカデミーから若い選手がどんどんトップチームにあがっていく流れを継続的につくっていくことだと思います。そしてそこに加わる外国籍選手というのは、明確に違ったものをチームに提供できる選手でなければいけません。

戸田氏
そういう意味では、新しい監督が来て、しっかりとチームとして取り組むものに対しての基準や求めているものを打ち出した上で、年齢問わず、トレーニングからみていくのでしょうか。

アルベル監督
ピッチの外では当然目上の人にリスペクトをしなければいけません。けれどもピッチ内では違います。35歳であろうとも、16歳であろうとも、ピッチに立てば同じです。そしてサッカーというのは、長身の選手にも背が低い選手にも、そして細い選手にも太った選手にも平等にチャンスを与えてくれます。明日、初めて全選手に会いますが、そこで選手たちに伝えたい一番のメッセージがあります。もっとも重要なことはチームが一致団結していることです。そうでなければ成功は収めることはできません。重要なことはチームが一つにまとまっていることで、そこには年齢も関係ないですし、国籍も関係ありません。

そして私が求めるプレースタイルには、選手同士のコンビネーションが必要です。コンビネーションは選手同士の強い絆がなければ表現できません。選手はロボットではありません。一人ひとりがもっているイマジネーション、一人ひとりがもっている自分の個性というものをピッチで表現してほしいと思います。一方で一人ひとりがチームのために汗をかかなければいけません。走らなければいけません。なぜならば一人でもサボればチームの完成度というのは劇的に下がってしまうからです。それゆえにもっとも大切なのはチームが一致団結していることです。

戸田氏
東京にはすごく献身的に走ることができる選手ばかり揃っていると思います。一方で、アルベル監督の哲学やスタイルという意味では対極のように思います。新潟と同じことをやるとは思いませんが、打開力があったり、走ることにすごく長けている選手たちを、監督の哲学のもとにうまく導いていくというのは一般的に難しいのでしょうか。

アルベル監督
私が東京で求めようと思っているプレースタイルは新潟と変わりありません。けれども、選手一人ひとりの個性を最大限ピッチで発揮させるのがチームです。そういう意味では今、目の前にいる選手たちの個性を理解して、そしてその個性を出すようにするのがプレースタイルというものです。例えばグアルディオラが率いてもバルセロナ、バイエルン ミュンヘン、そしてマンチェスター シティは違ったプレーを表現していたと思います。バルセロナではチャビ、イニエスタ、メッシといった選手がいたことによってボールを失うことはほぼありませんでした。ベースとなるプレースタイルはあるといえども、選手が変わればそこで表現される個性と、チームとしての個性というのは当然変わってきます。

戸田氏
ちょうど時間になりましたので、まだお聞きしたいことがあるので、進行の都合上、別室の方で引き続きお話を聞かせていただけたらと思います。

アルベル監督
ありがとうございました。


<新体制発表登壇後 ー 別室にて>

アルベル監督
プレースタイルは選手によって変化しますが、とてつもない能力の選手が必要かというとそうでもありません。いろいろなプレースタイルがあって、好みがあるわけですけども、監督として一番重要視しなければいけないのは、選手が成長することです。私が好きなプレースタイルは、選手の成長を促せるという意味でも気に入っています。当然ながら、選手の質が高くなればなるほど、より多くの成功を収めることにつながります。それは他のプレースタイルでも同様で、より高いレベルの選手が揃えば、より多くの成功を収めることができると思います。ただ、他のプレースタイルと私が好むプレースタイルの差があるとすれば、私が好むプレースタイルでは、選手の成長を同時に促せると思っています。

私の方から逆に戸田さんに質問させてもらいます。
選手として長くプレーしてきたと思いますが、日本人の特徴に適したプレースタイルはどのようなものだと思いますか?

戸田氏
基本的には、西欧や南米と比べると身体的な部分、パワーなどが劣ると思います。一方で文化的にみんなと協力してものごとをつくっていくメンタリティは、自己批判の精神も含めて日本人はもっていますし、私はヨーロッパでのプレー経験があるんですが、学ぶ意欲も高いと思います。一方で、年上というか目上の人をすごく重んじるというか、自分の考えを前に出すというよりは、その場の空気を察して「まぁここだな」というところに上手く調節する能力に長けていたりもするので、それをピッチで上手く発揮するためには、年齢の壁をうまく取っ払ったり、ミスを恐れずにチャレンジしていく気持ちは必要だと思います。

簡単に言えば、日本人には自己主張の強い人は少ないです。それをいい方向に導くことができれば、チームとグループを意識してプレーすることにつながるでしょうし、おそらく監督やそういう人たちの振る舞い方によっては、失敗をしたくないとか、そういう方向に向いてしまう部分は、日本人にはあるかもしれません。

アルベル氏
今お話していることは勝負にこだわる適切なメンタリティということですね。
戸田さんはヨーロッパでプレーされていたんですよね。

戸田氏
イングランドとオランダでプレーしていました。

アルベル監督
イングランドとオランダはすごく差があったと思います。

戸田氏
全然違いました。
2003-2004年にトッテナムとADOデン・ハーグでプレーしました。

アルベル監督
イングランドではやはり勝負へのこだわりが強かったですか?

戸田氏
強かったですね。

アルベル監督
オランダは…

戸田氏
オランダはもっとまずプレーを、っていうところですよね。

アルベル監督
オランダはプレースタイルという部分ではすごく明確なものをもっているけれども、勝負にこだわるというところでは少し欠けている部分もあるかと思います。先程の話はまさに的を得ていると思うんですが、日本人選手はテクニックのレベルがとても高いと思います。そして、広い意味で戦術の部分でも決して悪くはない。けれども状況判断、自分で決断するというところでは、やはり改善点があると思います。そして先程話されていたミスを恐れるということと、大胆な判断をくだすことに苦労するということはつながってくると思います。興味深いのは、日本人選手はフィジカル的には、ヨーロッパや南米、アフリカの選手よりも、決して上回っていないにもかかわらず、日本では、イングランドのようにフィジカルを最優先したプレーをするチームが多いというのは正直驚かされました。

戸田氏
スタイル的には東京もそうでした。

アルベル氏
別に批判しているわけではありません。ただ、私の考えでは、自分たちの持っている個性、長所というのを発揮することが大切だと思います。例えば、スペイン代表は長い間何も勝ち取ることができませんでした。けれども、国内のクラブ、バルセロナやレアル マドリードは常にヨーロッパで覇権を争ってきました。素晴らしいクラブが揃っているにもかかわらず、それを代表するスペイン代表のプレーがなぜこんなにひどいのかというのはずっと言われていました。当時のスペイン代表というのは「戦わなければいけない」ということを重要視していましたが、そこにルイス アラゴネス監督がきてすべてを変えました。「ボールは転がらなければいけない。良いサッカーをしよう」と。チャビ、イニエスタ、彼らの才能をうまく活かしたのがスペイン代表でした。何も成し遂げていなかった代表がヨーロッパでチャンピオンになり、ワールドカップを勝ち取り、それ以降は常に上位争いをする国に育ちました。

自分の個性に適したものをめざさなければいけないと、私は思っています。戸田さんを含めて、監督として我々がやらなければいけないことは、目の前にいる選手一人ひとりの個性を理解した上で、その個性を引き出すことが我々の任務だと思います。多くの場合、監督というのは、選手を変えようとしたり、駒のように扱おうとすることがあります。結婚するときにも自分の好みのように相手を変えようとすることがあると思いますが、上手くいかないですし、多くの場合で人は変われないものです(笑)

私たちが好むこのプレースタイルというのは、選手の個性を発揮することにもつながるプレースタイルだと思います。そしてパズルのように、選手の配置を少し変えて、それぞれの選手の長所と短所をうまく補えるようなよりよい適切な組み合わせを探すことが監督の仕事のひとつです。例えば、サイドでの攻撃参加が得意な運動量の豊富なサイドバックがいるとします。そして、同じようにスペースに飛び出すことが得意なウイングがいたとします。では、その二人を同じサイドで使ったら何が起こるでしょうか。そこで長所が重なってしまっていいプレーができないと思います。個性の違う選手を組み合わせることによって、お互いの長所を引き出せるようなコンビネーションを組ませる方が個性を発揮できると思います。

戸田氏
先程、日本人選手の戦術理解が悪くないという話をされたんですが、新潟で指揮を執るなかで、選手のポジションへの理解や戦術の理解について、日本人選手の印象はどのようなものでしたか。私はスペインに行っていろいろと見させてもらって経験してきたのですが、日本ではそうした指導を受けていない可能性が高く、感覚に頼っている選手が多いのではないかと思います。

アルベル氏
どの分野でもですが、自分が伝えたいというものを相手が理解してくれるのは難しいものです。まずは監督として自分が表現したいものを細かい部分まで深く理解していないと、選手にわかりやすく伝えることは難しいですよね。2年前に新潟に行った際には、外国籍選手も含めて私が期待するプレースタイルでプレーしたことがない選手が多くいました。そして、補強した選手の多くも所属していたクラブでなかなかプレー時間に恵まれていない選手たちでした。まず最初にチームをオーガナイズしなければいけないわけですけども、それに加えて、プレースタイルだけではなく、よりプロクラブとしてふさわしい仕事をクラブ内でしていくということも同時に改善しなければいけませんでした。そして、今までこのプレースタイルでプレーしてこなかった選手たちのプレーを実際にみて、どの選手がどのポジションに適しているかということをまず我々も観察しなければいけませんでした。

2シーズン目、私のプレースタイルに適応した選手が残り、適している選手を外から獲得して補強しました。そしてよりスピード感ある形でチームの完成度を高めるために日本人を中心とした編成を2年目におこないました。そういう意味でも2シーズン目のスタートからいいプレーができていたと思います。チームとしての完成度はあがり、期待するプレーはチームとしては表現できていましたが、なかなか最後のフィニッシュというところで決定力が欠けてしまっていました。

新潟にとって、私が就任してから3シーズン目となる2022シーズン、多くの選手が残り、チームのスタイルを継続してくれると思います。さらに成長してくれることを心から願っています。昨シーズンも素晴らしい質の高いFW陣がいました。彼らのプレーにはとても満足しています。しかしながら我々のプレースタイルに適応して、相手チームがより多くの人数をかけてゴール前で守備をかためるという展開が多かったです。そのようなチームから点をとることはやはり簡単ではありません。

誇りに思えるのは、チームのなかにとてもいい雰囲気を構築することができたという点です。このプレースタイルを新潟のファン・サポーターも気に入ってくれたと私は感じていました。1万人を超えるファン・サポーターがスタジアムに来てくれたということは私の誇りです。そして、新シーズンも新潟の活躍を心から願っています。同じような改革をここ東京でも行いたいですし、もちろん選手一人ひとりの個性を引き出したいと思っています。

戸田氏
東京はすごく早くて強くてうまい選手が前に揃っているんですよ。ご存知だと思いますが4-4-2で前に前にということがベースのスタイルだったので、その中でもう少しスピードを落としたり、中盤のセンターの選手とセンターバックのところで上手くポジションをとりながら、相手をコントロールしてプレスを外すということにおそらく取り組まれると思います。スタイル的にはかなり変わると思いますし、傍目から見たら大変そうだと思うのですがどんなところから取り組んでいくのでしょうか。

アルベル監督
もちろん複雑だとは思います。でもできると信じています。

戸田氏
スタイル的にはアスレティック ビルバオに似たスタイルだったクラブですから、チャレンジングな仕事になると思います。だからこそ楽しみに見させていただきたい。近年、スペインから優れた指導者がJリーグにきてくれて、確実に日本のサッカーが変わってきていると思っています。

アルベル監督
スペインといってもひと括りでは話すことができず、やはりいろいろな違いがありますし、ボールを大切にするといっても、いろいろな大切にする方法があります。しかしながら育成年代ではスペイン全体で基本的にはボールを大切にするプレーが表現されていると思います。育成年代でボールを大切にしないクラブ・チームというのはなかなか見つけられません。ただ、トップチームというのはプレースタイルにいろいろな差があります。

戸田氏
ボルダラス監督みたいな方もいますからね。

アルベル監督
ただボールを主役として考えている監督が多いのは間違いありません。オランダではほとんどの監督が同じスタイルをめざす傾向があります。

戸田氏
僕はスペインの多様性が好きなんです。東京には、日本の中だと身体的に逞しくて走れて打開もできる選手がいるんですが、今まではどちらかというと直線的にゴールをめざしていました。そこにアルベル監督がきて、おそらく学ぶ意欲に溢れている選手が多いので、変わるだろうという期待がある。それを楽しみにしています。

アルベル監督
最初の6ヶ月ほどは苦しむ可能性があることは新体制発表会のなかでもお話しましたが、チームが団結している前提として、選手の質が高ければ高いほど、完成に必要な時間は短くなります。ただ、何事も成し遂げるためにはやはり団結というのは必要になります。それはチームのなかだけではなく、クラブ全体の一致団結というのが必要になります。そして選手たちだけではなく、ファン・サポーターとの一致団結も必要です。

戸田氏
新潟もそうですが、東京のサポーターの応援は素晴らしいですからね。

アルベル監督
新潟では1シーズン目は決していい結果は残せませんでしたが、多くのファン・サポーターが私の続投を期待してくれていました。そういう意味でもプロクラブというのは、ファン・サポーターあってのクラブなので、ファン・サポーターがどれだけついてきてくれるのか、そしてサポートしてくれるのかにかかっていると思います。

戸田氏
間違いなくみなさん期待をしてサポートしてくれると思いますから、新しいチャレンジを楽しみにしています。

アルベル監督
私にとって、そしてクラブにとって、ファン・サポーターの存在はとても重要です。だからこそ彼らに嘘をついてはいけません。このような試合結果を残せます、残しますという保証できないものを保証しては嘘になってしまうので、ファン・サポーターには誠意をもって本音で話をしなければいけないと思います。当然、毎試合勝利をめざして全力を出すことは保証します。けれども私たちがめざすプレースタイルというのは、シーズンのスタートのときにはいい結果を出すにことに苦労する可能性が当然あるというのは予想しています。

戸田氏
コメンタリスタとして試合をお伝えすることになるかもしれないので、きちんと丁寧に見て、取り組んでいることを伝えられるように努力します。

アルベル監督
あとからきちんとチェックするので、いろいろ批判したらただじゃおきませんよ(笑)もし批判していたら逆に戸田さんの試合を見に行って厳しく指摘しますからね(笑)

戸田氏
私も指導者なので、新しいものをつくっていく難しさとか、それがどれだけ尊いものなのかわかっているつもりです。きちんと伝えられるように努力します。

アルベル監督
戸田さんには扉をあけておくので、いつでも練習、そしてオフィスに来ていただければと思います。


【対談の動画】

①新体制発表会(24分02秒〜)



②新体制発表登壇後 ー 別室にて