INTERVIEW2022.1.14

山下敬大選手インタビュー

Q、プロのキャリアを振り返ると、レノファ山口、ジェフユナイテッド市原・千葉、サガン鳥栖、そして今シーズンFC東京に加入と、順調にJ1クラブへとステップアップしてきている印象があります。
A、プロでやっている以上J1でプレーしたいとずっと思っていましたし、プロのスタートがレノファでの練習生参加でしたので、そこから試合に出ること、点を取ることをただがむしゃらになってやってきた結果が今だと思います。

Q、昨季はサガン鳥栖がコレクティブなサッカーを展開し注目を集めました。そのなかで山下選手はリーグ戦で9ゴールを挙げました。周囲からの評価は上がったと思いますが、二桁得点まであと一歩という結果はご自身も悔しかったと想像します。
A、2021シーズンは僕にとって初めてのJ1挑戦でした。自分自身どうなるかわからなかったですが、通用する部分としない部分が年間を通して明確にわかりました。二桁得点はすごくこだわっていたので、正直悔しかったです。夏以降、9点から伸ばせなかったですが、いつか取れるだろうと思っていました。ただ、少しのケガと、後半戦は途中出場も増えていったこともあり二桁得点には届きませんでした。途中から出てもFWなので結果がすべてです。9点と10点では大きく違うことは個人的にも理解しているので、本当に悔しかったです。

Q、酒井宣福選手と交互に起用されるような試合も続きましたし、調子がよくゴールした次の試合でもベンチスタートということもシーズン中にはありました。当然チーム戦術や対戦相手によって選手起用は決まるものでしょうが、ご自身のなかで葛藤はありましたか?
A、それはありましたね。正直「何で使われないのか」と思うこともありました。ただ、矢印を自分に向けて、足りない部分もわかっていましたし、そのために練習でアピールして起用してもらえるように努力とチャレンジをしてきました。それでも最後に決めるのは監督で、それで不貞腐れたり練習をおろそかにすることはありませんでしたし、何よりサガン鳥栖はトレーニングからインテンシティ高くやるチームなので気を抜けませんでした。自分が先発ではないときは、これがフラストレーションという表現が正しいかはわかりませんが、モヤモヤした気持ちはありました。ただ他の選手も普段から手を抜くことなくものすごく一生懸命にやっていたので、素直に負けていられないという強い気持ちを持つこともできました。

Q、初めてJ1の舞台でプレーして、得た手応えと課題を具体的に教えて下さい。
A、まず手応えとしては、点を取る力というところで、いいボールが来たら決める自信はありましたし、そのためのオフザボールや相手より早く反応する動き出しは昨シーズンも体現できていたところだと思います。FC東京に加入して、もう一段階、二段階、個のレベルが高い選手が集まるところでやれることにワクワクしています。課題に関してはJ1では小さなミスも命取りで、「このぐらいでいいや」という感覚では通用しないことを痛感しました。ポストプレー一つにしても、守備のスイッチの入れ方にしても、シュートを決めきることにしても、細部までこだわらなければ通用しない舞台だと思います。

Q、J1とJ2のDFで顕著に違いを感じたのはどんなところでしたか?
A、競り合ったあとに、J1のDFはボールをしっかり味方につないでいきます。プレッシャーをかけても、顔が上がっているので奪いに行けないところもあります。そうした細部の精度が高いですね。ポストワークで相手と対峙するときも、トラップの方向や角度、体の重心に相当気を遣いました。J1ではJ2のときよりボールを失ってしまうことが増えてしまいましたし、そのロストが致命的にもなってしまいます。シーズンを通して対戦相手を分析して、ある程度体で覚えたところはありますが、レベルの違いをはっきり感じました。

Q、山下選手は強さもさることながら、スムーズな反転や身のこなしといったプレーも武器だと思います。
A、自分ではうまさがある選手だとは思いませんが、一番大事にしているのはボールがないときのポジショニング、オフザボールの場面ですね。いかに自分が効率的にゴールに向かっていけるか。ボールを受けたときにどういう状態になるかを考えて、事前に味方に要求していかないといけないのですが、そのあたりはかなり重点的に取り組んできました。

Q、得点パターンについては、クロスに対して点で合わせる形や、対面した相手を剥がして足を振る形など、多くの型を持った選手のように見えます。
A、右利きですが、左足でも頭でもどこでも点を取れるのが自分の特長だと思います。あとは少ないタッチでも点を取るところも武器です。一人でドリブル突破してシュートまで持ち込むようなタイプではないので、どれだけいい位置取りをして、さらに味方に要求してボールを呼び込むことがすべてだと思ってプレーしています。

Q、誰か参考にしている選手や、昔から憧れている選手はいますか?
A、一昨年のシーズンが自分にとっては大きな経験になっていて、ジェフで(佐藤)寿人さんと一緒にプレーさせてもらったことで自分は変わったという自覚があります。日頃の練習から、その姿勢や取り組みなどかなり影響を受けました。自分はこれまで誰かを参考にしたり憧れたりするような選手はいませんでしたし、海外の選手もそんなに意識していませんでした。ただ、寿人さんからはストライカーとして要所になる部分や、「こういう選手がトップレベルに行くんだ」と感じさせられるような部分を教えてもらいました。ジェフのときには寿人さんだけでなく、川又堅碁さんのプレーからもすごく影響を受けましたし、あの1年は自分にとって大きなターニングポイントになりました。

Q、佐藤さんや川又選手、共通するのはさきほど山下選手も話していた「オフザボールでいかに質の高い動き出しをするか」というところだと思います。
A、まさにそのボールのないところでの要求だと思います。寿人さんは味方にたくさん要求します。それは川又さんも一緒で、自分が点を取るためには不可欠だからです。クロスにしても「アバウトではなく、ここにあげてくれ」とか「こういうタイミングで入れてほしい」とか具体的に味方に伝えていました。そのコミュニケーションができるかできないかで、連係の質は大きく変わってきます。その姿勢を学べたことが僕にとって大きかったです。

Q、今シーズン、FC東京というまた新たな環境に飛び込みました。多彩なプレースタイルをもった外国籍選手や高校、大学の先輩である永井謙佑選手のようなスピードのあるアタッカーもいます。そのなかで、山下選手というストライカーがどう生きるかが楽しみです。
A、FC東京は僕が十代の頃から日本のトップレベルで争っているクラブで、昨シーズンもディエゴ オリヴェイラ選手は二桁得点を取っています。そんな強烈な個がいるなかで自分がどう勝負していくかを考えています。今いる選手にはない良さを自分が発揮できるか。そこを期待してクラブも自分を獲得したと思うので、その特長を最大限出せればと思っています。

Q、永井選手とは加入前からコミュニケーションは取っていましたか?
A、はい、加入前から何度か福岡で一緒にトレーニングさせてもらったことがありますし、住む場所や環境面についていろいろと聞きました。「何でも聞いてくれていいから」と永井選手から言ってきてもらえたので、「こんな優しい一面があるんだ」と感じました(笑)
高校、大学と直属の先輩で、僕が高校時代も初蹴りとかにも顔を出してくれていました。まさか永井選手と同じチームでプレーできるようになるとは思っていなかったので、すごく光栄ですしうれしいです。

Q、これまでのFC東京の印象はいかがでしたか?
A、印象的なのは、強力なアタッカー陣ですね。ボールを奪ってからの素早い攻撃が強烈で、個で打開できる、そしてシュートを決めきる力はすごいです。そこに加えて守備もおろそかにならずに頑張るチームというイメージです。また、今回僕がFC東京入りを決めた理由の一つは、アルベル監督が新潟から来ることになったことです。ポジショナルプレーと言われる概念をベースにチーム作りをされる方ですし、そのスタイルが自分とマッチするのではないかと考えました。このチームが攻撃的なスタイルで戦って、そのなかに自分が加わればどうなるかというすごく楽しみなイメージができました。そのチャレンジに今からワクワクしています。

Q、昨シーズンプレーしたサガン鳥栖でも、金明輝前監督のもとでポジショナルプレーを実践されていました。そのスタイルでプレーしたことで、自分の新たな一面が引き出されたといった感覚はありますか?
A、自分がそれまで意識できていなかった部分を、昨シーズンで学べたと思います。どうしたら相手を剥がして前にボールを運び、フィニッシュまで到達するのか。守備でもどれだけ戦術的に相手の動きを見て仕掛けるのか。やっている自分たちが成長を実感しながらプレーできていました。正直かなりハードワークできついですけれど、でもすごく楽しみながらプレーしていました。そしてアルベル監督が新たに就任するFC東京からお話を頂いたときには、素直にまた組織的で攻撃的なサッカーをやってみたいと思い、東京に来ました。

Q、相手を見て、自分たちの立ち位置を決めていく柔軟性のある集団のなかで、山下選手自身も生きるという感触をつかめたのでしょうか?
A、そうですね。どちらかといえばジェフのときはオーソドックスな4-4-2で攻撃は長いパスが多く、守備でも低く引いて構えるスタイルでした。攻めるとかゴールを狙うこと以外の部分でパワーをたくさん使うような戦いをやっていました。ただ鳥栖では意図的に相手を剥がしてボールを運び、ゴールに向かっていくという戦い方に身を置きました。僕はゴール前で仕事をする選手ですし、味方に生かされる選手なので、あらためて「自分が生きるスタイルとは何か?」を考えるきっかけにもなりました。

Q、アルベル監督がFC東京に来て、チームのサッカーもまた違ったスタイルに塗り替えられると思います。山下選手がそのスタイルの象徴的なFWになっていくことを期待されていると思います。
A、はい、そうなっていきたいという思いはありますが、もちろんここには才能のあるアタッカーがたくさんいて、熾烈なポジション争いが展開されます。新しい監督が来たチームは、はじめからガラリと流れもやり方も変わって、それが結果に結びつくかはわからない部分があります。どれだけ自分の良さを知ってもらい、味方の良さも知っていくことができるかが大事です。今年は開幕も早いので、短時間でより関係を濃くしていけるかだと思います。監督が求めることにチャレンジしていきたいです。

Q、あらためてお聞きしますが、山下選手はストライカー、「9番」のポジションへの思いは強いですか?
A、はい、強いです。レノファでの1年目やジェフでも違うポジションでプレーする機会もあり、面白さや苦しさも味わってきました。そのなかで、相手のゴールに一番近いポジション、ゴールを奪う仕事へのこだわりは年々強まっているのは確かです。

Q、FC東京には多彩なアタッカーがいますが、チームにとって待望の点取り屋が現れたという期待が、山下選手には寄せられていると思います。
A、期待してくれて・・・いますかね(笑)そうであればすごくうれしいですが、僕自身もそのポジションでプレーすることが一番特長を発揮できると自覚していますし、僕がそのポジションに入ることでチームメイトも生かすことができると思います。ストライカー、9番のポジションへのこだわりは人一倍もっています。ぜひ、味スタでたくさんゴールを奪いたいと思います。

text by YUKI NISHIKAWA