番記者が振り返る「東京の前半戦」

COLUMN2022.5.27

番記者が振り返る「東京の前半戦」

アルベル監督が就任してポジショナルプレーをベースとしたサッカースタイルの浸透に取り組む東京。その最初のシーズンも折り返しが近づいてきた。前半戦の東京は、どのような戦いぶりだったのか。日頃から東京の試合やトレーニングを取材している番記者5名に、前半戦のアルベルトーキョーの戦いについて「総括」「ベストゲーム」「ポジション別ベストプレイヤー」の項目ごとに振り返ってもらった。


後藤勝(フリーランスライター)

▼前半戦総括
プラス評価もマイナス評価もテーマは「若手」
予想以上にポジショナルプレーの概念が早く浸透、一定の基準となる11人+αの目処が立ったことは喜ばしい。一方で主力に怪我人が相次ぎ、現状のベストメンバーでの積み重ねが必ずしもうまくいかず、つまずいている印象で、今後は東慶悟のアンカーの起用のように「+α」を拡張していく必要がある。夏と冬に補強があるとしても先の話。15人程度ではなく20人前後の即戦力スカッドが欲しいところだ。グッドニュースのもうひとつは2種登録選手の取り込み、FC東京U-18との連携が活性化していること。東廉太や熊田直紀に関してはトップで出場機会があり、昌平高校の荒井悠汰ともどもプロのクオリティでプレーできることを証明している。トップとU-18がアルベル監督のコンセプトを共有、戦術に互換性を持たせることで行き来を可能にしていることもプラスに働いている。比較的バッドニュースはこの裏返しで「若手が出場した」に留まっていること。今後は場数を踏むだけでなく、トップに在籍している若手選手ともども、なんらかの成果を示さなければ「いるだけ」になってしまう。後半戦に向けて種は蒔いた。芽を伸ばし、可能性を拡げていく戦いが待ち受けている。

▼前半戦ベストゲーム
JリーグYBCルヴァンカップ グループステージ第5節 vsジュビロ磐田
(2022.04.23@ヤマハスタジアム)

強敵に屈しない姿勢という点ではJ1リーグ第1節の川崎戦や第6節の横浜FM戦、テンションの高さに関しては第10節G大阪との国立決戦なども好ゲームに挙げられるが、梶浦勇輝がゴールを挙げ、東慶悟や髙萩洋次郎が攻めたパスを通したルヴァンカップのアウェイゲームの磐田戦をベストゲームに推す。梶浦が得点を重ね、安田虎士朗もゴールを決めて勝っていたらこの試合の評価は変わっていたはず。アルベル監督が言う「パウサ(スペイン語で小休止や落ち着きの意)」を東や髙萩が体現した、遠くを見て間を通すパスは東京の近未来を予見するもの。松木玖生のメンタリティや安部柊斗の強度も大事だが、その先の可能性を感じる一戦だった。

▼前半戦キープレイヤー
GK&DF
24ヤクブ スウォビィク選手

不得手なスキルもあるはずだが、至近距離でのシュートストップにおけるインパクトの強さがすべてを凌駕している。守備のヒーローとしてエースストライカー並のオーラを放ち、サッカーファンの憧れに足る稀有な存在。この男が在籍しているうちに東京はゴールキーパーのレベルを向上させ、ディフェンダーを含めて守備の文化を根付かせるべきである。

MF
44松木玖生選手

媒体の記事で開幕スタメンに予想すると「そんなわけがないだろう」と反発の声も上がったが、ときにふがいない戦いをするトップチームをいまやその闘争心で引っ張る、なくてはならない選手になっている。他方まだ若いことは確かで、情操的に周囲が配慮する必要はあるが、プレーヤーとしては現時点で既に頼りがいのある男だ。

FW
15アダイウトン選手

様々なフォワードがローテーション起用されるなかで、もっとも使い減りがしない頑健な肉体を持つ鉄人と言えばやはりこのアダイウトンになる。古巣ヤマハで決めたコントロールショットは語り草になるだろう一撃だった。チームが機能しないときでも戦術アダイウトンで勝利に導くだけの圧倒的な個の力。間違いなく東京の武器。


馬場康平(サッカーライター)

▼前半戦総括
新スタイルの植え付けと次の段階の苦しみ
開幕からJ1リーグ第10節ガンバ大阪戦までのリーグ序盤戦は、昨季までの貯蓄を使って勝点を積み上げたという印象だ。それによって新たなプレースタイルを植え付けるだけの時間を稼いだことになる。その間に、ポジショナルプレーという戦略的思考を理解させ、より局地的な戦術を駆使した戦いに移行してきた。ただし、次の段階に入ったここ数試合は、その戦術が思うように機能していない。5月3日の第11節アビスパ福岡戦ではレアンドロを最前線の中央に配置。偽9番が空けたスペースに松木玖生や安部柊斗が入っていく狙いだったが、結果的に福岡に先行を許して試合途中に配置転換を余儀なくされてしまった。第13節ジュビロ磐田戦では髙萩洋次郎をトップ下に置き、浮いたポジションでボールを受けさせる意図があった。だが、こちらも相手にリードを許し、試合中のシステム変更に至っている。ここからは戦術的な戦いのパターンと、その成功体験をどれだけ増やせるかに懸かっている。また、ボールを受ける前の予備動作の徹底など、細部へのこだわりも欠かせない。序盤の貯蓄を使い切るまでに、勝ち筋を見いだせるのか。幸い持ち駒は豊富で、強烈な手練れはそろっている。選手たちに自信を持たせるためにも、アルベル監督の手腕が問われているのかもしれない。

▼前半戦ベストゲーム
明治安田生命J1リーグ 第1節 vs川崎フロンターレ
(2022.02.18@等々力陸上競技場)
開幕戦は新たなプレースタイルの習得をめざす意欲と、新シーズンに懸ける希望に満ちたゲームとなった。この試合で多くの決定機を作ったレアンドロは「僕たちブラジル籍選手には監督のめざしているサッカーは馴染みのあるスタイルなので、始まった時からやりやすかったよ」と口にしている。それもそのはずだ。1970年のワールドカップで全勝優勝した史上最強の呼び声高いブラジル代表も並びは4-3-3。彼らに脈々と流れる、芸術的なフットボールを体現しようとする血がさわいだ試合でもあったのだろう。ただし、今シーズンのベストゲームはこれから先で、生まれるはずだ。

▼前半戦キープレイヤー
GK&DF
24ヤクブ スウォビィク選手

今シーズン新加入の守護神は序盤戦からビッグセーブを連発し続ける。ピッチ外ではナイスガイで、北海道コンサドーレ札幌とのアウェー戦後に自ら「最後に一つだけいい?」と言い、「多くのサポーターが北海道の地まで応援に来てくれたことが励みになったので心から感謝を伝えたい」と語ったのも印象的。文句なしの前半戦チームMVPだろう。

MF
31安部柊斗選手

開幕戦から攻守において戦術的なタスクを多く担い、存在感を放ち続けてきた。持ち前の運動量とプレー強度に加え、ここにきて昨季から練習後に続けてきた“止める、蹴る”の反復練習の成果も出ている。安部自身は「僕と玖生でゴール数を競えるようになりたい」と、得点力アップを課題に次のステージを見据えている。

FW
15アダイウトン

今シーズンも重戦車ドリブルは健在で、ここまでチームトップの4得点を挙げて前半戦の攻撃をけん引している。未成熟でコンビネーションプレーが拙い中で、たびたび過渡期のチームを救ってきた。アダイウトンも「チームメイトがどこにいて、どこからパスが来るか分かりやすくなっている」と口にしており、新たなプレースタイルの恩恵を受けている一人と言えるかもしれない。


佐藤景(サッカーマガジンWeb)

▼前半戦総括
改革の初期段階として及第点
正直に言えば、もっと苦労すると思っていた。長らくカウンター攻撃が主体だったチームがポジショナルプレーを基盤とするスタイルへ『転向』するには、より多くの時間が必要だと考えていたからだ。実際、5月に3連敗することにもなったが、昨季46.1%で20チーム中16位だったボールポゼッションは、13試合終了時点で平均52%を超え、全体の7位に上昇。選手が意識を変え、新スタイルを実践していることが数字からも分かる。改革の初期段階としては及第点の出来と言っていいのではないか。ただし、ボールを握る場所に着目すれば、まだまだ理想には程遠い。ビルドアップで行き詰まり、後方で回さざるを得ないケースも散見。自陣でポゼッションしている時間が長いのだ。相手に対策を講じられる中で前進するには、選手が適切な場所に立つことに加え、パススピードに変化をつけることが必要だ。相手のプレスをいなす素早いパス回しと、それを可能にする技術力が求められる。これらの課題を人の入れ替えによって克服するのか、個々の成長を待つのか。個人的には、ここに後半戦のポイントがあると感じている。「次のフェーズに入った」と話す指揮官が講じるであろう解決策に注目したい。

▼前半戦ベストゲーム
明治安田生命J1リーグ 第7節 vsヴィッセル神戸
(2022.04.06@味の素スタジアム)

14節までにチームが挙げた5勝のうち、ポゼッションで相手を上回り、勝点3を手にしたのは京都戦、神戸戦、G大阪戦の3試合。その中で最もチームの理想とする戦いができたのは神戸戦だろう。先行を許したものの、重心を高く保ちつつ、縦横にパスを操り、敵陣でのボール回収から連続攻撃を実現。相手のプレッシャーがそれほどきつくなかったこともあるが、後半に3ゴールを叩き込み、逆転に成功した。中から外、外から中へとボールを動かし、テンポを変える縦パスもズバズバと通した。とくに後半は選手の連動が素晴らしく、何度も相手最終ラインを慌てさせた。文字通りの快勝だった。

▼前半戦キープレイヤー
GK&DF
24ヤクブ スウォビィク選手

昨シーズンまでとは大きく異なるスタイルに取り組むチームが、現在トップ10内に留まれているのは、その存在があればこそだろう。とくに第9節の札幌戦で見せたプレーは圧巻。好セーブ連発でチームを救い、スコアレスドローに持ち込んで勝点1を手にすることになった。クバ神と崇められるのも納得の働きだった。

MF
31安部柊斗選手

高いレベルで標準装備されている走力、奪取力、献身性に加え、今シーズンはゴール前に進出して受け手になるプレーに磨きをかけている印象だ。ゴール脇のポケットを積極的に突くその動きが周囲と噛み合ってくれば、チームの得点力アップにつながるはずだ。前半戦で見せたトライが、後半戦で実を結ぶことを期待したい。

FW
9ディエゴ オリヴェイラ選手


開幕から14節の柏戦まで全試合に出場し、鳥栖以外はすべて先発でプレー。目に見える結果は2ゴール2アシストとFWとしては不満が残るものかもしれないが、攻撃はもちろん守備でも一切手を抜かず、常にチームファーストでプレーするその姿勢は、称賛に値する。青赤の誇るべきナンバー9であり、副キャプテンだろう。


井上信太郎(スポーツ報知)

▼前半戦総括
相手の想定を上回るスピードで変化
「今年の東京ってどう?」と聞かれると、答えるのが難しい。カタルーニャから新潟経由でやってきた指揮官は開幕前から「ポジショナル」と「ポゼッション」というキーワードを出し、理想に生きるサッカーをするものだと思っていた。だがふたを開けてみたら、スピードを生かしたショートカウンターはあるわ、中盤には強度を求めるわ、現実主義のサッカーを展開する場面も多い。「昨年と変わってないじゃん」と見ている人が一定数いるのも理解できる。
ただ進んでいる方向は間違っていない。明らかな変化は、昨年46.1%だったボール支配率。共に敗れたとはいえ、鳥栖戦は59%、磐田戦では65.6%を記録。両チームともに序盤は前線からプレスを掛けてきたが、ディフェンスラインは逃げずにボールを動かし続けた。磐田の関係者が「思った以上に前からボールがとれなかった」と認めたように、途中からブロックを敷いて守るプランに変更を余儀なくされた。相手の想定を上回るスピードで変化はしてきている。先行投資も十分行った。ルヴァンカップではシーズン序盤のコロナ禍の影響もあったとはいえ、17歳のディフェンダー東廉太らを抜てきするなど、若手の品評会に活用。将来を見すえてまいた種が、いつ花開くのか見守る楽しさもある。
とはいえ、アルベル監督が言うようにプロはまずは結果で判断されるべきとも思うし…。やはり今シーズンの東京は難しい。

▼前半戦ベストゲーム
明治安田生命J1リーグ 第10節 vsガンバ大阪
(2022.04.29@国立競技場)

東京のど真ん中で、首都クラブとしての未来を示した一戦だった。改修された国立競技場での初めてのリーグ戦。約500発の花火やクラブカラーの青と赤のLEDライトを駆使した演出で、大粒の雨模様の中、駆けつけた4万3125人を非日常の空間へ誘った。試合内容もスピード感あふれる攻撃の連続で、レアンドロの華麗なドリブルからのゴールのおまけ付き。ピッチ上の選手たち、そしてクラブスタッフの努力が、結集した最高のエンターテインメント空間だった(つくづく、国立が球技専用に改修されていればと思う…)。

▼前半戦キープレイヤー
GK&DF
3森重真人選手

皮肉にも負傷離脱中の3連敗で存在の大きさが浮き彫りになった。空中戦の強さ、ビルドアップなど優れた点はたくさんあるが、1番はチームに「パウサ」(スペイン語で小休止や落ち着きの意)を与えてくれること。リーグ復帰戦となった5月21日の柏戦では、センターバックでコンビを組む木本恭生がロングフィードや縦パスをどんどんチャレンジしていた。35歳になった主将が与える影響は絶大だ。

MF
44松木玖生選手

プレー面だけを考えれば、危機察知能力に長ける青木や、得点力にも磨きがかかる安部の方が上かもしれない。ただ高卒ルーキーが開幕スタメンを飾ったという衝撃は、数値では表せない。闘犬のようにボールに食らいつき、全身で戦う姿は、見るものを熱くさせる。ボールを持った後の技術や判断は改善の余地があるが、伸びしろとも言い換えられる。チームの成長に直結するだけに、さらなる成長に期待したい。

FW
11永井謙佑選手

一家に一台は欲しい、そんな存在だ。得点ゼロはフォワードとして物足りなさがあるのは事実。だがチームの生命線となっている前線からのプレスのスイッチ役は、永井をおいてほかにいない。先発でも、途中からでも、ディフェンスラインの裏へ抜け出し、毎試合必ずチャンスを作ってくれる。背番号11の足は、間違いなくチームを機能させる重要な役割を担っている。


須賀大輔(エルゴラッソFC東京担当)

▼前半戦総括
勝利で自信をつけてからスタイルを落とし込む
陽気なロマンチストを想像していたら驚かされた。アルベル監督はかなりのリアリストだ。開幕前に「改革には時間がかかる」と公言し、具体的な数字や目標を示さなかった理由もここにあるのだろう。就任1年目の今シーズン、アルベル監督は勝つことよりも成長することに主眼を置いており、勝点や順位にはさほど興味がなさそうだ。それよりも自分のスタイルを浸透させることやそのための選手の見極めにパワーを注いでいるように映る。そう考えれば、ある程度、割り切ってリアルな戦い方に徹していた開幕直後に3連勝をしたことや、次のフェーズに入って来たと捉え、少しずつ自分のロマンを落とし込もうとしている中盤戦で3連敗を喫したことはつじつまが合う。「勝つことで落ち着きを得る」ために最初は現実と向き合い、その段階を越えたと思えば、「将来的に勝ち続ける」ために自分が信じるスタイルを落とし込む。長期的なチームスタイルの構築としては、理にかなっているように思う。前半戦最後のホームゲームに迎える相手は、同じく今季から新指揮官を招き、チーム改革を行っている鹿島アントラーズ。スタートラインが同じであった相手との対戦で見えてくるものは多いだろう。早速、首位争いを繰り広げている鹿島と対峙した際にどんな内容を見せてくれるか。それがアルベルトーキョーの前半戦の答えとして受け止めたい。

▼前半戦ベストゲーム
明治安田生命J1リーグ 第3節 vsセレッソ大阪
(2022.03.06@ヨドコウ桜スタジアム)
アルベルトーキョーにとって、公式戦初勝利となった一戦。新型コロナウイルスの影響でチーム活動が停止となっていた直後のゲームで選手のコンディションが心配されたが、前半はほぼゲームを支配。3トップのハイプレスをきっかけに安部柊斗と松木玖生のインサイドハーフが敵陣で次々とインターセプトを繰り返し、何度もチャンスを作った。紺野和也がゴールを決めたあとの喜び様やアルベル監督との抱擁、後半、退場者を出し一人少なくなりながらも全員が足を止めず走り切った姿は熱いものを感じた。シーズン序盤、ハイプレスからのショートカウンターという確固たるスタイルを強く印象付けた90分であった。

▼前半戦キープレイヤー
GK&DF
30木本恭生選手

加入直後から「CBで勝負したい」と宣言していたとおり、本職で充実のパフォーマンスを披露。森重真人と組んだ際の堅さと安定感はリーグ屈指であり、シーズン序盤の堅守を支えた一人である。また、キック精度と広い視野を生かした鋭い縦パスは攻撃のスイッチとなり、アルベル監督が目指すポジショナルプレーでは欠かせない存在である。

MF
安部柊斗選手

出場時間の長さがその存在感の大きさを何よりも証明する。フィールドプレーヤーでは最長でここまで唯一全試合に先発出場。無尽蔵のスタミナと力強いボール奪取力はポジショナルプレーの中でも際立っている。今後、チームと安部自身が次のステージに進むために必要なのはオン・ザ・ボールの質。ラストパスを出せるようになれば面白い。

FW
11永井謙佑選手

どの試合を見ても、攻撃のバランスを保ち、守備のスイッチを入れているのは背番号11。SBやインサイドハーフと絡みサイドを攻略したかと思えば、スピードを生かした突破でゴールへ迫る。最前線でハイプレスの先導役を担えば、被カウンター時は全力で自陣に戻る。数字に表れない部分での貢献度が抜群に高く、攻守両面で献身性は№1だ。