後藤勝(フリーランスライター)コラム

COLUMN2022.2.25

後藤勝(フリーランスライター)コラム

新しいワインの芳香。進むべき道を浮き上がらせたアルベル監督の“抜擢”


ポジショナルプレーというと何かものすごく難しいもののように考えてしまいがちですが、アルベル監督が選手に伝えていることの多くは実にシンプルです。なかでも、イロハの「イ」くらいに説いていたのは選手同士でズレた位置をとること。タテ軸でもヨコ軸でもポジショニングが被らないようにすることです。

慣れないうちは、この立ち位置をとる作業を難しく考えてしまう。それを考えすぎずスムーズに出来るようにしないといけません。

この点での理解または順応の度合いには差が出ます。基本的には先発に選ばれているメンバーは、この最適な立ち位置をとっていく作業に長けていると考えていい。

そのひとりが渡邊凌磨です。


1月29日の練習試合京都サンガF.C.戦では2セット目の左サイドバックとして登場した渡邊が2月2日のFC琉球戦に右サイドバックで先発したとき、我々現地取材組は色めき立ちました。アルベル監督は本気なんだ、と。単なる昨年の緊急コンバートの名残りではなく本職として考えているのだ、と。

この一戦、渡邊の前の右ウイングは永井謙佑。彼もサッカーIQが高い選手ですから、右サイドの入れ替わりはスムーズでした。

一方、このときの左ウイングはアダイウトン。ブラジル国籍のアタッカーは比較的自由に動く傾向があります。それが武器になりますし問題はないのですが、ここに周囲が合わせていく必要はある。で、このときの左インサイドハーフが誰だったかというと、松木玖生でした。

松木もまた京都戦では2セット目の選手でした。ポジションは変わらず左のインサイド。渡邊同様、琉球戦になり先発に抜擢された格好です。2月5日の北海道コンサドーレ札幌戦でも同じ。


開幕の川崎フロンターレ戦では組む相手がアダイウトンではなくレアンドロとなりポジションを右に移しましたが、キャンプ以降の過程でブラジル国籍の選手との連携に慣れていたことが有効に作用したのかもしれません。このふたりが右サイドで連携し、レアンドロを活かしていました。実際に彼らが出したパスは、渡邊は松木、松木は渡邊に対するものがほとんどでした。そして松木が次に多くパスを送った相手はレアンドロです。

「凌磨くんとは練習試合のときも練習のときも声を掛け合っている。レアンドロが中に入れば自分が外に行くし、外に張れば中の間にポジションをとる」

松木は川崎戦後にこう言っていました。レアンドロがサッカーをしやすいポジションを意識していた、と。渡邊と松木の献身が、レアンドロがこの試合チームで最多となる4本のシュートを撃ったことと無関係ではないでしょう。

具体的に見ていきましょう。

開始早々の1分、ボールを持ったまま中(ハーフスペース)を上がっていく小川諒也に道を譲るように永井が左の外に膨らんでいることが確認出来ると思います。一方、右では青木拓矢の持ち上がりに呼応し、松木がタテにズレでスペースを空ける。賢い選手同士、これらの分担はスムーズでした。サイドバック、中盤、ウイングがどう協調し立ち位置を変えていっているかに着目すると、アルベルトーキョーはおもしろくなります。

<1分のシーン>


特に、現段階ではまだポジショナルプレーの初心者で、実用的カタカナ英語が聞き取りやすいように、動き出しの狙いがわかりやすく、戦術マニアでなくとも楽しめるはずです。

言い換えると、足もとの技術が未熟で動き出しがわかりやすい分、陣取り合戦を挑む姿勢だけでこれだけ主導権を握れるのだという、アルベルサッカーの優位性を感じ取れる。この新しいワインの芳香を味わえるのは“いま”だけです。そのうち熟していくと上手になってしまうので味が変わる。開幕戦を繰り返し観ておきましょう。

「あらためて、我々が突き進むべきは、今日表現した道のりです」

アルベル監督が残した言葉の意味を噛み締めたい。舗装されていない獣道かもしれませんが、進路ははっきりしています。

レアンドロに対する連動で言えば11分、相手の最終ラインを追う背番号20に応じて外に出ることに始まり、松木の気配りが常に感じられる。14分にはトップ下的な位置をとるレアンドロに対して松木がウイングのようになっています。かと思えば24分には永井が中に入ってきて松木とのワンツーでレアンドロにパスして決定機をつくる。チーム全体でブラジル勢を活かしています。

そして28分、左の大外を永井が突破。初期配置に近い5レーンに分散している状態でしたが、永井が内側に切れ込んでいくのに呼応して左インサイドハーフの安部柊斗はさらに中に絞り脇坂泰斗を引き連れて前に出ます。加えてレアンドロとディエゴ オリヴェイラがその他大勢を引きつけたところで、やはり右から中に絞ってきた松木が空き、あのミドルシュート。アルベルトーキョーが見えてきたシーンだったと言ってよいと思います。

<28分のシーン>


本来攻撃的な選手の渡邊をサイドバックで起用することが奇策?

新人の松木を開幕戦で先発させることが奇策?

どう思われますか?

欠場する選手が多くいたとはいえ、アルベル監督にとっては必然のスターティングラインナップだったのではないでしょうか?

1月29日の京都戦後、アルベル監督は東慶悟の資質を「まさしく10のインサイドハーフに適した性格、キャラクターを持っている選手だと思います」と讃えながら、こうも言っていました。

「インサイドハーフは運動量がとても求められるポジションなので、彼を含めてインサイドハーフをやる選手には運動量をもっともっと求めていきたいと思います」

この点においてFC東京での第一人者はもちろん安部ですが、松木も負けていません。川崎戦では飛ばしすぎたのか少し動きが少なくなったように映る時間帯もありましたが、よく走れているし、よく戦えています。キャンプ中の練習試合でもフィジカルコンタクトで相手を吹き飛ばす場面がありました。球際の強さに関しても、プロで十分にやっていける。

渡邊や松木「でも」プレー出来るのがアルベルトーキョーなのか、それとも渡邊や松木「だからこそ」プレー出来るのか。いずれにせよ渡邊と松木がプレーすることにより、開幕金Jの等々力でアルベルトーキョーの姿が浮かび上がりやすくなっていたのは確かなことです。

今後、青赤20でもMatch Reviewのつづきを書いていこうと思います。ぜひお読みください。

 

Text by 後藤勝(フリーランスライター)