青赤での就任2シーズン目を戦い抜いた松橋力蔵監督。残留争いに巻き込まれた1シーズン目から一転、明治安田J1百年構想リーグでは序盤から勝点を積み上げ、選手の成長を促しながら結果につなげていった。目標にしていた優勝には届かなかったものの、確固たる進化を遂げることができたハーフシーズンだったと言っていい。そんななかで指揮官はどんな感覚を抱き、選手たちをどのように見ていたのか。その視点と思考に迫る。
──明治安田J1百年構想リーグでは、良いシーズンを過ごせたと思いますが、2026/27シーズンはおそらく相手に対策されることも予想されます。
「まずは前提として、良いシーズンを終えたと捉えるかどうかだと思います。4位も11位も一緒ではありませんが、何も成し遂げていないという意味では一緒。そこに立ち返ることができるかが重要です。2番にいたら絶対にダメですし、1番になったとしてもダメだと思っています。これは選手にも何度か話したことでもあります。何でも登山に例えてしまうところがありますが、本当にそうだなと思っています。登ったら絶対に降りなければいけません。また違う山を登るためには、必ず降りないといけないのです。その降りる作業をしないままその場にいては死んでしまいます。当然のことです。ちゃんと降りないといけません。1番上までは登れなかったけれど、2番までは登れた。ですが、次に1番をめざすとしても、2番から上がっていくのではなく、一度全員で降りて登り直さなければいけないのです。この作業ができるかどうかだと思います。研究される以前に、自分がどの立ち位置をとれるのか、しっかりとフラットなところからスタートできるのであれば、全然心配はしていません」

──明治安田J1百年構想では、新たに入ってきた選手たちが躍動しました。松橋監督のサッカーをよく知る稲村隼翔選手や橋本健人選手はどういった役割を果たしたと思いますか。
「外から見る以上に難しいと思っていました。競争もあるなかで彼らの特長が簡単に出せるかと言えば、そんなに甘いものではありません。ただ、いろいろなところから聞こえる声を拾い集めると、彼らが持っているものを周りが認めていると耳にしました。ただ、強みは認めているけれど、同時に弱みもあると。スタイルやサッカーに対する価値観は選手それぞれで異なります。でも、周りの選手たちが変に『あいつらはリキさんのサッカーを知っているからレギュラーなんだろう』と斜に構えるようなことはありませんでした。むしろ、『自分はどこで勝負するのか』という意識を明確に持ちながら、新加入選手たちの良い部分を積極的に盗もう、自分もできるようになろうという非常に健全なマインドで取り組んでくれました。誰が出てもチームが機能する条件として、お互いの個性を認め合い、学び合える関係性があります。彼らも既存の選手たちからどん欲に多くを学んだと思いますし、そうした相互作用がチームを非常に良い方向へ導いてくれたと感じています」
──両選手はシーズンを通じて自身の課題であった守備の改善にも取り組んできました。
「そのとおりですね。やはり全員が最初から完璧なわけではないので、それぞれに課題や弱みは当然あります。ただ、大切なことは、そういう課題感を全員がしっかりと持って日々のトレーニングをやっていくこと。でも、ずっと課題を抱えたまま、ただ試合をこなしているだけでは意味がありません。プロである以上、それをもう一歩進めて、しっかりと“結果=勝利や成長”につなげることが何よりも大事だと思っています。今シーズン、内容と結果を両立できたゲームが非常に多かったことは、選手たちがその課題から逃げず、結果に繋げるためのアプローチをやり続けられたからだと思います」

──期限付き移籍から戻ってきた佐藤龍之介選手がチームをけん引しました。彼の成長やチームで果たした役割はどうでしたか。
「チームにおいて本当に大きな存在感を示してくれました。何より、彼自身の意識の高さは素晴らしいものがあります。ただ、彼ほどのポテンシャルがあれば、もっと高いところをめざせるとも思っています。ファジアーノ岡山への育成型期限付き移籍で結果を残し、そこでの活躍が認められてSAMURAI BLUE(日本代表)にも呼ばれました。もちろんここに帰ってくれば、チーム状況も自分の立ち位置も変わります。そのなかできっちり結果を出せたことは、良い選手の条件そのものです。監督が誰であろうと、こういった選手は必ずスタメンやメンバーに名前を連ねてきます。ただ、僕の印象としては、まだ自分の殻を全部破り切っておらず、能力を出し尽くしていないと感じる部分もあります。本当はチームの周りの選手たちに対して、もっと自分の高い意識や要求をぶつけたいんじゃないかな、と。彼はアカデミー出身で、年齢的にもチーム内では下のほうです。試合に出て点をとっていても、どこか少し自分を抑えてプレーしている部分があったのかもしれません。もっと自己表現をして、周りに訴えかけて、要求できるだけの器を持った選手です。さらに意識を高く持ち、理想を追求していく姿をいろいろな形で周りに示していってほしいですね」
──今シーズン “大化け”した選手に常盤亨太選手がいます。昨シーズンを含めた彼の行動や日々の姿勢はどう映っていましたか。
「彼は本当に向上心が強いですし、素晴らしいパーソナリティを持っています。僕が考える“良い選手の条件”の一つに、物事の優先順位を正しくつけられることがあります。彼はまさにそれを実践し続けていました。試合に出られなかった時期に、本当のところでどう思っていたかは分かりません。もしかしたら一人でうだうだ悩む時間もあったかもしれない。でも、最初に出会った頃、たまたま洗面所で一緒になった時に『リキさんはどういうチームのサッカーを参考に見ているんですか?』と聞かれたことがありました。『どうして?』と理由を尋ねると、『監督がめざしているチームを見ることで、そのチームのボランチがどんなプレーをしているのかを知って、自分のプレーの参考にしたいから』と答えたことがあります。そこで『自分の頭のなかで、今何が一番必要なのか、何を最優先すべきなのかをきっちり整理整頓できる賢い選手なんだな』と強い印象が残りました。世の中に物事を整理整頓できる人はたくさんいます。でも彼は、ただ綺麗に並べて“整理”するだけでなく、きちんと取捨選択して自分を成長させるために使いやすい形で配置できる“整頓”という作業もできる。本質的な優先順位のつけ方ができる印象がありました。その地道な積み重ねがチャンス(きっかけ)をつかんだ瞬間に、一気に『バーン!』と跳ねたのだと思います。じわじわ上がってくるのではなく、ある日突然、見違えるように化ける。あれだけ急激な成長を間近で見られたことは、久しぶりに素晴らしいサプライズでした。そして何よりすごいことは、そこから一切パフォーマンスが落ちていかなかったことです。試合に出られない時期は自分と向き合わなければいけないので、本当に辛かったと思います。でも、出られないからといって愚痴を言っている姿を見たこともなければ、周囲からそんな噂を聞いたこともありません。時には『練習したくない』と思う日だってあったはずですが、それを一切表に出さなかった。自分と向き合い、優先順位をブレずに保ちながら個人トレーニングを黙々と続けてきた。彼の高いパフォーマンスは、そうやって自分で築き上げてきた努力の賜物以外の何物でもありませんし、そう言わざるを得ないだけの説得力が彼にはあります」

──試合に出続けるなかで、負けている時の反応やチームを鼓舞する姿など、常盤選手はピッチ内外でチームにプラスの働きかけができるようになっていきました。マルセロ ヒアン選手とも、すごく良い関係を築いているように見えました。
「ポジション的な関係性はもちろんですが、それ以上に彼らのパーソナリティがうまく噛み合っていたのだと思います。マルセロは非常に高いポテンシャルを持っていますが、まだまだ若いですし、日本語を完璧に喋れるわけでもありません。ずっと携帯ばかりを見ていたり、ゲームをやっていたりと、中身は本当に今どきの日本の若者と何ら変わらないんですよね(笑)。だけど、やっぱり“外国籍選手”というだけで、周囲からの期待もプレッシャーもものすごく大きくなる。そういうものを背負いながら戦うなかで、うまくいかない時期はどうしてもナーバスになってしまいます。でも、そういう時に亨太がピッチ内でしっかり声をかけながらプレーしている姿は、マルセロにとって本当に大きな支えになっていたはずです。彼だけではなく、チームの中の多くの選手がマルセロのポテンシャルをきちんと認め、彼をどう活かすかを深く考えているからこそ、そうやって手を差し伸べることができたのだと思います。亨太は本当にいろいろなことをきちんと自分のなかに落とし込めている人間なのだと思います」
──今シーズン、キャプテンマークを巻いた室屋成選手の存在も大きかったと思います。言葉が多いタイプではないかもしれませんが、彼が見せた姿勢がチームをうまく循環させていました。
「本当にそうですね。非常に素晴らしいキャプテンシーを発揮してくれたと思います。ただ、僕自身の反省として、彼も僕に対して『どこまで、何を伝えたらいいのか』を正直悩んでいた部分がありました。だから、僕からも『もうちょっと対話をする時間を作れば良かった』という想いはあります。ただ、彼はわざわざ対話をしなくても、ピッチ内外での行動と結果ですべてを周りに示せる人間です。そこに僕が甘えていたわけではありませんが、頼り切ってしまっていた部分は時々ありました。あそこまでの素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたからこそ、キャプテンである彼と周りの選手がもう一歩深い話を共有する機会を作れていれば、さらに何かを引き出せたかもしれません。ただ、チームをうまくまとめるという以前に、彼が見せている日々の姿勢、行動、ふとした言動そのものが、自然と周りの選手たちへ良い意味で伝播していました。言葉で引っ張るタイプではなく、背中で見せるキャラクターならではの空気感で、チームを非常にうまくまとめてくれたと思います」
──新たに2026/27シーズンがやってきます。秋春制に移行する新シーズンに向けてはどのように考えていますか。
「まずはキャンプがどうなるかですね。選手のコンディションをどう上げていくかについては、スタッフともいろいろと話し合いながら進め方を練っているところです。ただ、身体の準備はもちろん大切ですが、それ以上にメンタリティの部分をいろいろな意味でもっともっと引き上げていかなければいけないと感じています。それは選手たちだけでなく、僕自身も含めてです。来シーズンの契約延長の話をいただいた際にみんなに伝えましたが、僕が強く心に決めているのは『ここにいる誰よりも、オレは優勝したい。そういう強い気持ちを持った監督にならなければいけない』ということです。“どこかの誰か”ではなく、“誰よりも”なのです。なぜそう思ったのかを考えた時に、ふと頭によぎった理由があります。それは志の高い人間の周りには、自然と志の高い人間が集まってくるということ。これは逆もまた然りで、愚痴ばかり言っている人間の周りには、そういう人間が集まってしまう。『類は友を呼ぶ』という格言は本当にシンプルな真理です。そう考えた時、みんなの先頭に立っている僕自身が、もしもどこかの誰かよりも『優勝したい』という気持ちに弱さや甘さがあったら、それは誰もついてくるわけがないと気づきました。このクラブでもう1年、一緒に戦えるチャンスをいただいた。僕に託して良かったと少しでも思ってもらえたら嬉しいですし、選手たちにも『この監督と一緒にやれて良かった』、『この人とやってサッカーがうまくなった』とほんの少しでも感じてもらえたら、指導者としてこれ以上嬉しいことはありません。ただ、そう思ってもらえたとしても『だけど勝てなかったね』で終わってしまうことは、やっぱり絶対に嫌です。では、そうならないために何が必要なのか。それは監督である僕自身が、やっぱり誰よりも絶対に『優勝する』という気持ちを強く持たなければいけない。新シーズンはそういう覚責を持ったシーズンにしなければいけない。だからこそ、フィジカルもさることながら、やはりメンタリティの部分が、ここからものすごく大事になってくると思っています」
──長友佑都選手が「5回目のFIFAワールドカップに行くんだ」と叫び続ける姿を間近で見てきたので、その夢を叶える姿を見てしまうと、言葉にすることの重要さをあらためて感じます。
「やってできないことはないんだと僕も言いますけれど、人はやらないだけ、もしくは諦めてしまう。シンプルだと思います。だから、プレーの要素もすべてそう。『クオリティ、クオリティ』と、口を酸っぱくして言いますけど、一つひとつのクオリティが高ければ、ここにはもういないでしょう、つまり今ごろ世界で大活躍しているという話です。けれど、どのトップリーグの試合でも、代表選手でもミスはします。でも、単純なコントロールミスをミスにさせない技や術を持っている。足の速い選手で、例えばマンチェスター シティのアーリング ハーランド選手は、何回でも背後に抜け出します。ボールが出てこなくても手を上げて足を止めている彼の姿なんて見たことがないですよね。ボールが出てこなければもう一度ポジションをとり直して再び背後へと抜け出す。そのうちにバチッとパスが合ってゴールが生まれます。それは繰り返しているからこそ、です。彼には高さやフィジカルの能力があります。そうしたシーンを生み出せることは、ただ能力を持っているだけでなく、それをしっかりと使っているからこそ。繰り返して、繰り返して、繰り返す。ボールが出てくるのに走らないから得点にならないだけの話で、それは出し手も同じです。そこを合わせていくのがサッカーで、だからこそ“ミスのスポーツ”と呼ばれるのだと思います」

──僕らの時代ならイタリア代表で活躍されたフィリッポ インザーギさんを思わせるエピソードですけど、監督はハーランド選手にアップデートされているんですね。
「実はちょうどチームミーティングで選手たちにフィリッポ インザーギさんの話をしたところだったんですよ。FIFAクラブワールドカップに参加するヨーロッパチャンピオンがいつも横浜F・マリノスの練習グランドを使っていたので、バルセロナやマンチェスター ユナイテッドの練習も見させてもらっていました。ACミランがやってきた2007年、ゲーム形式のトレーニングで、彼はとにかく動き直しを繰り返していました。その話を選手たちにしたんです。背後に抜けてオフサイドになっても構わず、ボールが出てこなければポジションをとり直す。ボールがサイドに移れば、クロスボールに飛び込むために体勢を立て直す。中央から攻める場合は相手を背負って壁になり、自分が受けて周りをうまく利用しようとする。突破していったらグルっと回ってまたエリア内に入っていく。その繰り返しです。その回数が多いからこそ得点が生まれる。一度の動きで成功させようという腹づもりでやっていても、うまくいくわけがありません。量が質に変換される──。まさにそれを体現していた選手だと思います。質ではなく、そうした目に見えるものに変わってくると、優れた選手になっていくのだと思います。それで『フィリッポ インザーギを知っている人?』と聞いたら四、五人しか手が挙がらなかったので、『そうか、ハーランドと言えば良かったんだな』と思ったところでした(苦笑)」
──2026/27シーズンはどのようなサッカーを見せてくれますか。
「やはり、まずは自分たちがやりたいようにプレーしたいです。相手どうこうではなく、相手に何もさせないようなサッカーというよりも、自分たちのやりたいことをまずやっていく、そこがまずはベースになってくると思います。何かを守ろうとしたり、相手に合わせようとしたりすれば、自分たちの力よりも相手の力になってしまいます。もちろん相手は空っぽな人間でもないし、何かを考えているチームです。当然、我々も対策は講じます。そのうえで我々が上回っていきたいですし、やはりボールをしっかり大事にする、ボールを握り続けることも大切にしたいです。もしボールが足元にないのであれば、やはり積極的にプレスを仕掛けて、奪ってから次の攻撃にどうつなげていくか。あとはやはり何回も何回もトライしていくことが大事だと思います」

──では、ファン・サポーターのみなさんに向けて言葉にしておきたいことはありますか。
「僕は今、本当にチャンスだと思っていますし、僕だけではなくクラブもそう思っていると思います。ファン・サポーターの方々も、もしかしたらそういう期待を抱いてくださっている可能性はあるのではないかと思います。本当に今が加速する時というか、どれくらい力を使えるかというところにいると思います。ただ、この挑戦は我々もそうですし、ファン・サポーターの方も同じだと思います。これまでリーグを優勝したことがないクラブではあるので、今いるファン・サポーターのみなさん、選手、スタッフで力を合わせて、このタイミングで優勝して全員の名を刻みたい。それをみんなで作り上げていきたいです」
(文中敬称略)
Text by馬場康平(フリーライター)
