COLUMN 2026.6.17

バスクの風に吹かれて

チームが明治安田J1百年構想リーグを戦っていた4月上旬、北原槙はバスクの風を浴びていた。ちょうど1年前にJ1リーグ戦最年少出場記録を更新し、すでにプロ契約も締結している16歳は、スペインの強豪クラブとして知られるレアル ソシエダへの3週間に渡る短期留学を敢行していたからだ。

「将来はスペインでプレーしたいという自分の願望もあるなかで、ああいう機会をいただけたことはすごくありがたいことですし、嬉しかったです」

もともと本人も興味があったスペインサッカーへのチャレンジ。青赤アカデミーの先輩にあたる久保建英も所属しているソシエダが受け入れ先に選ばれた経緯を、小原光城ゼネラルマネージャーはこう説明する。

「我々にはいくつかのパートナーシップクラブがあり、当然そこを第一候補として考えましたが、タイミングや向こうの受け入れ態勢などの諸条件を精査したところ、今回は条件が合いませんでした。そこで他のクラブも含めて探していくなかで、ソシエダが候補に挙がったということが主な経緯です」

「ソシエダには久保建英選手が在籍している縁があり、さらにクラブには地元出身の選手を80%、他地域から獲得する選手を20%の比重で発掘して、適切に育成し、トップチームに輩出する【8:2の理論】という育成フィロソフィーがあります。このような育成に長けたクラブのノウハウのなかで彼に刺激を与えて、気付きを得てもらうことも一つの狙いでした」

個人での海外留学は、北原にとっても初めての経験。不安がなかったはずはない。だが、最終的には「行ってみないと分からない」というポジティブなマインドで現地に飛び込むと、いきなり練習初日からその存在を強烈にアピールしてみせる。

「最初は少しナメられている感じがありましたが、初日のポゼッション練習で自分の力を周囲に認めさせられたことが大きかったですね。言葉が通じなくても、ボール一つさえあれば何とかできるのかなという思いを持ちました」

現地に同行した北原次郎ヘッドオブスカウト兼メソッドダイレクターも少しだけ誇らしげに、その時のことを思い出す。「初日の一つ目のポゼッション練習で、みんなの目がパッと変わった感じがありました。『あ、コイツ、スゲーじゃん』って」

現地滞在中はBチームの活動にも何度か加わったが、基本的にはCチームでのトレーニングがメイン。ここでも東京同様に自分より年下の選手は一人もいないなかで、明確な課題と収穫を手にすることに成功する。

「『止める、蹴る』の質であったり、ゴール前での攻撃のところは通用したと思います。課題は守備の部分で、球際で戦う姿勢が足りないことは自分でも感じましたし、向こうのコーチからもそういうフィードバックを受けました。あの経験は今後に活かせると思いますし、活かさないといけないですよね」

異国での経験から得られたものの価値を証明するための機会は、すぐにやってきた。5月上旬に開催されたAFC U17アジアカップ サウジアラビア2026。北原はU-17日本代表の背番号10を託され、 FIFA U-17ワールドカップへの出場権を巡る真剣勝負に身を投じる。

結果はご存じのとおり。エースとして6得点を積み重ね、大会MVPと得点王をダブル受賞する活躍で世界への挑戦権獲得とアジア制覇に大きく貢献。その名前をあらためて多くのサッカーファンに知らしめることとなる。

「(小野信義)監督からも試合を任されている感覚があるなかで、チームとしても個人としても結果が出たので、本当に良い経験になりました」と語る北原に、話題になった“先輩との約束”について尋ねると、高校生らしい笑顔を浮かべながら、その経緯を明かしてくれた。

「龍ちゃん(佐藤龍之介)とご飯を一緒に食べに行った帰り道に、『優勝して、得点王とMVPを獲ってこい。オレは獲ったから』と言われたんです。もともと自分も狙っていましたが、龍ちゃんからも言われたことで、強い想いを持つことができましたし、それを達成したので、ご褒美を買ってくれると言われています(笑)」

11月に幕を開けるFIFA U-17ワールドカップ カタール2026で狙うのは、当然世界一だ。個人としても決勝も含めた8試合で8得点を挙げるという目標を掲げ、晴れ舞台への準備を進めていく。

一方、トップチームでは苦しい時間が続いている。明治安田J1百年構想リーグでは試合出場はおろか、ベンチ入りもなし。キャンプ中にケガに見舞われたこともあり、コンディションもなかなか整わないなかで、思い描いたようなプロ2年目を過ごせなかった。

16歳が陥りかけたネガティブ思考のスパイラル──。だが、そんな日々に小さくないモチベーションを持たせてくれたのは、やはり模範とすべき“先輩”の背中だったという。

「ベテランの選手たちが、うまく若手のモチベーションを上げてくれるような声掛けをしてくれていたので、それなのに自分が良くない方向に行くのは違うなと。特にメンバー外になった時の(東)慶悟さんの声掛けは響きましたし、(橋本)拳人くんも自分のことを気にしてくれたので、そういう人たちの存在はありがたかったですね」

しばしの休息を挟み、迎える2026/27シーズン。「高校生だから」なんて言い訳が通用しない世界なのは百も承知。ならば、日常のトレーニングからひたすら自身にベクトルを向け、確かな結果を残すことで、成長し続けている今を必ず多くの人に認めさせてみせる。

「スペインでは自分のプレーを見せ続けることで、周囲の見方が変わることも分かりましたし、それを見せ続けないとすぐに消えてしまう世界なのかなと感じました。それに自分が課題だと思っていたことを、改めて多く感じられた良い機会だったので、この経験は必ず今後に活かしていきます」

「少し遠い目標としては、自分が20歳から21歳になるタイミングで次のFIFAワールドカップ2030があるので、そこには今年の龍ちゃんのように候補として名前が挙がるようになっていたいですね。そのワールドカップに出るためには、次とその次のシーズンが大事になると思うので、そこをしっかり意識していきたいですし、いずれはスペインに行って、活躍して、ワールドカップで優勝したいと思っています」

確固たる自信も、このクラブを背負う覚悟も、もちろんあるに決まっている。青赤の未来を担い得る、背番号77のティーンエイジャー。17歳になった北原槙が期す真夏の逆襲が、今からとにかく楽しみだ。

(文中敬称略)

Text by土屋雅史(フリーライター)