北海道白老町で過ごした12日間は、チームの骨格をより太くするための時間となった。コツコツと、自分ができる今を重ねる。その始まりの日々がそこにはあった。
新たに秋春制へと移行する2026/27シーズンは、チーム始動から約1週間を小平グランドで過ごし、7月14日から初となる北海道白老町でキャンプをスタートさせた。北の大地ではトレーニングマッチを中心にスケジュールが組まれ、コンディショニングと新戦力のフィットに時間を割いてきた。松橋力蔵監督はその手応えをこう口にする。
「コンディションが良い状態でなくても、季節柄で身体は良く動いたのかもしれない。東京でのトレーニングで徐々に上げながら、ここで100パーセントにする狙いはある程度達成できたと思います。あっという間でしたが、開幕まで帰京後の2週間も意識しながら行ったキャンプと捉えれば、良い手応えはあります」

また、限られた時間のなかで明治安田J1百年構想リーグの課題を活かしたトレーニングはテーマを絞って行われた。攻撃は押し込んだ後のサイドの崩しに取り組み、クロスボールからのシュート練習には特に時間を掛けた。指揮官は「まだまだです」と首を横に振り、こう続ける。
「良い意味で針は振れますが、実際のゲームでいかに活用できるかだと思います。選手たちは“これ”というところにフルで力を傾けてくれるので、良い反応と良い課題、良い成果が同時にあったと思っています。やはり我々が生命線にしている中央のゾーンはどのチームも対策してくる。それを想定すれば、いろいろなバリエーションや攻撃の幅を広げなければいけない。少しずつ積み重ねることで、必ず良いものにつながっていくと思います。キャンプだけでは難しいので、これはシーズンを通じた導入部分でした。みんなにはメッセージを伝えることができたし、僕の頭の中にある絵はある程度分かってくれていると思います。微調整やリニューアルしなければいけないところはまだまだありますので、それはシーズンを通してやっていきたいと思っています」
守備ではハイプレスとミドルブロック、クロスボール対応とエリアごとにチームの約束事を再確認した。それらを反復練習し、身体に染みこませようとしてきた。磨いてきたハイプレスやトランジションの意識は高く、練習でも基準が一段上がった印象だ。松橋監督は「実際のゲームで90分間やり続けるのは難しい。相手のシステムややり方もあるので、これも継続してトレーニングしていくことで自分たちのものになってくると思います」と先を見据える。
今シーズン初の対外試合となったモンテディオ山形との練習試合では、攻守が噛み合って相手を圧倒する時間帯も長かった。ただし、多くの決定機を作りながらも得点だけが遠く、45分×3本の合計スコアは1-2の敗戦。アカデミーの選手が多く出場した3本目はプロ相手にハーフコートゲームを展開しながらも、一瞬の隙を突かれて決勝点を献上。圧倒した内容とは裏腹の結果が残った。
その試合後、監督の口から出たのは、「ここに悔しいと思わない選手はいないよな」という言葉だった。
「3本目も見れば見るほどメチャクチャ面白かったけど、君たちはこういう相手に勝っていかなければ自分の道を切り拓くことはできない。クラブとしての考えや理念があって、このキャンプのメンバー構成をしている。3本の結果は負けだ。『このタイミングではこれでいいんだ』ではなく、リーグでは勝点3をとらなければいけない。リーグではどんなゲームでも勝点3をとるために考えていこう」

続く名古屋グランパスとのトレーニングマッチを前にしたミーティングで、指揮官は「負けたことに悔しさを感じない選手がいたとしたら、それは嘘だと思う」と言い、さらに踏み込んだ言葉で選手たちに語りかけた。
「もしかしたら状況に応じて下からつなぐのではなく前に行こうと要求するかもしれない。長いボールを入れてセカンドボールを拾って、畳み掛けにいこうと言うかもしれない」
それは戦術の変更を意味するのではなく、何よりも「勝利にこだわれ」という強いメッセージだった。その覚悟を受け止めた選手たちは、それぞれが自身の頭で噛み砕き、「より状況に応じた判断ができるチームになりたい」と声を揃え始めた。
松橋監督はそうした選手のリアクションに「彼らは伝えれば必ず反応してくれる」と目を細めてこう続ける。
「結局は攻撃が最大の防御だし、ボールを持っていれば失点することはない。1点を先行したのなら我々はボールを保持し続けながら2点目をとりにいく。ただ、それが絶対ではない。サッカーでは先に得点したチームが劣勢に回ることはよくあること。そのリズムを作らせないためにどうするかという共通認識を持たなければいけない。ディフェンスラインでボールを動かしつつ、相手がプレスに出てきたら背後を狙ってセカンドボールを拾っていく。相手の陣地で自分たちのリズムを作りながら、カウンターを食らいやすい中央ではなくサイドを使っていくことになると思います」
そうした勝利の方程式をピッチに描くために、今回のキャンプではサイド攻撃を重点的に磨いてきた。サイドに人数を割けていれば、ボールを奪われても即時奪回が可能だ。それを見越したうえで、サイドに新たな活路を築こうとしてきたのだ。
「正解は一つではない。ただ、やることを正解にすることが大事。その目線合わせはやり続けないといけない」
提示された意図を自分たちの手でピッチ上の最適解へと変えていく――。そうした意識の擦り合わせを経て迎えた名古屋戦は、まさにその状況判断が結実した試合だった。序盤はマンツーマン気味の相手に苦戦を強いられた。だが、思い切ったアクションを入り口に、ローテーションを探り当ててマンツーマンディフェンスを剥がし、見事に2-1の逆転勝利につなげた。ピッチ上の選手たちが自らの手で“正解”を手繰り寄せた小さな成功体験でもあった。
「あの場で起きていることの最適解を意識してくれた。これからのリーグ戦でも起こり得ることです。戦術や理論は大切ですが、いざピッチに入った時にはそれをどう成功させるか。マンツーマンの相手を剥がす手法はたくさんありますが、自分たちで良い方向に持っていくことができたゲームでした。僕はそれを求めています」

明治安田J1百年構想リーグで成長したチームをさらに進化させるために、より細部を突き詰めようとしてきた。すべては“優勝”の二文字をつかみ獲るためだ。松橋監督は新シーズンに向けたミーティングで選手たちにこんな言葉を贈ったという。
「自分たちが掲げた目標を達成するための日々を送らなければいけない。そこしかないと思う。これからリーグ優勝という明るい未来に向かっていくが、その未来はもうずいぶんと先にあるかもしれない。そこを見ずとも、今この時点がもう未来なんだ。どんどん前に進んでいくし、未来に進んでいく。だから“未来は今”ということなんだ」
そして、その“今”を大切にする秘訣もこう付け足した。日々を地道に積み重ねる重要性を説く指揮官の表情には誠実さがにじんだ。
「今、どれだけできるか、どれだけそこに懸けられるかが僕は大事だと思います。ただし、人間は一日にやれることをどこかで多く見積もってしまい、本当は大してできないのにキャパオーバーになってしまいがちです。だから今をどう大切に扱うかがすべて。今ここにある一日にできることを多く見積もらず、コツコツと取り組んでいった先に待つ未来には、それが積み重なった大きな成果が必ず待っているのだと思います。このキャンプはスタートから多くのことに手を出すわけではなく、テーマを持ちながら進めてきました。プレシーズンの残り2週間で細部を詰めて開幕を迎えたいし、良いスタートを切ったうえで緩やかでも急激でも右肩上がりに進んでいって、最後に自分たちが一番高いところにいる状況になればいいと思っています。そのための今だと思うので、みんなにもそういうところを共有しながらやっていきたいと思います」
その“今”を誰よりも熱く、そして冷静に見つめている。新シーズン開幕を前にして指揮官は「一番強くリーグ優勝を願うのは自分でありたい」と言葉にしてきた。
本人は「起伏が見えづらいし、常にニュートラルなところに自分を置かなきゃいけないタイプの性格」と言うが、それをふとした瞬間に垣間見た12日間でもあった。

「僕自身がそうではないと、彼らもそう思えない。キャンプ中に声を張ることもあったし、一つひとつの負けをどれだけ悔しがれるか。僕自身も自分が監督になって初の試みを、いくつかミーティングではしています。選手に要求する以上にもっともっとチャレンジしなきゃいけない。それが最後に大きな結果につながるなら僕自身もやり続けなければいけない」
常にフラットであろうとする男が見せた熱源はこの濃密な日々を通じ、着実に選手たちへと広がりを見せた。北海道・白老町キャンプを経て、より勝利に飢えた集団になってきた。
一つでない答えを求め、選んだやり方を正解にする。2026/27シーズンの頂へとつながる“力蔵トーキョー”がめざす道筋は北の大地で確かに示された。
(文中敬称略)
Text by 馬場康平(フリーライター)

