<マッチレビュー>
一発勝負でプレーオフラウンドへの勝ち上がりを決める2025 JリーグYBCルヴァンカップ1stラウンド3回戦。東京はアウェイで湘南ベルマーレとの一戦に臨んだ。同大会は“プライムラウンド”と称される準々決勝以降からVARが導入されることになっており、この3回戦では採用されない。
2020シーズン以来となる“Jの聖杯”をめざす青赤は、先週末の明治安田J1リーグ第17節の浦和レッズ戦から先発メンバーを大きく変更。9名を入れ替えるフレッシュな布陣で試合に臨むことになった。
ゴールキーパーは野澤大志ブランドン選手。最終ラインは前週の浦和戦で実戦復帰し、この日38歳の誕生日を迎えた森重真人選手を中央に配し、木本恭生選手を右、岡哲平選手を左に置く並びを採用した。ボランチは高宇洋選手と東慶悟選手というパスセンスに定評のある両名がコンビを組み、ウイングバックは右に長友佑都、左に安斎颯馬の各選手が入った。そしてインサイドハーフには仲川輝人選手と今シーズン公式戦初先発の野澤零温選手が並び、1トップにはリーグ戦3試合連続ゴール中のマルセロ ヒアン選手を起用。ベンチには特長のある選手が多く揃い、展開に応じた起用で全員一丸となって勝ち上がりをめざす。
試合は日中の暑さから一転、快適な気候となったレモンガススタジアム平塚でキックオフを迎えた。
1stHALF—ペナルティキックなどチャンスを作り出すもスコアレスで折り返す
立ち上がりの攻防から主導権を握ったのは東京だった。最終ラインに入った森重選手、ボランチの高選手と東選手を中心にボールを出し入れしながら攻め手を探ると、一気にリズムを変えるワンタッチパスで裏のスペースを突くなどして相手ゴールに迫っていく。
ボールをつないで攻める東京。長友選手が積極的なインナーラップから攻撃に厚みを加えていくと、前半22分にその長友選手のクロスボールが相手のハンドを誘ってペナルティキックを獲得する。キッカーはヒアン選手。だが、背番号19のキックは上福元選手にセーブされ、再びこぼれ球を狙うもゴール右に外れて先制のゴールネットを揺らすことができない。

湘南も鋭く厚みのある攻撃を仕掛けてくるが、東京もしっかりと切り替えて対応。身体を張った守備で勝利への意欲を見せていく。
前半34分にはヒアン選手が相手のバックバスに対して前線から果敢なプレス。これがゴールキーパーのミスを誘い、流れたボールが五分五分の状況となるが、ヒアン選手の切り返しが大きくなってシュートを打つことはできなかった。さらに同35分には長友選手のクロスに野澤零温選手がヘディングで狙ったが、わずかにタイミングが合わずボールはバーの上へ。
さらに同39分には中盤で高選手が相手のスキを突いて細かなボールタッチからターンして前を向いてパスを出すと、仲川選手とのワンツーで再び受け直してシュート。これもゴールには至らなかったが、複数の選手が連動した形でチャンスを作る。
前半アディショナルタイムは2分の表示。ここでコーナーキックの守備時に長友選手が接触プレーで痛むアクシデント。この治療中に主審がホイッスルを鳴らして前半が終了した。
東京は多彩な攻撃を披露しながらゴールを奪うことはできず、試合は後半以降の戦いに持ち越しとなった。
2ndHALF—野澤大志が好セーブ連発もワンチャンスを生かされる
負傷の状態が心配された長友選手もピッチに顔を出し、ハーフタイムは交代なし。前半は攻守に積極性を見せていただけに、ここまでの良い攻撃を早い時間で結果につなげたいゲームとなる。
後半に入っても前線からのプレスが機能する東京。後半8分には左サイドでボールを受けた野澤零温選手が力強く縦へ運び、一旦は相手にクリアされそうになるが、そのまま寄せて足を伸ばしてカット。ドリブルで持ち上がって中央のヒアン選手へラストパスを送るが、惜しくも相手選手にブロックされてしまう。
後半13分には左サイドでインターセプトした安斎選手がテクニカルなボールタッチと力強い持ち上がりで相手陣内を切り裂くようにドリブル。だが、ポケットを狙ったパスが野澤零温選手に合わず、決定機には至らない。
なかなか試合を動かすことができない東京。後半14分には自陣ペナルティエリア左への進入を許して決定的なシュートを打たれてしまうが、これは野澤大志選手がしっかりとニアを消しながら折り返しの至近距離シュートを弾く。さらにこぼれ球をつながれて再び狙われたが、これも野澤大志選手が倒れ込みながらキャッチ。公式戦3試合ぶりのピッチへ戻ってきた背番号41が立て続けのビッグセーブでチームを盛り立てる。

続く後半18分にはヒアン選手、野澤零温選手に代えて1トップに佐藤恵允、インサイドハーフに俵積田晃太の両選手を同時投入。ピッチ内の活性化を図っていく。
前半から何度もセットプレーの機会を得ていた東京。後半26分には安斎選手が右サイドから送り込んだフリーキックをファーサイドの木本選手がヘディングで合わせるも、これは上福元選手にセーブされる。このこぼれ球に両チームの選手が密集してゴール前で大混戦となったが、これも押し込み切ることができない。
さらに変化を加えたい東京は後半27分、東選手と仲川選手から小泉慶選手、遠藤渓太選手にスイッチ。小泉選手には中盤の強度アップ、遠藤選手にはフィニッシュワークに絡んでいくことが期待される。続く後半30分にはスタメン復帰戦となった森重選手に代わって木村誠二選手がイン。そのまま最終ラインの中央に入った。
攻守にバージョンアップを図った東京だったが、後半37分にロングボール一本から藤井選手に抜け出しを許すと、安斎選手が懸命に戻るもゴールライン際で切り返されて中央へパスがつながり、平岡選手に蹴り込まれて先制ゴールを奪われてしまう。
1点のビハインドを背負ってしまった東京。後半42分には遠藤選手の左コーナーキックからゴール前でチャンスを作ったが、これも押し込むことができず。惜しいシーンを作りながら、あと一歩のところが届かない。

6分間の後半アディショナルタイムも反撃を期して猛攻を仕掛けていくなか、湘南のカウンターでピンチを迎えたが、平岡選手の強烈なシュートを野澤大志選手が横っ飛びでスーパーセーブ。勝利へ望みをつなぐために懸命のプレーを見せる。しかし、最後までゴールをめざしながらも湘南ゴールのネットを揺らすことができずにタイムアップ。内容を結果につなげることができず、今シーズンのルヴァンカップは1stラウンド3回戦で涙を呑むことになった。
MATCH DETAILS
<FC東京>
STARTING Ⅺ
GK 野澤大志ブランドン
DF 森重真人(後半35分:木村誠二)/木本恭生/長友佑都/岡哲平
MF 安斎颯馬/高宇洋/東慶悟(後半27分:小泉慶)/野澤零温(後半18分:俵積田晃太)
FW マルセロ ヒアン(後半18分:佐藤恵允)/仲川輝人(後半27分:遠藤渓太)
SUBS
GK 波多野豪
DF 土肥幹太/白井康介
MF 常盤亨太
MANAGER
松橋力蔵
GOAL
-
<湘南ベルマーレ>
STARTING Ⅺ
GK 上福元直人
DF 髙橋直也(後半30分:鈴木淳之介)/舘幸希/大野和成/畑大雅
MF 鈴木雄斗/池田昌生/茨田陽生(後半30分:藤井智也)/奥野耕平(後半24分:平岡大陽)
FW ルイス フェリッピ(後半24分:福田翔生)/鈴木章斗(後半44分:奥埜博亮)
SUBS
GK 真田幸太
DF 大岩一貴
MF 石橋瀬凪
FW 小田裕太郎
MANAGER
山口智
GOAL
後半37分:平岡大陽
[松橋力蔵監督インタビュー]

Q、本日の試合を振り返ってください。
A、終始イニシアチブを握りながら進めていたゲームだったので、最後のあのワンチャンスでとられてしまったというところは、やはり非常に悔しいです。ですが、あそこをしっかりと決め切った湘南ベルマーレのクオリティの高さが勝利をもたらしたのだと思います。そこからは少し攻めあぐねてというか、ある程度は攻撃の色は付けつつも、そこまではっきりとしたチャンスを作り切ることはできませんでした。そのなかでもいくつかチャンスはあったものの、こじ開けることができなかった結果なので、非常に残念です。
Q、良いゲームができたと思いますが、何が足りなかったのでしょうか。
A、もちろんそれは得点をとることです。無得点で終わっているので。序盤のペナルティキックを決めていれば、ということもありますが、それだけではなく良い形でいくつかのチャンスも作れているので、そこを仕留めるということはやはり大事なことです。イニシアチブを持って我々がボールを握る時間が長いなかで、焦れないように、そして焦れないなかでどこでギアチェンジをしていくかというところは課題になっていくかなと思います。
どうしてもボールを持って決定機を作り切れないと、心理的にも「これでどうやって……」と疑心暗鬼になるような可能性も十分にあるのですが、ハーフタイムに「それじゃダメなんだ」と伝えました。我々はボールを握っていれば失点はないし、握っている限りはチャンスを作り切ることができる。そのメンタルの持ち方というか、そういうところで後半に入ってチャンスはいくつかあったので、そこが決まっていればというところです。しかし、『たられば』ではなく、やはり決めなければいけません。
この敗戦を受けて、我々は続けていくことしかできません。もちろん勝負の世界ですから、勝たなければいけないというところも当然ありながらも、このようなゲームの時に負けがすべてを奪ってしまうわけではなく、我々の良かった部分も当然あるので、そこを見ながら、しっかりと続けていくということが大事だと思います。
Q、敗戦のなかでも、例えば野澤零温選手がここまで上手く流れに関われる試合はこれまで多くなかったと思いますし、長友佑都選手が久しぶりにスターティングメンバーでフル出場して、対面する畑選手を圧倒するようなプレーを見せていたと思います。
A、本当に素晴らしいと思います。野澤零温選手に関してはプレーリズムを作るということが多かったので、本来の役割として自分でもう少しチャレンジして良いんじゃないかと。そこで後半は自分で仕掛けながら、今度は守備でもしっかりと奪い切っていました。ただ、やっぱり最後のパスをしっかり通せなかったというところは反省点ですし、そこをパスではなく自分でいくというところもあっても良かったと思いますが、彼の頭の中にその選択肢がなかったわけではないと思います。メンバーに入りながらも、なかなか彼に出場機会を与えてあげられていなかったので、そういう部分を考えれば、本当に期する想いもあったと思います。二人ともしっかりと自分の良さを出してくれました。
Q、森重真人選手が戻ってきて、ボランチに東慶悟選手と高宇洋選手が入って、最初からこの三人でスタートするのは今シーズン初めてだと思います。足元が巧い選手が三人揃うことで松橋監督がやりたいサッカーに近付いたかと思いますが、どのようにお考えでしょうか。
A、彼らに限らず、ボランチはタスクが非常に多いポジションでもあります。さらにゲームをどうコントロールしていくのか、自分のポジショニングをどうするのかといったこともある程度考えないといけない重要なポジションでもあります。そういう意味では、東選手も出場機会がそこまで多くないなかでもトレーニングでしっかりと違いを作り出せるパフォーマンスをずっと維持してきてくれているからこそ、本番のゲームになっても落ち着いてプレーできているのだと思います。もちろん彼の経験であったり、アイデアであったり、そういうモノを持っている選手なので十分に力を発揮してくれました。
試合が終わってから選手たちと話しましたが、それぞれの色が本当に良く出た試合だったと思っています。ただ、それが最後に試合の勝利に繋がらなかったことは、まだまだ我々に甘さがあったからです。甘さとは、そこでしっかりとボールを通せるか通せないか、しっかりと寄せ切れるか寄せ切れないか、そこで打たせないかとか、そのような小さなことをどれくらい90分間のなかで完璧に近付けられるかだと思います。その一瞬一瞬をもう少し詰めていく必要があるかと思います。ただ、そういう意味では、非常に素晴らしい試合をしてくれました。
[選手インタビュー]
<東慶悟選手>

Q、前半は良いリズムで決定機も作れていましたが、勝ち切れませんでした。
A、これが現実です。良いゲームをするためにここに来ているわけではなくて、勝つために来ているので。そこで勝てないのが、我々の現状だと感じています。そこが弱さです。
Q、何が足りないのでしょうか。
A、最後の質だったり、決めるべきところを決める、決められない時に後ろが何とかとらせないように我慢する。それが湘南ベルマーレにはあってウチにはなかった、というサッカーにとってとても重要なポイントです。リーグ戦の順位もそうですし、ここで上にいけない現状だと思います。
Q、森重真人選手と高宇洋選手と三人で中盤とディフェンスラインでボールを出し入れしながら、ワンタッチで裏を狙ったり松橋力蔵監督がやりたいサッカーができたのではないかと思います。
A、そのあたりは、人が変われば良さも出て良いシーンはありながらも、ボールを動かすためにやっているわけではなくて、ゴールをとるためにやっているので。ゴールにつなげられない以上は、もちろん内容も大事な部分ではありますが、最後の部分にこだわらないと上にはいけないというのが今のサッカーの現状だと思います。
Q、手応えを得ながら、教訓もあったということでしょうか。
A、もう何回も得ていますね。これだけやってきているので。やはり勝たないと意味がないですし、何も評価されない世界ですから。もちろん、森重選手も帰ってきて、結果もついてくればより良いのですが、それができない僕も含めたチームのリアルです。これをどう変えていくかも自分たち次第です。
Q、前回の浦和レッズ戦と同様に、試合のリズムを引き寄せて何度もチャンスも作れていた流れがこの試合も続きました。
A、続けていかないといけないし、先ほども言いましたが、それをゴールに変えられないといけません。もちろんチャンスを多く作ったら確率は上がるのですが、相手も変わればやり方も変わるし、そこに目を向けるのではなくて、勝つために何が足りなかったかに目を向けていかないと難しいです。一つ前の浦和レッズ戦もそうですが、最後に勝ったのは浦和ですから。僕も含めて、もっと細かいところにこだわってやっていかないといけません。今日はキャプテンマークをつけさせてもらいましたし、それを勝利につなげられない自分の弱さ。もっと強くならないといけないと思います。
<野澤零温選手>

Q、今シーズン初のスタメン出場でした。
A、前線のポジションで出た以上は数字がほしかったですし、ボールに関わり続けることはできましたが、自分の武器を生かしてもっと前に出ていかなければいけなかったです。それが今自分に求められていることですし、そこを出し切れなかったことは自分の力不足を痛感しています。ただ、チャンスがなかったわけではないですし、そこで決めていれば何か変わったかもしれないので、そこの詰めの甘さは課題として出たと思います。
Q、リズムを作るようにボールに関わる機会が多かったですが、そうしたチームに流れを持ってくる手応えはありましたか。
A、自分のなかでは、そこがだんだんとできたかなと思っています。もっと前を向けたシーンだったり、前にはたいて自分で入っていくシーンはたくさんありましたが、今までできていなかった部分が、だんだん周りが見えてきて周りとつながれてきている感覚がありました。そこは今日、試合で出せていたので、少し自信がついた部分ではあります。
Q、ここでルヴァンカップは終わってしまいましたが、リーグ戦と天皇杯があります。この試合をどう次につなげていきますか。
A、やはりカップ戦の一つを失ってしまったということは、試合に出ていた選手の一人として非常に責任を感じています。すぐにリーグ戦の試合がきますし、天皇杯もあるので、ここで負けたゲームを反省すべき部分は反省する必要があります。でも、一喜一憂することなく、まずは自分たちがやるべきことにしっかり目を向けたいです。僕たち自身が足踏みをしていたらクラブとしても上にいけないですし、個人としても成長できないので、今できることの最善を全力でやることが大事になります。チームのためにもっと働きかけたいと思います。
<野澤大志ブランドン選手>

Q、チームを救う場面もありましたが、悔しい敗戦となりました。
A、狙っていたタイトルが一つなくなってしまったことが非常に悔しいですし、ここから僕らはチームとして成長し続けるしかないと思っています。今日のような試合展開での進め方や締め方を含め、良い攻撃ができている時に守備陣がどのように集中して最後尾からコントロールできるかだと思います。
Q、至近距離のセーブなど、集中したプレーでチームを鼓舞するシーンもありました。
A、どうしても試合の流れを渡したくありませんでした。僕自身、ビルドアップからミスをしてしまい、味方に助けてもらったシーンもありましたが、しっかりと切り替えてカウンターにつながるプレーもできました。試合の流れを相手に受け渡したくないと思っていたなかでの失点が、苦しい展開を招いてしまいました。
Q、リーグ戦では2試合スタメンを外れている状況で、野澤大志選手としても結果につなげたい試合だったと思います。
A、チームが勝つことだけに集中して試合に臨みました。この試合に出てしっかり個人としてアピールする、というような考えは頭の隅に置いていましたし、チームとして勝つためにできることをしようと思っていました。勝てなかったことに責任を感じています。
Q、味わった悔しさをどのように次へつなげていきますか。
A、成長し続けること、どのような状況においても最善のプレーが表現できるような準備をしたいです。


