細胞も熱狂。長友佑都が日本代表を甦らせる

COLUMN2024.3.20

細胞も熱狂。長友佑都が日本代表を甦らせる

まさに圧倒的と言っていいだろう。

日本代表に合流した長友佑都がピッチ内外で存在感を見せつけている。

3月18日の練習初日、かつてと同じように先頭を切ってウォーミングアップのランニングを開始すると、ファン・サポーターの呼びかけに笑顔で手を挙げて応えていく。続くステップワークでも当然のように集団の先頭に入ってチームをけん引。ボール回しでもとにかく大きなリアクションをとり、大声で選手名を呼び、コーチングをすることでチームの雰囲気を高めていく。長年、日本代表にあった当たり前の光景が戻ってきた感覚だ。


久々の代表招集に本人のテンションも上がりまくっているようだ。

「今日は朝5時くらいに目が覚めて、細胞たちがうずき始めていたので、とりあえず『いったん落ち着け』と細胞たちに言ったんですけど、そのくらい楽しくて仕方がない。(アビスパ福岡戦から)試合後、2日目はいつもだと疲労が来るタイミングだけど、ここに来たら一気に吹っ飛んだ。そういう面でも意識とか気持ちは大事だとあらためて感じさせてもらった。まずは気持ちなんだなと」

周りの選手たちも口々に「やっぱり向上心や熱量がすごい」という反応を見せており、さらに「佑都くんに頼ってばかりではダメ。自分たちの世代がやっていかないと」(板倉滉)と、さっそくチームに好影響や刺激を与えている様子。このスタイルは宿舎でも変わらず、食事会場でも「隣のテーブルまで聞こえるくらい大きな声が響き渡っている」(伊藤洋輝)という。

長友自身は「(若手選手には)最初は少し引かれて距離を取られるところがあったけど、練習して心が近付いたと思う」とやや苦笑いしたが、日本代表に必要なものは分かっている。それをもう一度持ち込むために再び八咫烏のエンブレムを胸に戦う覚悟を固めている。


森保ジャパンは1月のAFCアジアカップをベスト8で終え、ここからもう一度ムードを高めていかなければならないタイミング。FIFAワールドカップ26 に向けたアジア2次予選が再開する3月、チーム立て直しの一員として長友に白羽の矢が立った形だ。

「(昨年の日本代表は)みんな活き活きしていて躍動して、意欲も覇気もあった。でも、アジアカップは元気も覇気もなかった。何が影響したのかは分からないけど、一つ歯車が噛み合えば変わっていくし、逆に合わなくなるとアジアでも勝てなくなるという怖さもある。良い雰囲気、勝つチームの雰囲気は、自分のなかでも4回のワールドカップの経験とかで根拠みたいなものはある。そういう雰囲気は作っていきたい」(長友)

チームの雰囲気を変える“盛り上げ役”としての立場は本人も理解している。だが、もちろんそれだけで終わるつもりはない。

東京では昨シーズンから素晴らしいコンディションをキープし、今シーズンも開幕から好調を維持。試合終盤でも落ちない運動量、サイドをオーバーラップしてチャンスに絡むスピードとタイミング、そして粘り強いディフェンスは変わらずリーグトップレベル。3月19日のミニゲームでマッチングした久保建英も「久しぶりに良い意味でのしつこさがあって楽しかった」と笑顔で語っていたほどだ。


「正直、誰よりも若いと思っている。20代のコンディションにあると感じている。動けているからこそ呼ばれたと思う。東京でやっていることが評価された。『長友が必要だ』と言われるための準備はしてきた」と、Jリーグでのプレーを引っ提げ、胸を張って代表に合流している。

「必要」という言葉には、彼が持つ経験も含まれている。3月26日に行われる朝鮮民主主義人民共和国とのアウェイゲームは平壌開催。長友自身は2011年の前回遠征こそ怪我で参加していないが、「どんな相手だろうが、どんな過酷な場所だろうがやれる自信はある。気持ちだと思いますよ。気持ちが崩されるとチームも崩れる。強い気持ちはしっかりと保ちたい。元気なやつが一人いたら、それが伝染していく。自分は常にそういう存在でありたい」と未知数の戦いに向けたメンタルも期待されるところ。

なお、東京では主に右サイドバックを主戦場としているが、今の日本代表では右サイドバックで毎熊晟矢、菅原由勢の両選手が活躍しており、かつてプレーしていた左サイドバックで起用される可能性が高そうだ。

カタール大会以来、約1年3カ月ぶりとなる日本代表招集。自身5度目の本大会出場に向けた真剣勝負で、自らの力を発揮できるチャンスが来た。

「5回目は行く。自分のなかではそう決めていて、そこから努力して、逆算して取り組んでいる。偉そうに言うと叩かれるかもしれないけど、それもエネルギーにして頑張りたい」

久々の日本代表ながら、期待される役割は多岐にわたる。難しい状況を打破することも求められている。自身の価値を改めて証明するために、そして日本代表と自分自身の未来を切り拓いていくために、情熱の男が再び国際舞台に挑む。


text by 青山知雄