[2022シーズンレビュー]<br />
東慶悟選手インタビュー

INTERVIEW2022.11.16

[2022シーズンレビュー]
東慶悟選手インタビュー

変革に乗り出した東京にあって、前半戦の東は出場機会を増やせずにいた。転機はアンカーのポジションで起用された後半戦。アルベル監督が思い描くスタイルをチームに浸透させていくにあたり、東は慣れないポジションで大きな役割を果たした。東京での10年目のシーズンを終えた男は、変革の1シーズンに何を感じ、未来に何を見据えるのか。


新境地アンカーからの景色

Q、ここ数年の東慶悟選手は、「何より勝ちたい」「勝つことが一番の目的」という言葉を繰り返していることが印象的でした。
A、そこを大前提に置かないと、プロの世界なので。自分たち東京がめざしている方向性も間違ってはいないと思いますし、それは来シーズン以降も続けていきつつ、またスタイル構築についてはさらなる作業も必要になってくると思います。

Q、長谷川健太元監督(現名古屋グランパス監督)時代とは異なるスタイルを、アルベル監督1年目でチャレンジしてきました。あらためて自分たちの変化は感じましたか?
A、スタイルはもう全く違うなと思います。もちろん、どのスタイルが正解か、不正解かという話ではないです。一つ確かなのは2022年から自分たちがめざそうとしているものが変わり始め、新しいことにチャレンジしている最中だということです。シーズン前半戦より間違いなくチーム全体でボールが落ち着く時間が増えたでしょうし、いわゆるポゼッション率も上がってきているとは思います。監督がめざすことは、ボールをしっかり保持すること、そして『最大の防御は攻めること』とも話していますので、チームパフォーマンスとしてそのめざすスタイルがしっかり出てきている試合もありました。ただ、まだまだ不安定ではあります。

Q、アンカーの東選手を経由して、しっかりボールを前方に運べる展開は確実に増えてきています。
A、もちろん相手の立ち位置やシステムのかみ合わせみたいなところも毎試合違いますし、そこが大きく関係するポジションでもあります。ただ、スムーズに運べる機会は間違いなく増えてきています。来シーズンに向けての課題は、敵陣に入ってからの攻撃の精度。いわゆる相手ゴールまでの『ラスト1/3』と言われるエリアの攻略法だと思います。もちろんサッカーをプレーする上で、そこの攻略が一番難しいテーマです。


Q、アンカーでプレーし始めた今季、東選手は「自分は若い頃はトップ下の選手。アンカーは四方八方の周囲の味方と連動していくという意味では似ている」と話していました。
A、何より、ボールを触る回数がアンカーは多いですし、いろんな選手と絡んでプレーしていくじゃないですか。そういうプレー自体、僕は本来好きです。トップ下をやっていた頃もボールをたくさん受けるタイプでしたし、リズムを作ることも自分の仕事でした。そこにトップ下だと前に飛び出していく動きも必要になってくる。あとは味方を生かすための囮(おとり)の動きも入れていく。そういう動きは、アンカーにはないですよね。その分、アンカーは守備面で意識とパワーを使うというイメージでやっていました。

Q、現状アンカーにいる東選手はなかなか高いエリアでプレーに関与する機会は多くないです。前の攻撃を見ていて、「自分ならこう攻略するな」みたいな見方はしているのですか?
A、ありますね、試合に出ていてもそういう見方をするタイミングは。正直、サッカーをプレーしていて、あのエリア(敵陣ゴール前)が一番楽しいんですよ。見ている人もあのエリアでどんなプレーが飛び出すのか、一番期待するわけです。僕がいまやっているポジションや役割は、ゴールを奪うまでの過程の段階です。それはそれで新鮮で面白いと個人的には感じています。確かに自分がトップ下をやっていたときも年間10点とか取る選手ではなかったですが、味方にゴールを取らせる動き、チャンスを導く動きは得意でした。いまの東京の攻撃的なポジションで起用されている選手にも、もっとそういう動きが出てくると面白いサッカーになるんじゃないかなと見ていて思います。

Q、アンカーという新境地で、より自分の領域以外の部分まで視野や意識が広がっている感じですね。
A、オープンな視野で見ることができていますし、チームのことも良い意味で客観的に見ることも増えています。逆に言うと、例えばアンカーをやっていて守備の場面になったとき、相手の選手がどこにパスを出したいか、どこに動き出したいかという狙いを読めるところは自分の中での発見でした。守備については敵の感情や気持ちを察しながらできているところが大きいです。『やっぱりそこに来たか、そこにパス出したいよね』みたいに思いながら守備しています(笑)。


これからの東慶悟と、東京

Q、2013年にFC東京に来て、丸10年です。この先、自分のキャリアの行末をどう感じていますか?もちろんまだまだプレーは続けてもらいたいですが(笑)。
A、第一線で行けるところまではプレーしたいです。いまの自分にとっては、東京でタイトルをめざしてプレーすること。一方で、僕を育ててくれた大分トリニータというクラブもやっぱり特別で、ものすごく感謝しています。もちろん大宮アルディージャにも変わらぬ感謝の気持ちはありますが、僕がサッカー選手としてスタートできた大分への思いは強いです。これは東京での戦いがいまの自分にとっては一番大事だからこそ、みなさんにも理解してもらいたいところでもあります。ここで嘘をついても仕方ないので、正直な思いを話しました。これは僕が勝手に思っているだけで、このさき、最後に大分に戻るかどうかは相手のクラブ事情もあるので、それだけはどうなるかはわかりません。ユースでの3年間、プロの1、2年目。いま年齢を重ねてあらためて思うのは、そういう時期ってものすごく大切だったなということです。

Q、東京のファン・サポーターをあまり寂しがらせるのも良くないですので(笑)、まだまだ続くここでの挑戦、東選手は何を成し遂げたいですか?
A、リーグタイトルしかないです。ルヴァンカップは優勝しましたが、クラブも、選手も、ファン・サポーターも、もうそこ(リーグ制覇)しか見ていないと思います。


Q、現在の東京のサッカースタイルと戦い方で、現実的に勝利、リーグ制覇も手繰り寄せたい。東選手はそのあたりをどう捉えていますか?
A、やっていて思うのは、サッカーのスタイルはマッシモ(フィッカデンティ元監督)時代も健太さん時代も、いまのアルベル監督も当然違いますし、指導者のスタイルはいろいろあって然るべきです。とはいえ、最後に勝敗を決めるのは、細かいディテールの部分です。どんな方向性やスタイルを持っていても、例えばセットプレー一発で先制されたり、ピンチのところで詰めを欠いたり、そんなことを繰り返していてはずっと勝てない。そういう次元の話だと思うんですよ。サッカースタイルはたくさんあるけれど、優勝を狙うためにはそのディテールへのこだわりこそ、どんな集団でも絶対に持ち合わせていないといけないものです。そこは、選手一人ひとりが突き詰めていかないといけない部分。川崎フロンターレや横浜F・マリノスにも、見た目の攻撃的な姿勢や華やかさだけではなく、しっかり勝負どころでのディテールの細かさを戦っていて感じます。抜け目があってはいけない。それが勝負強さに変わっていくと思います。スタイルは大事です。でも試合を決める、勝敗を決めるのはそれだけではないということです。

Q、それをチームに伝える役割を、東選手が担ってっています。
A、若い選手はなかなかそういう意識にまで気持ちがいかない場合が多いです。僕自身、そうでしたから。それがどのチームも簡単にできれば、みんな優勝を経験できるわけです。でも僕はここ数年で、勝負が決まる瞬間の厳しさや怖さをめちゃくちゃ感じてきました。そういう次元、レベルの試合をまたしたいです。優勝争いですね。そこは、健太さんが言っていた『細部にこだわれ』という言葉と通じます。それなくして、スタイルだけを構築しても勝てない。個人の意識を高める、そんな選手をいかに増やすか。優勝を考えた場合、まだいまの東京の選手の意識では物足りないということだと思います。

Q、健太さんの時代の多感な経験が東選手自身にも生きていますし、チームもそれを引き継いでいかないといけないと。
A、そうです。健太さんの時代、あそこまで細部にこだわっていながらリーグ優勝できなかったわけですから。もちろんこだわりがまだ足りなかったかもしれないですが、なおさらここから優勝を狙うのなら、若い選手も危機感を持って、チームの中で温度感が合ってくればいいチーム、強いチームになる。そう思います。

Q、東選手はもうキャプテンではないですが、もはや肩書関係なく、サッカーを、勝負を見る目は不変になりましたね。
A、勝ちたいんですよ、本当に。昔は自分のプレーが良ければいい、でした。いまは、勝つためにやっている。だからそれを周りにも求めます。勝つためにサッカーをする。それが一番のモチベーションです。だから正直、スタイルはなんだっていい(笑)。東京で勝つこと。それだけが本音です。

Q、いまや、東慶悟の勝利後のガッツポーズは痛快です。勝つことに渇望しているからこそですね。
A、1勝の味が濃いですから。その分、負けのダメージもデカいです。優勝するためには、1勝、1勝の積み重ねです。その1勝で2019シーズン、僕らは頂点に立てなかった。ワンプレー、細部へのこだわり。これに尽きると思います。


Text by 西川結城(エルゴラッソ)