人生を豊かにしたいとヨーロッパを飛び出し、遠く離れた日本に居場所を見つけた。アレクサンダー ショルツはキャリアの分岐点で自らに課した誓いを守り、今もピッチに立ち続けている。
「転がるサッカーボールを追いかけ、いつか世界中を飛び回ってみたい」
そんな夢の先で辿り着いた。「世界で一番だ」という人生と、仕事を豊かにしてくれる日本で彼は今、心からサッカーを楽しんでいる。
そんなショルツが青赤に大きなプラスを与えている。これまでは縦に速い攻撃がFC東京の専売特許だった。どちらかと言えばスペシャリストの集団という印象が強く、その歴史を振り返ってもスピード自慢の選手が多く名を連ねてきた。だが、今は一つの戦術を磨き上げる特化型ではなく、すべての土俵で戦える万能型をめざそうとしている。その道を歩むには、ショルツのようなジェネラリストが不可欠だった。

「私が日本にフィットした一番の理由は、メンタリティが合ったことだと思います。日本のメンタリティと自分のメンタリティの相性が良かったように思うんです。自分の強みの一つは継続性だと考えていて、ミスをしなかったり、常にハイレベルで変わらずプレーできたりするところは日本人がリスペクトしてくれる部分。個人的にも自分をよく見せることよりも、周りの選手を引き立たせることを意識してきました。例えば、(室屋)成やイナ(稲村隼翔)、リオ(大森理生)のように、私の周りが良いプレーができているのは、自分も良いプレーができているサインだと思っています」
そのルーツを辿っていくと、浮かび上がってきたのは“力蔵トーキョー”との最適な相性だった。ボールとともにあり続けるショルツのプレースタイルは、チームに落ち着きとビルドアップの安定をもたらしてきた。彼自身は自らを生まれながらのディフェンダーだという。その多彩ぶりを見ていると、過去にさまざまなポジションで起用されてきたとしてもおかしくない。だが、首を横に振って「自分のポジションが好きなんだ」と言い、そのこだわりを語った。
「私はずっとセンターバックでプレーしてきた。サッカーで見ている景色がずっと変わらなかった点も、現在のプレースタイルを確立できた理由だと思っている。サッカーを始めたのは2歳の頃だった。その頃から自由に、ボールとともにプレーし続けてきた。自分にとってサッカーはボールとともにあるものだった。それが今のプレースタイルにつながっている。サッカーを学ぶ時は正しく適切にトレーニングしたいと思ってきたし、ただ楽しむだけという練習はあまり好きじゃない。戦術やシステムのような形がある練習のほうが以前から好きだった。だから、自分は日本サッカーに合っていると思う。私のプレースタイルもオーガナイズされているからこそ、組織化されているチームでプレーしたほうが活きる」
お気に入りの場所から見える景色が好きだった。好きだから探求し、向上し続けられた。そんな選手が昨シーズン夏に青赤に袖を通すと、すぐにチームの戦術に欠かせない存在となった。
そして、今シーズンのFC東京は、明治安田J1百年構想リーグEASTグループで11試合を終え、勝点23で2位につける。16得点8失点は、いずれも首位の鹿島アントラーズに次ぐ2位の数字だ。この順調な歩みを振り返り、「道のりと行き先はこの道で合っていると思える」と言い、手応えを口にする。
「まずチームとして良くなった。より多くの勝点を獲ることができて、負ける試合も少なく、より多くの勝利を重ねることができている。試合の内容を見ても、クオリティの部分でも、選手個人がコンスタントに常に良いパフォーマンスを出せている。監督、コーチ陣も継続してチームをより良くしている。守備はより攻撃的で、毎回というわけではないながらもハイプレスを仕掛けられるようになった。それで守備における全員のスタートポジションが高くなったと感じる。チームとしてはボールを奪ってからのロングレンジと、ショートレンジのカウンターから得点するところにフォーカスを当てているけれど、本当にトップのチームになるためにはボールを持って、より試合をコントロールする必要があるように思う」

一人ひとりの成長とともに、チームとして『何でもできるスタイル』に挑んできた。ボールの保持と奪取を循環させながらも、時には縦に速くゴールに襲い掛かる。ハイライン、ハイプレスをベースにしながらも、自陣ゴール前では泥臭く身体を張ることも厭わない。正しい道を歩んでいるからこそ、より完璧を追い求めていくという。
「昨シーズンは柏レイソルが非常に強かった。特に彼らがボールを持った時は相手がなかなかボールを奪えず、その強さを発揮していた。そして優勝した鹿島はまた違った強みを持っている。ただ、我々の強みはいろいろなスタイル、いろいろな方法でプレーができるところにあると思っている。チャンピオンになるためにはセットプレーでゴールを奪えるようにならなければいけない。そうすればチームはさらに良くなると思っているよ」
チームに不可欠でオールマイティな万能選手は “無事之名馬”とも言える頑丈さで、今シーズンここまでチーム唯一のフルタイム出場を果たしてきた。頼りになるショルツがピッチに立ち続けたいと強く抱くようになったきっかけが、そのキャリアに存在する。
7年という時間を過ごしたベルギーで、2018年1月から所属したクラブ ブルージュでのことだ。
在籍はわずか半シーズンほどだったが、キャリアで最も試合から遠ざかった期間でもあった。加入からベンチを温め、自らと向き合う毎日を途方もなく思ったという。それでも溜め息をのみ込み、段階ごとに正しいプロセスを踏んでいった。時にはコーチに助言を求めながら、自分のプレーの構造を見直す時間に充てた。
そして、自らに誓った。
「次にスタメンで出た時は、もう一生ベンチには戻らない」
当時、自分に約束した固い決意は、今も揺らいだことはない。
「このレベルでできる限り長くプレーをしたいし、森重(真人)や長友(佑都)を見ていると、それがまだまだできるのではないかと思える」

最高の居場所から離れられなくなったことも、そのキャリアに大きく影響しているという。恋に落ちたという日本で、ベストマッチな青赤と蜜月の時を過ごす。その日々を謳歌した後が「大変なんだ」と言って、こう続ける。
「若い時からサッカー選手として世界中を飛び回ってみたいという気持ちはあった。でも、この日本というすごく素敵な場所を見つけてしまった。世界中で一番だ。一番を見つけたのだから、離れる理由はない。人生においても、仕事の環境としても、どちらもこんなに素晴らしい場所は世界中を探しても見つけることはできない。でも、母国に戻る前に、日本ほど豊かな生活が送れない国での生活を挟まなければいけないかもしれない。日本での生活や仕事もあまりにも充実し過ぎていて、このままデンマークに戻るとギャップが大きくなってしまいそうだから……(苦笑)」
人生と同じで、旅は続いていく。ただし、青赤を着たショルツの終着地だけは決まっている。「今は東京をトップに連れていくことを考えているよ。でも、その後は、どうなるかを見てみよう」。頂から見た景色が次なる目的地を教えてくれる。それがショルツの続けてきた、サッカーという名の人生を懸けた冒険だからだ。
(文中敬称略)
Text by 馬場康平(フリーライター)


