降りしきる寒雨に見舞われながら、ひたすら振り子の動きを繰り返してシュートを撃ち続けた。スコットランド戦に出場していた選手たちは、先んじて練習を切り上げて取材に向かう。だが、今回の代表活動で思いがけず出遅れ、ようやくヨーロッパでの初練習を迎えた彼には、通常のトレーニング後にスペシャルメニューが待っていた。それも名波浩コーチとマンツーマンで、大迫敬介、早川友基の両ゴールキーパーに協力を仰ぎ、森保一監督に見守られながら。
長時間のハードな居残り練習を終えて取材エリアに顔を出した19歳は、開口一番に真剣な表情を少し崩しながら「楽しかったです」と笑顔で答えた。

青赤からFIFAワールドカップ2026の出場を狙う佐藤龍之介。大目標に掲げるものは、10代でのワールドカップ出場だ。本大会メンバー発表前では最後の活動となるヨーロッパ遠征に国内組唯一のフィールドプレーヤーとして招集。今回の代表活動に向けて「自分の良さを最後のチャンスで発揮すること、出し尽くすことが一番大事」というコメントを残していた。
3月22日の明治安田J1百年構想リーグ EASTグループ第8節を終え、翌23日に日本を出発。ロンドン経由でスコットランドのグラスゴーに向かい、日本代表のヨーロッパ遠征に参加する予定だった。しかし、経由地で体調不良を訴えて代表チームと別行動に。ロンドンでの静養日を挟んで翌日にグラスゴーへ移動したが、その後もチーム練習に参加できない日々が続いた。
ようやくチームミーティングに合流できたのはスコットランド戦前日。ジムでのマシントレーニングなどで身体を動かし、まずは体調回復を優先。活動開始から出遅れてしまったなか、ロンドンでの練習初日となったイングランド戦2日前のトレーニングで待望の練習合流を果たすことができた。
本大会に向けた“最終選考”の場とも言える今回のヨーロッパ遠征。逆転でのメンバー入りをめざしていたなかで、悔やんでも悔み切れない離脱となってしまった。これほどにボールを蹴りたいと思った時間は、過去にはなかったのではないか。だからこそようやく戻ってきた日本代表という場所で輝きを放ちたいという想いは、より強くなったに違いない。

練習後のミックスゾーンで「まだ試合が残っているというのは幸せな状況」と話した言葉には、最後のアピールをできるチャンスが残されていることへの、素直な喜びが表れていた。
合流初日となった29日のトレーニングは、ビブスを着用して3-4-2-1の主に右インサイドハーフでプレー。リカバリーを兼ねたメニューながら、しっかりと戦術練習にも加わった。そして全体練習後に名波コーチと取り組んだ“振り子シュート”のハードなトレーニングは、チーム全体の協力体制も含めて急ピッチでコンディションを上げていこうというコーチングスタッフの狙い、そして大きな期待が込められていたと考えていい。ともすればイングランド戦に間に合わせるための取り組みにも見えた。
「プラスアルファで負荷をかけてくれて、コンディションが上がるようにチームも協力してくれているので、その期待に応えたい。イングランド戦に向けて最大の準備をしたい。チームは(スコットランド戦で)前半からとても良い試合をしていましたし、自分がそこで早くプレーしたいという想いが強くなった。もっともっとやらないとピッチには立てないとも感じました」と足下を見据えながら自身の成長へ想いを馳せる。
幼い頃から抱いてきた夢、日本代表としての責任、そしてサッカーを楽しむという姿勢。いろいろな想いが合流初日のピッチに込められていたように思う。
「練習でも代表選手として過ごせる日々は特別ですし、得られるものはものすごく多い。そういったところでは今日の練習もすごく大事にしたいと思っていましたし、当たり前じゃないことも感じている。良いトレーニングができたと思います」

イングランド戦が行われるウェンブリー スタジアムは、29日までに前売り券がソールドアウト。FIFAランキング4位、本大会でも優勝候補の一角とされる強豪との試合は、9万人の大観衆で埋まる見込みだ。ここまで練習合流が遅れてしまい、出番があるかどうかが不透明なことは致し方のないところ。本大会のシミュレーションにもなる重要なゲームだけに、彼のコンディションを踏まえた場合に起用は難しいかもしれない。
だが、それでも人事を尽くして天命を待つしかない。捲土重来。「チームとして大事な一戦ですが、個人としてはより自分に矢印を向けて、もしプレーができる機会があれば、自分の持っている力をすべて出したい。このチャンスをどんな形だとしても次につなげたい」と出遅れたところから未来への覚悟を固める。
ミックスゾーン取材の最後、練習中の笑顔が印象的だった彼に「楽しかったみたいだね」とあらためて短く投げかけてみると、「めちゃくちゃ楽しかったです」と笑顔で返してくれた。その想いを大切にしながら、当たり前ではないことを噛み締めながら、ピッチで大きな輝きを放ってほしい。
サッカーの母国が誇る“聖地”でのゲームが、彼の夢を紡ぐ舞台となることを願って。
(文中敬称略)
Text and Photos by 青山知雄


