COLUMN 2026.2.26

“完璧”をめざす両者の歩み

PK戦を含む3連勝でスタートダッシュに成功したFC東京が、昨シーズンの明治安田J1リーグで2位に入りながら特別大会で3連敗と苦しむ柏レイソルを迎え撃つ。対照的な状況にある両クラブだが、チームがめざす方向性や考え方に類似する部分が多いのも事実。果たして両者はいかなる狙いを持って歩んできたのだろうか。それぞれの歩みと現状を分析しながら、試合の行方を左右するバトルを見極めていきたい。


青と赤の首都クラブが自信を蓄えるのか、それとも柏の太陽王が反撃の狼煙を上げるのか──。

両クラブの思惑が交錯する戦いが幕を開ける。

FC東京と柏レイソルの出発点は、ともに“攻撃的なサッカーを実現させたい”ことにあった。その大目標に向けて数シーズンを戦ってきたなかで、そのたびに頓挫してきた過去も同じだったと言っていい。

その負の連鎖から先に抜けたのは柏だった。2024シーズンは残留争いに巻き込まれたものの、昨シーズンは一転して優勝争いを演じた。布部陽功フットボールダイレクター(FD)は、その物語のプロローグをこう語っていた。

「どういうサッカーをやりたいのかを明確にしたことがスタートでした」

ロードマップを策定し、それを託す監督の招聘に三つの条件を挙げた。明確なプレーモデルを持っていること。常にクラブと一緒に “いいモノ” を探る姿勢があること。そして、選手・スタッフの熱量を高める監督であること。その3箇条のプロファイルに一致したリカルド ロドリゲス監督を「一緒に、新しいレイソルを作ろう」と口説き落とすことに成功した。

そこから新指揮官と議論を重ね、志向するポジショナルプレーとハイプレスを組み合わせた戦術にフィットする選手の調査に移った。指揮官が過去に指揮したクラブの関係者からも聞き取りを行い、さまざまな情報も集めた。そのうえで「1年目から良い仕事ができるように選手の人間性も重視し、日本人を中心にリストアップを進めました」と言う。ルーキーを除けば、戦術スタイルを理解できる人材と、過去に一緒に戦った経験がある中堅選手を中心にスカッドを揃えた。また、柏にはアカデミーからボールを大切にする哲学がある。子どもの頃から慣れ親しんだ共通言語が飛び交うなかで、新指揮官の戦術を浸透させていくことに成功する。

布部FDは中長期的な目標を見据え、新指揮官にこう求めていたという。

「やっていて楽しい、観ていて楽しいスタイルの浸透をめざしました。だからこそリカルドには1年目から結果よりも、このサッカーがしたい、このサッカーでやっていくんだという“色”を求めました」

だからこそ、途中何度も訪れた壁からも逃げず、攻撃的なスタイルを色濃くしながら課題を克服するサイクルを作り上げた。そうした過程を貫いた結果、昨シーズンは2位でフィニッシュ。チームはリーグ優勝まであと一歩というところまで躍進した。

同時に明確な課題も残った。地上戦重視のスタイルを得意とする選手が集まった一方で、高さ不足という弱点を露呈した試合も散見された。攻撃的なスタイルを貫くがゆえに、ダイレクトプレーで手薄な守備を狙われた試合も少なくない。シーズン終盤に掛けて、指揮官がチームに語ってきた言葉を布部FDが代弁する。

「リカルドは(昨シーズンの)リーグ終盤に『パーフェクトをめざそう』というフレーズが増えました。自分たちのアイデンティティは攻撃的で、主体的で、意図的なプレーをしようするところにあります。ただ、そこに自分たちで考えて相手の嫌がるプレーをしよう、駆け引きをしようという言葉が増えました。何をされたら嫌がるかを選手が主体的にプレーできるようになってきたことが終盤戦の強さにつながった。引き込んでブロックでしっかり守り切って、そこからカウンターも打てる。そうしたバランスを備えたパーフェクトなチームをめざしていきたい」

一方で、昨シーズンから松橋力蔵監督を招聘した青赤の首都クラブは、辿る道こそ違えども、めざすべき場所は彼らと同じだったと言えるかもしれない。松橋監督はかつて指揮を執ったアルビレックス新潟時代のスタイルではなく、FC東京で独自のスタイルの構築に心血を注いできた。多くの試行錯誤を繰り返し、今シーズンはそこに自分の色を濃く加えていくことで東京らしさと松橋色の融合をめざしている真っ最中だ。

近年の欧州の列強リーグにおいては、何か一つに秀でたスタイルではタイトルに手が届かなくなってきた。すべてを高い次元で兼ね備えたパーフェクトに近いチームが頂へと登る。今シーズンからキャプテンとしてチームをけん引する室屋成は、そうしたトレンドを最前線で目の当たりにしてきた。だから、指揮官の思惑をくみ取り、こんな言葉を吐き出す。

「いつもチーム内で話していることは、ビルドアップが第一になってはいけないということ。東京には(マルセロ)ヒアンのように足の速い選手がたくさんいるし、そこまでビルドアップがどうこうという話ではないと思っている。プレス回避の手段の一つとして形は持っておくべきだと思うけれど、本質的にはできるだけゴールへ速く運ぶためにボールをどう動かすか。東京には走れる選手もいて、守備の強度も落ちない。もう東京は単なるつなぐチームではない。全部ができないと、どこのリーグでも勝てない時代。イングランドのプレミアリーグを見ても、つなぐことだけをやっているチームはない。より効率良く前をめざしたなかでのビルドアップをこのチームに加えていきたいし、そういうチームになっていきたい。リキさんもずっとつなげとは言っていないので」

青赤と太陽王。それぞれの歩んだ道は違ったが、出発地と終着地は同じだ。その道半ばで、今回両者が対峙する。登り着いた互いの現在地が何合目なのかが、ここで分かるはずだ。

さあ、開戦だ。まずは両者とも敵陣でカウンタープレスを仕掛ける展開から幕を開けるだろう。それをしたたかにかいくぐるのはどちらか。一日の長がある柏は、相手の出方に合わせて立ち位置をいくつも変化させていく。形が一つではないからこそ、東京は素早い状況判断でボールの奪いどころを見極めなければいけない。

敵の殿を務める小島と一列前の古賀は、ボールを持てばたちまち司令塔に顔を変える。そこに鮮やかな立ち回りでボールに絡んでくる小泉は厄介な存在だ。その刺客として差し向けるのは、橋本拳人が適材だろう。ただ、橋本拳以外にもボールを刈り取る狩人たちは揃っている。彼らを操るコンダクターに指名したい選手は、売り出し中の常盤亨太だ。自身もボールを奪う力を備えているだけに、彼が太陽王のイレブンをどう罠に引き込むかにも注目したい。

サイドの攻防も見どころとなる。久保、小見、山之内は優れた突破力を備えているが、単騎なら守備能力に長ける長友佑都と室屋でメドは立つ。だが、柏は3バックの両脇に入るストッパーが“第2の矢”となって襲い掛かってくる。そこをどうしのぐかは対戦相手が頭を悩ませてきたところだ。

柏の死角はどこにあるのか。体調不良や負傷者が多くなったことでメンバー選考に苦労し、開幕3連敗を喫した。だが、おそらくこの一戦には昨シーズンの主力メンバーが揃う見込みだ。東京としては、現状は改善がまだ十分な仕上がりを見ていないセットプレーの弱さとダイレクトプレーへの脆さを突きたい。

ただ、東京もセットプレーからの得点は、昨シーズンからの課題であり、キャンプから積み上げてきたセットプレーの精度や練度がここで試されることになる。

自陣に引き込んだところから深さを使った攻撃は、柏が最も嫌がるプレーだ。彼らのダイレクトプレーの脆さを突くという部分で、東京には前節で初得点を挙げたヒアンという格好の存在がいる。柏が誇る守備の要である古賀とのマッチアップは、勝負を左右する重要な局地戦となるはずだ。意図的に自陣に引き込み、アレクサンダー ショルツと稲村隼翔から最前線に良質なボールを届ける“疑似カウンター”は柏にとっては脅威そのものだろう。だが、古賀も「まずは自分のところで負けず、組織として自由を与えないようにすることは僕らのテーマの一つ。昨シーズンを通じて苦手とされた相手に対して、僕らがどういった戦いをするのかを示していきたい」と一歩も引くつもりはない。

無傷の“4連勝”か、それとも初勝利か──。柏のポジショナルプレー(戦略)を読み解き、タクティクス(戦術)で上回れるか。より“完璧”に近付けたチームに軍配は上がることになるだろう。

さあ、賽は投げられた。

(文中敬称略)

Text by 馬場康平(フリーランス)