COLUMN 2026.7.20

裏方の流儀|vol.1 データアナリストチーム

FC東京に在籍する専門スタッフは日々知恵を絞りながらピッチ内外で選手たちとともに戦っている。華々しいスタジアムの歓声を浴びることのない彼らに光を当てると、自らの仕事に誇りを持って汗を流す姿が浮かび上がってくる。

そんな陰日向となってチームを支えるスタッフのお仕事に迫る企画『裏方の流儀』。第1回目は『データアナリストチーム』。そのチームを束ねるヘッドオブアナリシスの藤宏明に業務内容について聞くと、こう言葉が返ってきた。


「主にトップチームのデータから今のチームがどういう状況かを分析しています。もちろんチームの勝利のためだけでなく、継続してチームを強化していくのも僕たちの仕事です。トップチームはもちろん強化部、フィジカル、メディカルのサポートもしますし、僕らは育成にも携わっています。多岐にわたっていろいろなことをやっているというのが僕らの仕事です」

その言葉通り仕事は多岐に渡っている。彼らはトップチームの練習にも常に帯同している。通訳の顔も持つ白水優樹は言葉の翻訳だけでなく、データの翻訳という役割を担う。彼の日常は、練習風景をドローンや設置式のカメラで撮影することから始まる。もう一人の浅原啓人はGPSの管理を担当し、全体練習や居残り練習の走行距離などのデータ計測を任されている。彼らをマネジメントする立場の藤は、練習中はゴールキーパートレーニングの撮影を受け持っている。

練習が終わると、クラブハウスに戻って白水は撮影した映像を編集して選手やスタッフがいつでも見られるように動画共有サイトへのアップロード作業に入る。浅原はGPSのトラッキングデータをフィジカルコーチらが見られるように編集し、ポジション毎やリハビリ中の選手に分類してアップロードするのが日々の業務の流れだ。それを昼過ぎまでには終わらせ、そこで書き出したデータをグループ毎に活用していくという。

「GPSのデータは、パフォーマンスグループを中心に管理、活用しています。また、浅原が作った疲労度のデータ管理アプリを使って選手たちが入力した体感値と、そのデータとGPSの試合や、練習でどのくらい走ったかという数値を組み合わせてオーバーワーク気味になっていないかを確認します」

データを可視化することで、コンディション不良による離脱を未然に防ぐ科学的なアプローチが実現するという一例だ。そうした運用の仕方もさまざまで、各専門スタッフがデータを活用しやすいように全て一元化されているという。

「メディカルの記録に関しては、トップから育成までフォーマット化されています。それを入力してもらって、データと照らし合わせながら練習の強度を抑えた方がいいという風に生かしてもらっています。ケガの履歴もデータ化されているので、それを振り返ってなぜこの時にこういうケガが増えたのかという振り返りにもデータが使われています」

さらに、毎試合の各データは一つの画面に集約し、常に一覧で把握できるようにされている。リーグ全体の立ち位置が分かるように、毎節のレポートも作成しているそうだ。

「試合のデータに関しては1試合1試合のデータも使いますし、対戦相手がどういった傾向のチームなのかを全てダッシュボードで出せるようにして監督やコーチにお渡しして活用してもらっています。節毎にデータをまとめて20チームでFC東京が今どこにいるのかを全てデータで見て、自分たちの立ち位置を確認する作業とレポートの作成も僕が中心になってやっています」

データを可視化することで、客観視しながら課題改善に向けたコミュニケーションまでのスムーズな流れもできている。対戦相手の戦術的傾向や自チームのプレーモデルの成功確率をデータで裏付け、感覚に頼らない論理的なチーム作りにもつながっている。

「可視化することで、例えばトップチームでは何節の何々戦では自分たちのやりたいことができたかどうかをプロットして、自分たちの攻撃も守備もできなかったのか、両方できたのかあるいはいずれかはできていたのかなどを指標化しています。毎試合を振り返って、普段から『昨シーズンはできていない試合が少し多かったけれど、明治安田J1百年構想リーグはこういった試合が多かったよね』と、客観的にデータを見ながら会話をしています」

過去のデータは、特定の局面でのベストな選択肢を導き出すための基準にもなっている。そうした例は新シーズンに向けたプレシーズン期間中にもあったようだ。松橋力蔵監督から「ここが課題だと感じている」と耳にし、それを実際に数値化して現れたデータをミーティングで選手たちに見せて練習で落とし込むケースが直近でもあったという。そうした先回りをして常に求められるデータを準備していることも大切な仕事だ。

「こういうデータもありますよとざっくりと渡すよりも、会話をしながら必要としていることを聞いて『それに使えそうなデータを作ったので見てみますか』という感じで提供することもあります。僕自身は何でもかんでもこういうデータがあった、という風にはしないタイプですね」

膨大なデータを、いかに扱いやすく、見やすくするか。現場のニーズに先回りするその姿勢の裏には、藤が抱く「データへの危機感」があった。

「フィジカルコーチ、コーチングスタッフ、強化部で、それぞれ使用するデータの種類が若干違いますし、見方も異なります。例えばフィジカルコーチは自分の仕事をやりながらデータを分析しなければいけないし、強化担当もいろいろな仕事を抱えながら選手のAとBのどちらがいいのかを分析しなければいけない。だからこそ、それをより使い勝手良く、活用するためにも我々がいるのだと思います」

そして、藤はデータの蓄積こそ「非常に重要です」と言い、こう続けた。

「少し大きな話になってしまいますが、僕も現場のアナリスト出身なので目の前の試合の対戦相手の分析をずっとやってきた経験があります。そういう役割もその人が移籍してしまうと、今までの情報がなくなってしまいます。それは自分でも実感がありましたし、一度現場を離れてデータスタジアムで働いていろいろなクラブのサポートをさせてもらった時も、アナリストが変わるたびにせっかく良い取り組みをしていたのにクラブにデータが残らなくなっていく現実を見てきました」

サッカークラブにおいて、アナリストが蓄積したデータはクラブの未来を左右する資産価値となっている。過去の試合やトレーニング履歴、スカウティング情報を客観的な数値として蓄積することで、戦術の最適化、ケガの予防、さらには選手の的確な価値評価が可能になる。そうしたことが、クラブの財産になっていくのだという。

「今、僕はこのクラブで属人的にならないデータの管理、活用するところまで、しっかりとやり切りたいと思っています。そして結果を出すことで、他のクラブもそういうことをやらなければダメだと、日本サッカー自体がそういったところに力を注がなければいけないという風潮になってほしい。僕の中では、そこまで描いて日々仕事と向き合っています」

だからこそ、藤の目線はさらに遠くない未来も見ている。

「例えばIT企業がスポンサードしているヴィッセル神戸やFC町田ゼルビアは独自のシステム開発なども含めてそうした取り組みを始めています。ただ、FC東京には2クラブと圧倒的に違う強みがあります。それは、アカデミーから継続的に数多くの選手を輩出してきた歴史と圧倒的な実績です。そういった情報や蓄積があるので、他の日本のクラブにはない知見がすでにあるんです。それを活用できれば、再現性を持ってさらに良い選手を輩出していけるはずです。現在、U-12のスカウトを増やしてそういったところにも力を入れていますし、今後のロードマップとしては僕らも一緒になって彼らのサポートをしたいというイメージは持っています」

すでに、選手発掘や、育成の現場においても縦と横の展開が始まっている。

「スカウトのみなさんのスカウト情報履歴をデータベース化して、もっと活用できないかということを今まさにMIXIのエンジニアの方々と一緒に開発している段階です。現在我々のアカデミーの3チームの振り返りは、6週間単位で行われています。例えばターム毎の第1期、第2期ではチームにどんな変化があったかという数字を(育成セクション育成アナリストの)江頭(司峻)にとってもらって、フィードバックもしています。それがゲームモデルに基づいているかどうかもしっかり加味しながらデータの活用を行っています。例えば第1期で自分たちがやろうとしていることにトライしていたのに、第2期の夏のトーナメントでは勝利を優先してとにかく引いてカウンターを用いたとします。それが果たして我々のサッカーなのかを、主観でも分かるようなところであってもデータとして可視化します。アカデミーでも、しっかりと客観視したコミュニケーションの材料としてデータの活用がされています」

こうした試みはトップチームが目指す『ゲームモデル』を数値化・可視化し、アカデミー全体で同じ戦術や評価基準を共有する共通言語を作り上げる一助となっているはずだ。

アレクサンダー ショルツの通訳などを務めることもある白水は、仕事のやりがいについて「大きく分けて二つあります」と明かす。

「一つ目はデータアナリストとして。サッカークラブのデータ活用はまだまだ未知数なところが多く、実際にうまく活用できているクラブは決して多くないと思っています。そういった領域にチャレンジできていることは大きな意義があると思っています」

さらに、通訳として「選手や海外クラブの通訳を任せていただける。それもFC東京ならではの環境。よりグローバルな仕事に身を置けていることは大きなやりがいです」と語る白水の顔には転がるボールの側にいられる充実感がにじんだ。

「将来、サッカーに関わる仕事をしたいという目標や夢がありましたが、それが実現してサッカーに触れられる生活ができていることが日々楽しいと思える。毎試合、これまでずっと見てきたJリーグに関わる週末は本当に充実しています」

一方の浅原も膨大な数字とにらめっこする日々のなかで、ふとした時に「やっていて良かったな」と実感する場面と出会う。

「データアナリストとしていろいろな分野の強化やメディカル、コーチングスタッフに加えてアカデミーも含めて、データを求められた時のためにデータを分かりやすく見やすくまとめることを心掛けています。自分としても成長段階だと思っているので、各分野の方々からデータが見やすかったと聞けることはやりがいになります。選手からデータを求められた時にすぐに答えられるように準備もしています。それができた時に感謝の言葉を聞けるとやっぱり嬉しいです」

飛び込んだ世界の深遠はまだまだ底が見えない。だから、浅原自身の知的好奇心を日々くすぐり続ける。

「データ分析の分野でAIが日々進化していくなかで、自分の知識や学びをアップデートしながら最先端の分析ができることは面白いし、楽しさを感じます」

藤も若いアナリストたちと変わりはない。この仕事の楽しさを見出す瞬間は「単純ですけど、やったことに対して『ありがとう』と言われる時がやりがいなんですかね」と口にする。テクノロジーの進歩は止まらない。でも、最後は選手とスタッフたちとどれだけ泥くさく向き合えるかなのだろう。

「分析のところで、こういうデータを出してとか、こういう資料をまとめてと言われてそれをパッと作って『ありがとう』と言われることもあります。チームの中で、外から見ていてこうなのかも、こういう風にした方がいいと言った時に『ありがとう』と言われることもあります。単純ですけど、僕はそんな感じです」

最先端のテクノロジーやビッグデータと向き合う彼らのデスクワークは肩が凝り、目も疲れるだろう。それでも、ふと「肩が軽くなり、また明日も頑張ろう」と思えるのは、ピッチの片隅や、クラブハウスで何気なく交わされるそんな短い言葉のやりとりなのかもしれない。

(文中敬称略)

Text by 馬場康平(フリーライター)
Photos by Kenichi Arai