「すごいな。え? 点とってないですよ、僕。ヒーローみたいになってるけど(笑)」
スウェーデン代表戦後の取材エリア、長友佑都が少し困惑しながら笑顔でお立ち台に上がる。今大会は試合後に各チームから指定された2選手が壇上で対応することになっているなか、スウェーデン戦で選ばれたのが、この試合で5大会連続となるFIFAワールドカップのピッチに立った背番号5だった。
開口一番に、その想いを語る。
「4年間、このためにやってきたんで、本当に興奮しましたね。やっぱりワールドカップでしか味わえない、この瞬間をまた味わうことができて非常に嬉しいのと、あとは本当にたくさんの仲間もそうだし、家族もファン・サポーターも含めて、たくさんの人に支えられてここまで来られたんで、まずは感謝したい」
5月17日のメンバー選出会見で何度も口にしていた「感謝」という言葉を、偉業を成し遂げた直後のダラスでも使った。試合後で強烈なアドレナリンが出ていたのだろう。少し目を赤らめながら取材に対応していく。
前回のカタール大会を区切りに現役引退も考えていた。だが、クロアチアに敗れたことを受けてもう一度このピッチに立ちたいという想いが膨らみ、年齢や世代交代に抗い、周囲からの厳しい声を受けながら、地道な努力を続けて本大会行きの切符をつかみ取った。

「『お前、やめなくてよかったな』と。『なんで、そんなこと考えていたんだ』と。『ふざけんな』ということを4年前の自分に言いたいです。こんな素晴らしい景色がまた見られるなんて、4年前には思ってもみなかった。4年間、本当に苦しいことが多かったですし、挫折しそうな時もありました。それでも信じて、本当にたくさんの人に支えられて、ここまで来られたことが非常に嬉しい」
待望の出番が来たのは、後半30分のことだった。森保一監督がピッチ脇で最後の交代カードを指示する。声が掛かったのは長友。彼に与えられたミッションは、同点弾となるスーパーゴールを叩き込まれたアンソニー エランガ(ニューカッスル)を封じること。決勝トーナメント進出、順位決定が懸かった大事な場面で託された重要かつ大きな仕事だった。
決して盛り上げ役、経験を伝えるだけの役割ではない──。堂安律はこの時間帯を振り返って、「シンプルに試合状況を見ていて、僕も佑都くんが必要だなと思っていた」と語る。日本代表の伝道師とも言える存在になりながら、「ピッチで勝利に貢献したい」と言い続けてきた長友自身にとっても、しびれるシチュエーションだった。
監督から名前を呼ばれた瞬間のことは「興奮しすぎて覚えていない」。だが、巡ってきた起用法に心が震えた。
「来たか。ついに来たかと思いましたね。とにかく森保さんが信頼してくれていると感じられたことが、まず嬉しかった。負けちゃダメな試合で、しっかりとクローズしなきゃいけない。そしてオランダ相手にもぶち抜いていたエランガをしっかり止めなきゃいけない。非常に難しい展開でしたけど、自分ならやれると思って準備してきた。選手として来ているんで、ここまで試合に出られなかった悔しさもあった。本当に腐らずに準備してきたことがつながった。チームメイトもベンチからめちゃくちゃ声を掛けてくれて、エグいくらいに応援してくれたんで、彼らにも感謝したい」
今大会のトレードマークになったヘアバンドを巻き、左ウイングバックのポジションでピッチに送り込まれた。バランスをとりながら対峙するエランガを警戒し、折を見たオーバーラップからクロスボールを供給しようとトライしていく。自分が全力でチームを盛り上げてきたように、今度はベンチから仲間たちが自分に大きな力を与えてくれた。そしてチーム一丸となってスウェーデン攻撃陣を封じ込んでホイッスル。1-1のドローでグループFの2位通過を確定させ、決勝トーナメント1回戦でブラジルとの対戦が決定した。

試合直後のフラッシュインタビューで口にした「マンマ ミーア」というフレーズが話題を集めた。前回のカタール大会ではドイツを撃破した直後に「ブラボー!」と叫んでバズったが、今回は「勝ってなかったんで、前回みたいに勢いよくって感じじゃなかったですけど」と苦笑いしつつ、「堂安(律)とか(渡辺)剛がいろいろ案を出してくれた。何を言うかは決めていなかったけど、試合後のテンションとかアドレナリンで降りてくる言葉を信じた」と舞台裏を説明する。
ついに一発勝負のノックアウトステージがスタートする。相手はサッカー王国ブラジル。相手にとって不足なしだ。長友個人としては過去4大会で3度も阻まれてきた決勝トーナメント1回戦の壁。だからこそ勝ち上がるために必要なものを痛感している。
「ロシア大会はベルギー相手に2-0とリードしながら誰も試合を締めようとせず、イケイケの状態で逆転負けを食らった。トーナメントを勝ち上がるためには賢さと冷静さ、ずる賢さが必要だと思う。どういうプランでゲームを進めるのか。延長戦やPK戦を使って勝ちにいくのか。その冷静さとチームの意思統一が非常に重要になる。ブラジル相手に勝つためには、過剰にリスペクトせず、勇敢に戦う必要がある」
過去の経験を糧に、冷静な口調で淡々とノックアウトステージに必要な戦い方について説いていく長友。だが、歴史を知る彼にだからこそ、どうしても聞いておきたいことがあった。取材が終盤に差し掛かったところで、大きな声でズバッと質問を差し込んでみる。
「日本サッカーの歴史においても、長友佑都という選手のサッカー人生においても、今回のブラジル戦は本当に大きな試合になる。この試合が持つ意味をどう考えているのか──」
背番号5がこちらを向く。視線が交差する。その瞬間、一気にスイッチが入ったかのように目を見開き、一瞬の間を空けて、力強く答えを返していく。
「いやいや、もう大きい。本当に大きいし、日本サッカーについてもそうだし、とにかく日本中にこの日を忘れさせない、忘れられない一日にします。本気のブラジルに勝つということはそういうこと。みなさんの人生のなかでワールドカップに関わって良かったと心から思えるような日に絶対にします」

スウェーデン戦後からブラジル戦に向けてずっと冷静に語ってきた長友。経験を活かしたコメントの重要性も理解しているし、実際に勝つためには絶対に必要な要素だ。だが、それも熱量というベースがあってこそ。重要なゲームに向けて、どうしても彼の想いを聞いておきたかった。チームメイトを巻き込んできたように、もっと大きな巻き込み力になるコメントをお願いしたかった。そして返してくれた言葉には、こちらの目頭が熱くなるような力強さがあった。取材の輪が解けた後、個人的に「ありがとう」と伝えながら、「頼みます」と一言だけ添えた。
モチベーションは最高潮。覚悟は固まっている。ここまで積み上げてきた想いと努力のすべてを懸けて、森保ジャパンと長友佑都がブラジル代表との大一番に挑む。
(文中敬称略)
Text by 青山知雄
Photos by Kenichi Arai
