「もうシンプルに、『ここまで来て良かった』という安心感と嬉しさ、だけでしたね。『本当にできるのかな……』とずっと思っていたので、一番はホッとした気持ちが大きかったです」
FC東京というクラブにとって、“特別な1日”が終わった直後の率直な感慨を、平野幸希は少しだけ懐かしそうに振り返る。2025年4月19日。初めて高円宮杯プレミアリーグが味の素スタジアムで開催された日。その陰には、青赤の未来を担う若者たちに最高の舞台を用意したいと願う、多くの人たちの想いが集まっていた。

もともとアイデイア自体は、常に頭の片隅にあったという。平野が所属する部署は『運営統括本部 フットボール推進部アカデミー事務局』。普段からU-18の活動を間近で見てきた中で、彼らの地道な努力や、サッカーに懸ける純粋な気持ちを知っているからこそ、プレミアリーグの試合を味スタで開催できないかと、ずっと考えていた。
きっかけはU-18を率いる指揮官の情熱だった。
「2025年まで監督だったユキ(佐藤由紀彦)さんの、選手たちに対する熱い気持ちを聞くなかで、『やれたらいいな』という想いが強くなったんです」

前U-18監督の佐藤由紀彦と会話を重ねるうちに、平野の内側で『プレミア味スタ開催』への意欲が高まっていく。
とはいえ、もちろんそのためのハードルは低くない。一番大きな懸念点は、スタジアム自体を押さえられるかどうか。そもそもFC東京と東京ヴェルディがJリーグの試合で使用しているうえに、各種イベントも頻繁に行われている会場であり、その空き状況とプレミアのスケジュールが完全にマッチする必要がある。
加えて味スタ開催となれば、準備や運営もアカデミースタッフだけで完結できる規模ではない。クラブとして、その1試合にどれだけリソースを割けるかも無視できないポイントだったが、平野は『プレミア味スタ開催』の実現へ向けた二人のキーマンの存在を思い出す。
「いつもトップの試合に携わっている運営部スタッフが、もう手取り足取り教えてくれました。僕は味スタに年に2、3回しか行かないので、それこそどこに何があるかも、どうやってお客さんを入れていいのかもほとんど分からなかったなかで、スケジュールの調整も含めて、試合に必要なことは全部動いていただきました」
「あとはやっぱり浅利悟(アカデミーダイレクター)さんですね。長くクラブに在籍されていて、アカデミーにも長く携わっていらっしゃる方なので、『どうにか味スタでやりたい』という想いを伝えてくださったことで、『浅利さんが言うのだったら』『アカデミー生がそんなに東京のことを思っているのだったら』という考えがクラブスタッフのみなさんに波及して、すごく、すごく、いろいろなことを協力的にやってもらえました」
東京に関わるスタッフの協力に次ぐ協力が重なって、本格的に構想が始動してから3か月近い時間が経った2月末に、『プレミア味スタ開催』の試合日が4月19日で決定する。そこに至るまでも、そこから当日に向けても、平野はクラブの一体感を実感し続けていたという。
「もうみなさんが『ファン・サポーターの方々の動線はこうしたらいいよ』とか、『それだったらグルメも出した方がいいんじゃない?』とか、『チームのYouTubeも入れた方がいいんじゃない?』『それならスクール生も招待しなきゃ』とか、もう僕がいなくてもできるんじゃないかというぐらい(笑)、本当に積極的に動いてくださったのが心強かったですね」
クラブ初の『プレミア味スタ開催』が実現することの意味は、選手たちもはっきりと理解していた。
「本当にクラブの人たちが相当動いてくれたと聞いて、『自分たちのようなアカデミー生のことを大切にしてくれているんだな』と感じましたし、それに加えてトップチームのホームスタジアムなので、『絶対に勝たないといけないな』というモチベーションが高まりましたね」(田中希和)

「今まで味スタではプレミアをやったことがないと聞いていたので、初めて開催されるということにビックリしました。でも、並の協力で実現してもらえる機会ではないことも分かっていましたし、味スタで試合をするのはみんなの目標でもあったので、プレミアでそれができるのは、率直に凄く嬉しいなと思いました」(友松祐貴)

東京を陰日向になって支えるクラブスタッフの想いと、ピッチに立つU-18の選手たちの想いと、どんな時もアカデミー生を温かく見守り続けてきたサポーターの想い。さまざまな覚悟が交差する中で、とうとうその日がやってくる。
2025年4月19日。市立船橋高校を迎えた『プレミア味スタ開催』は、波乱の幕開けとなった。8分に先制点を献上すると、28分には追加点を奪われ、東京はいきなり2点のビハインドを負ってしまう。
「『ヤバいな』とは思ったのですが、正直あまり負ける気はしなかったですね。この感じだったら十分点は返せるなと思っていましたし、逆にそうなったら、もっと盛り上がるんじゃないかなって」(田中)
次の得点を挙げたのはホームチーム。35分。中央を友松祐貴がドリブルで切り裂き、高橋裕哉がスーパーなミドルを叩き込む。「何かある記事で『相手に当たって、高橋が……』って書かれていたのですが、あれはちゃんと僕のアシストです(笑)」(友松)。試合は1点差で後半へ折り返す。
58分。東京が追い付く。左サイドで友松のパスを受けた高橋が正確なクロス。中央に走り込んだ田中のシュートが、ゴールネットを揺らす。「特別な感じがしましたね。観客席のどよめきとか、音の反響の仕方はいつもと違いましたし、メッチャ盛り上がっていて嬉しかったです」(田中)。2-2。スタンドの空気が、ピッチの選手の背中を力強く後押しする。
69分。東京がスコアをひっくり返す。右サイドから菅原悠太がクロス。ディフェンダーのクリアに反応した友松がヘディングで残すと、田中が確実に、丁寧に、ボールをゴールへ蹴り込む。「まあ、ごっつぁんゴールでしたが(笑)、同点ゴールの時よりも盛り上がって、自分の気持ちも凄く高ぶりましたし、スタジアムで点を決めた時の雰囲気は普段のピッチで感じられないところがありました」(田中)

貴重なアシストを記録した友松は、この逆転ゴールに理屈を超えた何かを感じていたそうだ。
「あれはベンチに入っていた選手も含めた、18人のチカラだけではなくて、応援してくれていたファン・サポーターの方とか、応援に来てくれたU-15むさしとU-15深川の選手の力があってこその、3点だったと思うんですよね」

味スタの上に広がる青空へ、タイムアップのホイッスルが吸い込まれる。3-2。執念の逆転勝利。すると、ピッチサイドから試合を見つめていた平野の視界に、“あの人”が駆け寄ってくる姿が飛び込んでくる。
「試合終了のホイッスルが鳴った直後に、ユキさんが僕の元に寄ってきてくれて、熱い抱擁をしてくれた時に、グッときましたね。そのあとは選手たちも次々にきてくれて。初めての経験で、いろいろなハードルもあって、大変なことではあったのですが、『やっぱりやって良かったな』と思えましたし、東京に入ってから一番刺さったというか、心に強く残る経験でした」
みんなで協力して開催にこぎつけ、選手たちが劇的な勝利を掴んだ、東京のクラブ史に残る初めての『プレミア味スタ開催』は、平野にとっても生涯忘れ得ぬような、最高の体験だった。
2度目となる『プレミア味スタ開催』は、今週末に迫っている。6月29日。相手は昨シーズンのプレミアを制した鹿島アントラーズユース。今回もいくつもの障壁を乗り越えて、この舞台を用意するに至ったが、平野はクラブとしての経験値がもたらした影響を、こんな言葉で教えてくれる。
「今回も運営部をはじめ、去年以上にいろいろな部署の方が協力してくれましたね。みなさんが『アカデミー生にとっていいことだから、頑張ってやろう』という空気感を持ってくださっていることを感じました」
「たぶん去年の1試合で、他の部署のビジネススタッフの方々も、アカデミーに対してより親しみを持ってくれたというか、『U-18ってこんなことをやっているんだ』と認識していただくきっかけになったのかなと。もちろん今までもクラブの中の一部ではあったと思うのですが、よりみなさんがアカデミーというものを意識してくれるようになったのかなと感じています」
今回はアカデミー全体のイベントという位置付けで、昨年以上にさまざまな取り組みを増やしている。とりわけU-15深川とU-15むさしの選手たちは、試合当日もボールパーソンに加えて、プレミアリーグのパンフレット販売や、アカデミー生をサポートする『FC TOKYO ACADEMY PARTNER・SUPPORTER』というシステムを、来場者に紹介する役割を担当するという。
そこには、これからの青赤を背負い得る中学生に対して、より未来へのモチベーションを高めてほしいという、クラブからの強い願いが込められている。
「U-15の選手たちにも、『東京に所属している』という帰属意識をより持ってほしいですし、たくさんのお客さんが来てくださるので、『こういう方々に支えられているから、東京があるんだ』という理解や、たくさんのビジネススタッフと関わることで、『これだけクラブで働いている方々がいるんだ』という理解も深めてほしいなと。試合に出る選手だけではなくて、アカデミー全体でいろいろな意味を持った一日にしたいなと思っています」(平野)
1年前の『味スタプレミア』の主役をさらい、今季からはトップチームでプレーしている田中は、かけがえのない思い出を振り返りつつ、後輩たちへの期待をこう口にする。
「ああやって公式戦というリアリティのあるなかで、味スタで試合をさせてもらったことで、自分たちのトップチームへ昇格したいという欲も上がりましたし、本当に良い経験になりました」
「今回も『味スタでは絶対に負けてはいけない』という気持ちを持ちつつ、トップチームに上がった時の自分を想像しながら、プレーしてほしいですね。特に友松選手は去年から一緒にプレーしてきて、大舞台にも強いタイプだと思っているので、自分みたいに2点ぐらい決めてもらって(笑)、チームを勝たせてほしいです」

1年前の『プレミア味スタ開催』では3得点全てに絡み、今季はU-18のチームキャプテンを務める友松も、自分たちのやるべきことは十分すぎるほどに分かっている。
「自分が小学生のころに味スタで試合を見た時は、プロの選手の背中がカッコよくて、『あのピッチに立ちたい』と思わされたので、今度はそれを自分たちが見せる番だなって。ただ綺麗にサッカーをやるのではなくて、泥臭くても身体を張ったりして、アカデミーの後輩たちに『こういう選手になりたい』と思わせるような試合にしたいなと思います」
「去年のプレミアでは2敗しているアントラーズが相手で、会場も味スタで、負けられない要素は揃っているので、もう勝つしかないなと。去年は10番をつけていた希和が2点獲ったので、今年の10番の自分は、希和より上の結果を出したいですね」
連なる歴史は、強い想いを持った者たちによって、脈々と受け継がれていく。味の素スタジアムで開催されるプレミアリーグ。青赤のクラブ史に新たなページを刻みつつある、この特別な1試合のスタンドへ、今回も一人でも多くのサッカーを愛する人々が集うことを、願ってやまない。

Text by 土屋雅史(サッカーライター)


