COLUMN 2026.5.14

まだ見ぬ景色のために

そのサッカー人生の第1章は、FIFAワールドカップ2018ロシア大会の日本代表メンバー落選で、ひっそりとピリオドを打ち込んだ。それでも、負傷によるメンバーの入れ替えが可能なコロンビアとの初戦の24時間前まで一人、小平グランドを走り続けた。求道者然とした、彼らしい円環の閉じ方だった。

そして、第2章の幕開けとなった2019シーズンの明治安田J1リーグで、初めて優勝まであと一歩と近づいた。そのシーズン初ゴールを決めたお立ち台で誓った。

「優勝しましょう!」

男の目標や夢は年を重ねるごとにそぎ落とされ、多くを望まなくなった。それだけが残り、今も追い続けている。

「オレは、優勝を味わいたいだけだから」

青赤なら知っているはずだ。そんな諦めの悪い男の名と、39歳を過ぎても現役として味の素スタジアムのピッチに立ち続ける森重真人の起伏の激しいキャリアを──。

「それ以外は何も求めていない。東京がリーグ優勝することが最大の目標で、そのためにすべきことはいろいろある。でも、そんな細かいことなんて言葉にする必要はない。オレは優勝したい。それだけ。でも、オレだけが思っていてもダメだし、それにふさわしい選手たちが揃わなければいけない。それぞれがそれぞれの役割のなかで力を発揮すれば、自ずと優勝は見えてくる」

望んでも、これまで届かなかった。だが、秋春制へのシーズン移行に伴う明治安田J1百年構想リーグで、あの日の宣誓へと近付いた。

「ハーフシーズンとか、この大会のレギュレーションとかは置いといて、やっぱり東京が優勝争いをするとか、勝ち続けるとか、この雰囲気や、景色をオレは欲してきた。東京はそうじゃないといけないという想いはずっとあった。それにふさわしいチームになり始めている。今シーズンは一歩外から見ることが多かったので、なおさら東京はこうじゃなきゃと思いながら見ていた」

しかし、好調を維持するチームをけん引してきたのは自分ではなかった。7年前にともに優勝争いを演じた室屋成と橋本拳人がヨーロッパから復帰。新たなリーダーとして今大会の青赤を盛り立ててきた。

「間違いなく彼らが今のチームの中心にいる。その二人がいなかったら優勝争いはできていない。若い時にFC東京で経験を積んで、海外や代表でもいろいろな景色を見て、また東京に戻ってきた。優勝するためにはその経験値が必要だと、あらためて彼らを見ていて思う」

さらに、長年守り続けてきたセンターバックの定位置には、昨年6月にアレクサンダーショルツが加入。“打倒森重”を掲げる稲村隼翔、大森理生ら年下のライバルも台頭した。スカッドには多士済々が名を連ね、この特別大会は開幕からベンチを温める日々を過ごしてきた。さらに3月4日の練習中に左ハムストリングス肉離れを負い、一時は戦線を離脱してしまった。

「ショルツやイナ、リオも良いプレーヤーなので、試合を見ながら彼らの良さを再認識したし、そこで “自分も”という想いを抱いていたなかで怪我をしてしまった。それからは悔しさよりも自分のリハビリに集中していたし、同時にチームも良い状態がずっと続いていたので、それほど焦りはなかった。逆に、チームの状態が悪かったらもっと焦っていたと思う」

チームは森重不在の期間に勝点を順調に積み上げ、昨シーズンのリーグ王者 鹿島アントラーズと地域リーグラウンドEASTグループで首位争いを演じてきた。

負傷が癒えて戦列に帰ってくると、悔しさがフツフツと湧いてきた。その小さな火に薪をくべると、気炎を上げてメラッと燃え上がった。

「試合に出たい気持ちが強く芽生えた。やっぱりオレは競争のなかで成長してきた選手だし、それが自分を高められた要因でもあると思ってきた。この年齢で自分の中に火がまたついた。年齢も年齢だからといって、それを言い訳にして終わっていくのではなく、そこからもう一度、取り返すんだと競争心が芽生えた。そういう環境に今、自分がいられたことはすごく幸せなことだと思っている」

来るべき時を待ち、足を止めなかった。あの日のように──。

4月24日の第12節水戸ホーリーホック戦でベンチ入りし、後半43分から途中出場で今シーズン初出場を飾った。負けられない試合が続くなか、第15節のジェフユナイテッド市原・千葉戦でチームは0-3で敗戦。首位 鹿島の背中が遠のくなか、続く東京ヴェルディとの大一番で松橋力蔵監督が背番号3に守備の建て直しを託す。

「気持ちの波も、コンディション的にもすべてがバチッと噛み合った。だから不安はなかった」

シーズン初スタメンとなった東京V戦。だが、味の素スタジアムに充満する熱量にも、バチバチの球際にも「驚きはなかった」。それ以上に熱くなっている森重と、その隣にも日本で唯一無二の熱原体が存在したからだ。頬にいつものエクボをたたえて言う。

「この半年間の悔しさをぶつける熱量もそうだし、(長友)佑都くんと一緒に復帰して『やってやるぞ』という想いがあった。あの試合以上に熱い人が自分の左側にいて、もっと熱いものに触れてきたから驚くことはなかった。ピッチに立って、あらためて試合に出る喜びを感じられた。試合に出てナンボだなって。結果はやってみないと分からない。でも、もう試合になったら開き直って、結果はどうあれ、やるべきことをやれば大丈夫という自信があった。今の東京は連敗するチームではないと外から見ていて分かっていたから、ある意味落ち着いて臨めたと思う」

開始10分に、左サイドを駆け上がる長友に向けて左足でロングフィードを届け、同35分には代名詞のキックフェイントで会場をどよめかせた。

後半4分には左サイドの直接FKから佐藤龍之介のクロスを頭で合わせてゴールを脅かした。随所に“らしい”プレーを見せ、やるべきことを出し尽くしたうえで同41分、稲村にバトンを託した。

1-1で迎えた後半アディショナルタイムに長倉幹樹の劇的弾が決まった瞬間、森重もベンチから飛び出て、ホームゴール裏にできた歓喜の輪に最後に加わった。

「やっぱり幹樹か、と(笑)。あいつはやっぱりやってくれる。素晴らしいプレーヤーだとあらためて感じたよ」

残り2試合で、鹿島との勝点差は4。首の皮一枚でつながった。思えば2019シーズンもそうだった。第32節の湘南ベルマーレ戦、0-1で敗色濃厚な後半アディショナルタイム4分に森重の劇的ゴールで望みをつなげた。

「2019シーズンもそうだけど、一つとりこぼすことでかなり苦しい状況に追い込まれる。優勝争いをするなかで、残り5試合くらいの戦いは欠かせない。可能性が最後まで残っていることが大事だし、最後まで優勝争いを演じることが重要。それを経験したメンバーの大半はここにはいないけど、今回のハーフシーズンで優勝争いをするなかで、振り返った時にあそこがターニングポイントだったという経験値が残る。どちらに転んでも、優勝争いをしないと得られないものはきっとある。結果は分からないけど、この経験は必ずクラブの財産になる。ラスト2試合、他力にはなるけど、最善を尽くしてあとは待つことができればいい」

プロ21シーズン目にして、まだ見ぬ景色がある。ただし、その絵は霞むことなく、鮮明に描けている。今シーズンここまで出場機会のない青赤の10番と同じピッチに立ち、頂に登る大団円だという。

「もちろん最後は、アイツがやってくれるとオレは思っている。(東)慶悟も、オレも、佑都くんも、三人が一括りで“おっさん”って見られる。そのなかで慶悟とオレは一番付き合いが長い。良い時も一緒にやってきたし、苦しい状況でもお互いを支え合ってきた。慶悟の人間性と、サッカーに対するまっすぐな気持ちや立ち居振る舞いも含めて、やっぱりオレは慶悟と二人でシャーレを掲げたい。佑都くんにはワールドカップに行ってもらって、そのシャーレアップの写真を送りたい」

そう思い描いても、「人生は意外と不公平だ」ということを誰よりも知っている。負けず嫌いが青赤を着て歩んできたキャリアは、終幕へのカウントダウンが近付いてきている。付き合いは指折り数えて2週目の17年に及ぶ。月日の長さだけ、共有してきた物語の数も増えた。そのほとんどが、苦みに満ちた敗戦の歴史だ。悔しさでピッチに拳を打ちつけ、怒りに震える姿を何度も見てきた。

それでも、だ。誰かに諦めが悪いと笑われようとも唇を噛み、重い腰を上げてファイティングポーズをとり続けてきた。それが僕らのよく知る森重真人という男の人生のあり方だからだ。

だから、だ。苦み走ったいい男の笑顔と、「優勝しましょう」のあのフレーズが今、何度もリフレインして胸の深いところに響いてくる。

 

(文中敬称略)

Text by 馬場康平(フリーライター)